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すいませんでした。

投稿していた気になっていました。

申し訳ない。

もう少しだけど時間はかかるかもしれませんが、気を引き締めていきます。

 エトラス王国。東。

 そこで行われている戦いにおいて、状況は変わりつつある。

 少し前まで、この戦場では多国籍軍の隊長クラス以上が狙われ、討たれ、一時的に場が混乱するという隙が生まれ、そこを魔族と魔物の軍勢に攻められて、不利な状況に陥るといったことが戦場の各地で起きていた。

 といっても、それで起こる混乱は最小限に収められている。

 それだけ集められた多国籍軍が優秀である、ということを証明しているだろう。

 ただ、この差は大きい。

 何しろ、そもそもの話として、それだけ優秀な多国籍軍が作られ、相手を数で上回っていようとも、その相手である魔族と魔物の軍勢には、真正面からぶつかっても勝てるかどうかはわからない――いや、それでもどちらかと言えば不利の方に天秤は傾くだろう。

 それだけ、魔族と魔物の軍勢というのは集団としての力ではなく、個としての力が脅威なのである。

 それこそ、単独で戦況を優勢から劣勢に、劣勢から優勢に変えることすらできる――のが居てもおかしくないのだから。

 この戦場にも、それだけの個の力として特出している存在が居た――先ほどまでは。

 今はこの戦場には居ない。

 その居ないという状況が与えるこの場の影響は大きかった。

 特出した個という存在はそれだけ大きかったのだ……他の存在を隠してしまえるほどに。

 そんな存在が居なくなれば、当然隠れていたモノは陽の下に晒される。

 また、時間も経ち過ぎた。

 時間が経つということは、それだけ慣れていくということでもあるのだ。


「……そこだっ!」


 多国籍軍の隊長クラスの一人が剣を振るう。

 そこは何もない空間――だったはずだが、そこから鮮血が舞う。

 同時に、そこから人の大きさほどの武装したカメレオンが姿を現わして倒れる。

 姿を消して――周囲の風景に擬態、同化して暗殺を行っていた。

 だが、そこから消える訳ではなく、見えなくなっているだけなのだ。

 そこに居るのは間違いない。

 隊長クラスの一人は、そういう存在がこの戦場に居るとわかれば、あとは気配を探るだけで斬れる。

 それだけの技量の持ち主である、というのもあるが、多国籍軍は総じて優秀なのだ。

 隊長クラスなら尚のこと。

 これまで各所で行われていた多国籍軍・隊長クラスの暗殺は、阻止される、あるいは返り討ちにするといったことが続いていく。

 そうなると状況は変わってくる。

 何しろ、これまでは隊長クラスの暗殺の隙を突いて、魔族と魔物の軍勢は自分たちが優勢な状況を作っていたのだ。

 それができなくなり、今度は真正面からの戦いとなる。

 そして、未だ数は多国籍軍の方が多い。

 状況は多国籍軍の優勢へと傾こうとしていた。


     ―――


 戦場から少し離れた場所にある森の中。

 近くの戦場がそのようなことになっているのを知ってか知らずか……いや、なんとなくだが知っていそうだが、それでもこの場から離れるようなことはなく、森の中には二人の男性が居た。

 一人は、ヴァレード。

 いつものようにとうか、笑みを浮かべて相手を見ている。

 その相手となる一人は、銀髪のオールバックで、優男といった顔立ちの、左右から黒い角がうしろに向かって流れるように生えている、魔族の男性。

 細身の体型に上下黒レザーで、如何にも暗殺者といった服装であった。

 名は「エンバー」。

 ただし、二人の状況はまったく違う。

 ヴァレードは飄々と立っているだけなのだが、エンバーは木にもたれかかっていた。

 といってもエンバーは疲れて休んでいるとか、そういったことではない。

 木にもたれかかっているのは、既にダメージを負っているからだ。

 受けたダメージを確認するように、腹部へと手を当てるエンバー。

 襲い、反撃を受けたのだ。

 そんなエンバーの視線はヴァレードに向けられており、憎々しげに見ている。

 そんな視線を向けられていても、ヴァレードは特に思うことはない、といった雰囲気であったが、その代わりという訳ではないが、エンバーに向けている視線と雰囲気にはどこか落胆が含まれていた。


「正直に言えばガッカリですね。折角、こうしてあなたの目の前に姿を晒したというのに、この程度であったとは……落胆、と言う他ありませんね。まさか、何か策を弄することもなく真正面から襲いかかってくるとは」


「……はっ。それは仕方ない、だろう。いきなり目の前にお前が現れたんだからな。我を忘れて――というヤツだ」


「なるほど。我を忘れて、ですか。それなら納得ですね。しかし、それはそれで疑問があるのですが? それについてお聞きしても? ああ、もちろん、答えることで回復するための時間を稼いでもいいですし、そもそも別に答えなくてもいいですよ。どうしても、何があっても知りたいという訳ではありませんので」


