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 美術館近くで爆発が起こったかと思えば、また別の美術館の近くで爆発が起こった。

 けれど、それは最初の時とは状況が違っていた。

 最初の方は、家屋数軒を巻き込んだ突然の爆発。

 のちに判明するのだが、これは本当に偶然として負傷者は多数出たが、死者はゼロであった。

 運命が味方した、と言ってもいいかもしれない。

 本来であれば、死者は出るはずだったのだ。

 というのも、爆心地となったのは飲食店。

 しかし、爆発したその時――いや、その日はお店が休みであった。

 ただ、元々休むつもりだったのではなく、その日急に休んだために本来であれば客が入った状態での爆発であったが、その客が居なかったのである。

 また、その飲食店の壁や天井が爆発をある程度抑えることになり、他数軒を巻き込んだといっても、死者は出なかったのだ。

 だが、二回目はまったく状況が変わっていた。

 何があったかと言えば、警備の一人がきっかけである。

 その日、その警備の一人は、少しばかり集中を欠いていた。

 昨夜飲み過ぎたとか、それで少し寝坊しそうになってしまったとか、そのような理由で。

 そんな状態で警備として仲間の警備と共に王都・ビアート内の巡回を行っていた。

 集中を欠いていたため、巡回といっても注意深く見ているのではなく流し見て、あとは時々それっぽく言葉を投げかけるだけ。

 だから、これも偶々なのだ。

 警備の一人は、別にその人物が怪しいと思って声をかけた訳ではない。

 ただ、仕事していますよ、という姿を見せるために――。


「キミ、ちょっといいか?」


 と近くを歩いていた男性に声をかけただけなのである。

 それで返ってきたのが過剰な反応だったのだ。


「ちっ」


 その男性は舌打ちをして、声をかけた警備の一人に向けて火が作られた矢の魔法を放つ。

 確かに警備の一人は集中を欠いていた。

 しかし、警備はトレイルが選んだ腕利きで構成されているため、集中を欠いていようとも、咄嗟に体が動いて、剣を抜いて火の矢を払い消す。

 もうそこに、集中を欠いた警備の姿はなかった。


「……詳しい話を聞かせてもらおうか――て、やばい!」


 その警備は多少なりとも魔法の心得があった。

 だからこそ気付く。

 声をかけた男性が魔力を高めていることに――それも、明らかに暴走させようとしているということを。


「退避! 退避ぃー! 全員、この場から離れろ!」


 警備の一人は仲間と共に周囲の人たちに向けて声をかけ、男性から離れていく。

 瞬間――閃光が周囲に走り、爆発が起こった。

 周囲の家をいくつか壊すだけの威力であったが、幸いと言うべきか、警備の一人が声をかけたことで、負傷者は出ても死者は出なかったのである。

 だが、これは明らかに異常事態だ。


「くそっ! やってくれたな! しかも、自爆なんて後味の悪い真似しやがって……一体どこのやつだ!」


 警備の一人がそう愚痴る。

 もう一人の警備も同じ気持ちであった。

 けれど、その前にまずは人命救助と状況把握、それと報告である。

 一回目の爆発時と同じように、警備は動き始めた。


     ―――


 王都・ビアート内で爆発が二回起こった。

 それは、とある魔術機関にとって予定通りの出来事である。

 しかし、その内容はとても予定通りとは言えなかった。

 というのも、とある魔術機関にとっては、人的被害が多く出るはずだったのだ。

 一回目の爆発は人気の飲食店の昼食時という時間帯で起こすことで、多くの客が犠牲になるはずだったのだが、急遽休みとなっていたため不発。

 二回目の爆発は観光客が出入りする大商店を狙うことで、さらなる人と巻き込むはずだったのだが、その前に警備に声をかけられて焦り、自爆したため不発。

 結果はどちらも負傷者は居ても死者は出ていないというモノ。

 これを予定通りとは言えないだろう。

 だが、とある魔術機関にとっては、成否はどうでも良かった。

 爆発が起こったことによる、人の――警備の目を集めるための手段として用いただけである。

 二度も爆発が起これば、またあるのでは? という考えを振り払うことはできず、美術館だけではなく王都・ビアート全体に注意を向けるしかない。

 けれど、とある魔術機関が本当に狙っている時は、それではない。

 二度も爆発が起こったと知った――その瞬間。

 間違いなく、その瞬間だけはその情報が頭を占めて、意識の中から展示品のことが消える。

 それが、とある魔術機関の本当の狙い。

 何故なら……とある魔術機関の実行部隊は、既に大屋敷美術館に客として中に入って潜み、その魔の手を隠してその時を待っているのだから。


     ―――


 同時に動いているのも居る――というよりかは、爆発がきっかけとなって動く者たちが居た。

「聖盾」を狙う精鋭盗賊団である。

 いや、正確には爆発が起こる前から動いていた。

 天性のモノ。野生の勘。スキル。経験からくるモノ――説明は様々できるが、精鋭であると自らを評していた盗賊団ではあるが、これまで動かなかったのは、警備や騎士、兵士の力量を見定めていただけではない。

