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本当に申し訳ございませんでした。

書いて満足して投稿を忘れていました。

すみません。

暑さに負けそうですが、気を付けていきます。

 西、南西、東、南東での戦いが始まったように、南での戦いは既に始まっていた。

 数の面で言えば、ここは他の四つの方面と比べて、魔族と魔物の軍勢がもっとも多いところである。

 それでも、他の四つの方面は互角、あるいは魔族と魔物の軍勢の方が押しているのだが、ここで押しているのは多国籍軍の方であった。

 多国籍軍の数も同様に多い、というのもあるが、それとは別に明確な理由も存在している。

 それは、他の四つの方面にはあって、ここにはないモノ。

 南方には、特殊というか、他とは違う突き抜けた戦力を持つ者が、魔族と魔物の軍勢の中に居ないのである。

 正確には、強い者は居るには居るが、それだけ。

 その強さはこれといって突き抜けておらず、単独で戦局を変えるまでには至っていない。

 といっても、そもそも全体を見た時に個のとしての強さは魔族と魔物の軍勢の方が上であり、その数が四つの方面の魔族と魔物の軍勢の中でもっとも多いとなれば、有利にことを運べるはずなのだ。

 それでもこの場で魔族と魔物の軍勢の方が押されているのは、ここの多国籍軍の方には居るからである。

 単独で戦局を変えられるだけの戦力を持つ者が……持つ者たちが。


     ―――


 多国籍軍の方で突き抜けた戦力を持っているのは二人。

 一人は、エトラス王国の英雄――フォーチャーである。


「……ふっ」


 息を吐くのと同時に矢が放たれた。

 既にこの場は戦場であって、多くの人や魔物が戦いを繰り広げている。

 そこに矢が抜けていけるような隙間はない。

 いや、あるにはあるが、それは一瞬の隙間であり、そこを通すとなると、それこそ針と糸をそれぞれ持った両腕を広げて、勢いを付けて針の穴に糸を通すようなモノ。

 それも一瞬で。

 できなくはないかもしれないが、それは運の要素が多分に含まれているのは間違いない。

 しかし、フォーチャーはそれを自身の弓の技術だけで可能とした。

 フォーチャーの放った矢は戦闘中の人々や魔物の中を抜けていき、そこが狙いどころであると、多国籍軍の兵士の首を掴んで持ち上げていた魔物の腕に突き刺さる。


「グギャアッ!」


 突然の痛みに声を上げ、魔物は兵士を放してしまう。

 兵士は地に落ちた瞬間に前に飛び出す、魔物を一閃したのち、矢が飛んできた方向へ頭を軽く下げ、次へと向かう。

 フォーチャーは既に動いていた。

 味方を援護、あるいは危機的状況を救いつつ、自身も戦っている。

 その動きの速度は一人だけ時間が違うと言ってもおかしくないほどで、殲滅速度も合わせて速い。

 ただ、それを可能にしているのは、ただ速いだけではない。

 精確さも兼ね備えているのだ。

 それが顕著となっているのは、フォーチャーが攻撃した箇所にある。

 基本、すべて急所なのだ。

 それも一撃必殺の箇所ばかり。

 味方への援護や危機的状況を打破する場合は状況に応じてだが、それでも痛みを与えて隙を作れる箇所を狙っている。

 精密さはほぼ100%と言ってもいい。

 フォーチャーが狙えないのなら、誰も狙うことはできないと言われるくらいである。

 そんな精確さと速度によって、フォーチャーが居る一帯は常に援護が飛んでくるため有利に動き、それは全体の勢いを加速度的に増していき、場合によっては一気に戦局を変えてしまう。

 それだけのことがフォーチャーにはできた。

 今もそうで、フォーチャーの援護があるからこそ、周囲の者たちはより思い切った行動で魔物と相対できるようになっており、次々と魔物を倒していく。

 しかし、それを許さない存在が居た。

 ――魔族だ。

 自らは人よりも優れた種族であると自負しており、それが誇り(プライド)となっている。

 それ故に、優れた人間というのが許せない。

 特に自分よりも。


「殺す! 殺す! 殺す!」


 魔族の一人がそう呟きながら、魔物を陰にして弓矢を構えるフォーチャーの死角に忍び寄り、ある程度近付くと同時に跳びかかって襲いかかる。

 普通であれば、それは絶好の機会。

 並では反応できない速さであったが、フォーチャーはなんでもないように反応する。

 跳びかかってきた魔族に対して、体を少しずらすという最小限の動きでかわしつつ――。


「……殺気が漏れ過ぎだ」


 足を振り上げて、下ろすと同時に魔族の背に打ち付けて地面に落とす――では終わらず、そのまま両足を使って、魔族の腕を捉え絡ませ、そのまま関節を極めるように魔族の背の上に座り、フォーチャーは構えていた弓矢を魔族の頭部に付けて零距離で放ち、絶命させる。