「そうか。どうしてもではないが、多少なりとも知りたいってことだろ? なら、聞こうじゃないか。答えるかどうかは俺次第。なら、あえて教えてやらないことで、多少なりとも不快を与えられるのなら、それはそれで面白い」


「……ああ、確かにそうですね」


 今気付いた、というように、ポンと手を打つヴァレード。


「確かに、多少なりとも不快にはなるかもしれませんね。もやもやするでしょう。ですが、それだけのことでしかない、とも言えます。一晩寝て、記憶に残るか忘れるか……結局のところ、その程度でしかありません」


「……チッ」


 苛立たしげに舌打ちをするエンバー。

 ただ、ヴァレードから見るとエンバーの態度は質問してもいいように見えたので尋ねる。


「私があなたに問いことは一つ。どうしてそこまで私を目の敵にしているのでしょうか? そもそも、いつかだったか突然あなたが襲いかかってくるようになりました。それ以前からこれまでで、私があなたに何かをした覚えがないのですが?」


「……ハッ、ハハ……ハハハハハ……」


 エンバーは笑い出し、ヴァレードを指差す。


「そうだ。それはそうだ。別に、お前が何かをした訳ではないさ。お前の存在。お前の立場。そういったモノが俺のような存在を敵に回す」


「あなたのような存在、ですか?」


 ヴァレードはピンと来ないと首を傾げる。


「……ああ、そうだ。俺のような暗殺に特化している者たちからすると……お前の存在は邪魔なんだ。何をしようとも、どれだけのことを成そうとも……二言目にはお前が出てくる」


「私が、ですか?」


「そうだ。『ヴァレードほどではない』、『ヴァレードならもっと……』と、結局のところ、お前の方が優秀で強い――という評価は決して変わらない」


「私も随分と有名になった――いえ、有名だったのですね。まっ、他人がどう思っていようがどうでもいいですが」


「だから、邪魔なんだよ。目障りなんだよ。お前が居る限り……いつまでも、いつまでも……上に居て……だから、証明するのだ。お前を殺して……俺の方が上だ、とな!」


 言い切った瞬間、木にもたれかかっていたエンバーの姿が消え――ヴァレードの背後に現れる。

 同時に、エンバーの手には黒い短剣が握られており、ヴァレードの首に向けて突いていた。


「油断したな。俺の方が下だ、と。だから、安易に回復させてしまうんだ。それが、お前の死因」


 エンバーは口を開きながら行動をし続けている。

 突かれた黒い短剣はヴァレードの首元に触れ――そのまま突き抜けていく。

 黒い短剣が刺さり、抜けていった訳ではない。

 ただ、空を突き抜けていっただけなのだ。


「なっ」


 エンバーが驚きの声を上げる。

 必中の速度とタイミングであったからだ。

 なのに、かわされた――というのは、エンバーに少なからず動揺を与えた。


「理由を話していただきありがとうございます。その気持ちはわかりませんが、教えていただいてスッキリしましたので、お礼に殺してあげましょう」


 動揺していたエンバーの背後にヴァレードがその姿を現わし、エンバーの心臓辺りを狙って手刀を突き出す。

 しかし、ヴァレードの手刀は空を突く。


「おや?」


「お前がかわすことくらいはわかっていた。逆にお前は想像していたか? お前の攻撃をかわせるヤツが居るということを」


 再びヴァレードの背後にエンバーが現れ、黒い短剣を振り抜く。

 鮮血が舞う。

 黒い短剣をかわそうと動いたヴァレードであったが、その際に黒い短剣が頬をかすめたのだ。

 そう。かすめただけで、頬に短い赤い線ができただけ。

 血が舞ったといってその量は僅かでしかない。

 大したことではない。

 人によっては、この程度傷とも思わないだろう。

 しかし、傷は傷である。

 エンバーの攻撃がヴァレードに届いたのは間違いない。

 ヴァレードは頬の傷に触れ、手に付いた自分の血を見る。


「……なるほど。さすがは魔族と言うべきか、それなりに強いということですね」


「それなりだと? いいや、違うな。お前を殺せるだけの強さを持つ魔族だ」


 エンバーが黒い短剣をもう一本取り出し、両手に持って身構える。

 ヴァレードの飄々とした態度は変わらないが、それでもその目はエンバーをしっかりと見ていた。

 自身の命を狙う敵である、と。


「……いいでしょう。これからも突っかかってくるとなると面倒この上ないですし、しっかりと見せてあげます。あなたが敵意を抱いた、この私という存在を。途中で目を瞑らないことをオススメします。お見逃しのないように。その命が尽きるまで」


 ヴァレードが酷薄とした笑みを浮かべる。

 エンバーを見る目には、ハッキリとした敵意が宿っていた。

 両者から濃密な殺気が溢れ出し、この場の空気が一気に重くなる。

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