 寧ろ、警備や騎士、兵士であれば、問題なく対処できると判断すらしていた。

 だが、どこにだって例外は存在している。

 精鋭盗賊団は精鋭なりに、ニトの危険性を感じ取っていたのだ。

 ニトの見定めが終わるまで動かなかっただけ。

 その見定めも終わっている。

 精鋭盗賊団は、ニトに対して確かに個で巨大な戦力を持っているため危険な相手ではあるが、数人であたれば対抗できる、と判断した。

 ――まあ、実際はそれでも不可能なのだが、精鋭であるが故に自分たちでも計り知れない存在であると思えないのである。

 だから、対抗できると勘違いしたのだ。

 ただ、それが功を奏したと言うべきか、対抗できると思っていたからこそ、ニトに恐怖せず、ここしかないという時に動くことができていた。

 精鋭盗賊団が、今から大屋敷美術館に襲撃をかける、と移動を始めた時――一度目の爆破が起こる。


(かしら)!」


「気にするな! どこかのヤツが動いたんだろ!」


 部下の一人の言葉に、頭はそう答える。

 言葉にしたように、爆発を気にした様子は一切ない。

 頭からすればどこで誰が何をしようが関係ないのだ。

 動き出した以上、自らの目的のみが優先されるのである。

 だが、次いで起こった爆発に対しては、頭が眉間に皺を寄せた。


「……連続で爆発だと……面倒だな」


「頭! 爆発の狙いはもしかして――」


「ああ! 違う場所で連続だ! 陽動なのは間違いない――が、他にも何らかの意図はありそうだ! 急ぐぞ! 出遅れている可能性がある!」


『おう!』


 頭の言葉に反応して、精鋭盗賊団は大屋敷美術館に向かう速度を一気に上げる。


     ―――


 最初の爆発が起きた時、トレイルは大屋敷美術館の中庭で部下と共に警備の再配置・再調整を行っていた。

 なんだかんだと、「黒薔薇淑女(ブラックローズレディ)」に対応しようとして、僅かに存在する警備の穴――時間帯によって少しの間だけに、誰の目にもとまらずに大屋敷美術館の外から中に入れる箇所があったことに気付いたからだ。

 それをなくすための全体的な再配置・再調整を行っていた。

 本来なら気付かなかったような穴であったため、そこまで気にする必要はないのかもしれないが、気付いたのなら念には念を入れておくのが、トレイルである。

 気付くのは自分だけ――とは考えない。

 自分だって気付いたのだから、他の誰かだって気付くはず――と考えるのがトレイルであった。

 そうして行動している時に、爆音音がトレイルの耳に届く。

 遠く、小さな音であったが、間違いなく爆発音であったと、トレイルは外が見れるように中庭から大屋敷美術館の中を通って玄関から外へ。


「なっ! あれは……」


 驚きを口にする。

 トレイルの視界に映るのは、王都・ビアート内――それも方角的に別の美術館の方から立ち昇る黒い煙だった。

 それは付いてきた部下たちも同じで、口々に驚きと不安の声を上げて、恐怖の表情を浮かべる。

 ここに居る部下たちは文官であるため、これから起こるかもしれない争いを考えると、怖くて仕方ないのだ。

 パアン! とトレイルが手を打つ。

 正気に戻る文官たち。


「落ち着きなさい。あなたたちのやるべきことは、ここで怯えることではありません。何も、誰も戦えとは言いません。なすべきことを行ってください」


「「「……はい!」」」


「よろしい。では、まずは見物客の安否確認。動揺されている方も居ますから、落ち着きを持ってもらえるように声掛けをお願いします。同時に関係各所に連絡と、誰かあそこに向かって現状を確認してきてください! それと――」


 次々と指示を出していくトレイル。

 指示を受けた数人の部下は駆け出していき、一通り指示を出し終えたトレイルは抜けがないかと考え始めた時――再び爆発音が耳に届く。

 最初の爆発があった方に視線を向けるが、そこは先ほどまでと何も変わっていない。

 となれば――とトレイルが視界を横にずらせば、二回目の爆発があったところは直ぐに見える。

 また、方角的にそこにも美術館がある、と。


「狙いを絞らせない……陽動……本命は別……あるいはそう見せかけて……いや、それだと……既に内部に……呼応して複数が………………私が先ほど指示した場所に追加報告。それと、ここも含めて未だどの美術館も狙われている可能性があるため、最厳重警戒に移行するように伝達。ああ、伝達する時は注意を。特に展示物を守っている騎士たちには」


『かしこまりました!』


 すべてを読み切ったように指示を出すトレイル。

 しかし、その内心には苛立ちが募っていた。

 何しろ、結局のところ、的はまだ絞れていないのだ。

 何が狙いなのかハッキリとしていない以上、それに合わせた対応が取れない。

 後手に回っていることに、トレイルは内心で苛立っていた。

 けれど、それを表には出さない。

 いや、正確には出している暇はない。

 部下たちは指示した通りに動くだろうが、それで自分は動かなくていいという訳ではないからだ。

 大屋敷美術館内部に関しては部下たちの方で対応している。

 ならば、自分の対応すべき場所は外だと判断し、手近に居た警備を呼んで指示を出す。


「『安全確認のため』として、見物客の入館をとめてください。ただし、どこが安全かは未だ判明していません。警戒をし続けてください。それと、既に侵入している、あるいは侵入しようとしてくる可能性があります。怪しい者が居ないか確認も同時進行でお願いします」


「かしこまりました!」


 そうしてトレイルが大屋敷美術館の敷地内の警戒を促し、警備たちがそれに合わせて動き出した時、侵入者が現れる。

 一人ではない。複数。

 次々と壁を乗り越えてくる。

 見物客が乗り越えてくるようなモノとは違うその身のこなしに、トレイルはその者たちが何を目的に現れたのかを直ぐに察し――。


(こんな時に限って――いえ、こんな時だからこそ、ですか)


 と思う。

 頭に過ぎるのは、現在就寝中のニト。

 最大戦力が居なくともどうにかしなければ……と、壁を乗り越えてきた者たち――精鋭盗賊団に向けて警備を向かわせる。

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