 それでフォーチャーは一息吐かない。

 まだ、魔族も居るし、魔物も居る。

 魔族と魔物の軍勢は残っているのだ。

 倒したのはまだ一部でしかない。

 特に、魔族に関しては単独で倒せる者が限られており、その一人であるとフォーチャーは自覚している。

 だから、休む時はしっかり休むが、今はまだその時ではないと精力的に動く。

 ただ、無理はしていない。

 何しろ、自分と同じように単独で魔族を倒せる者がここにはもう一人居るため、無理をする必要がないのである。


     ―――


 多国籍軍の方で突き抜けた戦力を持つもう一人は――世界一の強国と言われるオーラクラレンツ王国の騎士団長・エリオルである。

 オーラクラレンツ王国は一度魔族に襲撃された。

 戦闘特化の魔族ではないが、それでもその魔族が使役していた魔物は強く、その中の特別製スケルトンにエリオルは手を焼かされる。

 ニトがあの場に現れなければ、最悪の結末を迎えていたかもしれない。

 エリオルはその考えを払拭できず、不安を誤魔化すように強さを求めた。

 同時に、ニトのような絶対的な強さを求めたのだ。

 才能があったのだろう。

 いや、騎士団長まで上り詰めたのだ。

 才能はあって当然。

 ただ、騎士団長という役職を得てしまったために、そこでとまっていただけなのである。

 ニトが各地を巡っている間もエリオルは自らを鍛え上げ、今では「英雄への挑戦」と銘打たれている、リーンの門を跳び越えることができるまでになっていた。

 それだけの強さを、エリオルは得たのである。

 それはまさに一騎当千。


「すぅ……ふっ」


 エリオルが高速の斬撃を放ち、魔物を切り刻む――と同時に既に次の魔物へと動いており、素早い動きでもって切迫し、そのまま斬り抜いていく。

 駆け抜ける速度も捉えるのが難しいほどの高速であり、斬り抜かれた魔物は反撃の余地すらないほどだ。

 その中には魔族も居り、結果は魔物と同じである。

 エリオルの速度に反応できていなかった。

 また、ここにエリオルが居るということは、オーラクラレンツ王国の騎士団も居るということ。

 世界一の強国の騎士団というだけはあって、その戦力は多国籍軍の中でも一、二を争うモノである。

 エリオルという突き抜けた戦力と共に、オーラクラレンツ王国騎士団はその力を発揮して、危なげなく次々と魔物を屠っていく。


「早く片付けて、次へと向かいたいですが、これは間に合うかどうか……」


 エリオルが考えるのは、こことは違う四つの戦場。

 ここが戦力的に恵まれているからこそ、早くにここを片付けて、次へと向かう必要があると考えていた。

 救援が間に合うかどうかはわからない。

 それでも、行かなければ――と考えるが、現実は厳しい。

 ここは、魔族と魔物の軍勢の数がもっとも多いのだ。

 ただ、エリオルはそこまで不安を抱いている訳ではなかった。

 そのため、この状況で他のところのことをこのまま考え続けるのは危険であると冷静に判断し、まずはこの場の魔族と魔物を倒し切らなければ、とエリオルはオーラクラレンツ王国騎士団と共に駆けていく。


     ―――


 フォーチャーとエリオルという突き抜けた戦力持ちが二人居るため、南方の戦いは多国籍軍側が優勢に傾いていく。

 ただし、未だ一気に決めきるまでには至っていない。

 それだけの魔族と魔物の軍勢の数がこの場に居り、時間がかかるのである。

 そうなれば、フォーチャーとエリオルが会う場面もあった。

 フォーチャーがエリオルを背後から襲おうとしている魔物の頭部を矢で貫き、エリオルはフォーチャーの背後から襲いかかろうとしている魔物に高速で近付き、一閃して首を落とす。

 二人はそのまま背中を合わせて、戦い続けたことで多少乱れている呼吸を整えるように会話を行う。


「……オーラクラレンツ王国の騎士団長・エリオルか。その名に相応しい強さだ」


「……それはこちらも同じですよ、エトラス王国の英雄・フォーチャー」


 そこで互いに息を吐いて、近場の魔物へと攻撃を始める。

 戦いながら、エリオルからフォーチャーへ声をかける。


「まだ動けるようで何よりです」


「当たり前だ。それに、比較的楽なここで足踏みしている暇はない」


「楽、ですか? 相当面倒な数だと思いますが?」


「数だけだな。……強いヤツらが居ない。あの時、この軍勢の奥から感じ取れていた強いヤツらが」


 フォーチャーは、エトラス王国と北方を繋ぐ経路で行われた戦いの際に、魔族と魔物の軍勢の奥に居る強い気配を感じ取っていた。

 大虎、鱗肌の男性、黒レザーの男性、黒鎧の男性のことである。

 それがこの場に居ないことに、危機感を抱いていた。

 パッと見はそう見えないが、実際のところ、フォーチャーの動きには少しばかりの焦りがあり、エリオルはそれを感じ取る。


「……あなたがそこまで気にかけるのであれば、相当な者なのでしょうね」


「ああ、俺やあんたでも通用するかどうか……実際にやってみないとわからないが、少なくとも放置するのは危険だ。だから、間に合うかはわからないが、ここを早く片付けないといけないのだが……あんたはそれでも余裕そうだな」


 エリオルの動きを見たフォーチャーはそう判断した。


「そうですか? いえ、私も同じことを、他のところに急いだ方がいいと思っているのは同じです。ただ、それでも焦っていないのは……知っているから、ですかね」


「何を、だ?」


「ここだけではなく、すべての戦場の状況を、たった一人でひっくり返すことができそうな人物を、でしょうか」


 笑みを浮かべて言うエリオル。

 エリオルが嘘を言っているようには見えないが、それでも、そのような者が本当に居るのか? 居るのならさっさと来てほしいモノだ、とフォーチャーは思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 汗をカキカキ、物語を書いても投稿を欠いてしまった。 それに気づいた、あんたが大将! [気になる点] こういうファンタジー系でエルフの弓の腕前が強調されるのは普通だと思うものの、仮に身体強化…
[一言] エリオル……飛び越えれるようになったのか(´・ω・`)
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