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 イスクァルテ王国の東方にある隣国・イザード国。

 この国は知る人ぞ知る魔法に精通している国であり、イスクァルテ王国とは友好国である。

 そのため、イスクァルテ王国で催される芸術祭にも協力的であり、少しでも盛り上がるならと宝物庫を開き、そこからいくつかの宝物を展示することに決めた。

 なるべく、芸術祭という名に沿って、芸術性の高いモノを選ぶ。

 身に付けるだけで魔法の媒体となって魔法に関するすべてが向上する総ミスリル製の全身鎧に、大いなる過去にあった魔法文明の象徴と言われている煌びやかな宝飾がふんだんに使われた豪華な杖――それと、この世の魔法の原典であり、すべての魔法に通じ、魔法に関する英知を授け、魔法を更なる次元へと昇華させると言われている、これまで誰も読めていない「魔導新書」が選ばれた。

 他にもいくつかあるにはあるが、それは宝飾品の類であって、芸術祭の目玉となるようなモノは、上記の三点である。

 もちろん。国の宝物庫に入っていたモノだ。

 それを外に出すのだ。

 護衛の方もイザード国の優秀な者に任されている。

 イザード国は魔法に精通しているため、通常の騎士団の他に魔法師団と呼ばれる一団が存在している。

 魔法師団は騎士団と同格の扱いであり、その魔法師団の団長――三十代の金髪男性――がイザード国から展示される宝物の運搬の責任者となった。

 イスクァルテ王国とイザード国は隣国であるため距離が近く、他国よりも時間的な猶予はあると言える。

 そのため、まずは先に宝物を運搬し、芸術祭に参加する予定の王族や貴族はしっかりと準備を整えたあとからとなった。

 その時の護衛隊長は騎士団長であり、先行する魔法師団長は運搬後、そのまま宝物の警護・警備にあたる予定である。

 そうして、魔法師団長は魔法師団だけではなく騎士団からも人を寄越してもらい、万全の態勢で宝物の運搬を行う。

 馬車隊と言えるだけの一団体による運搬は順調だった――途中までは。

 もう少しでイザード国を出て、イスクァルテ王国に入ろうかという前に、突然襲撃が起こる。

 進行方向上に突然土壁が形成されて、それ以上先に進めなくなり――。


「敵襲! 警戒しろ!」


 魔法師団長が直ぐに指示を出す。

 そこは慣れたモノ――訓練の賜物なのか、部下たちは直ぐに動き、宝物を守るような陣形に直ぐ動いて形成する。

 困惑するのは馬だけであったが、それも直ぐに宥められて落ち着きを取り戻す――と同時に、土壁が再び出現。

 左右と後方に出現し、閉じ込められる。


「この程度で閉じ込めたとでも言うつもりか!」


 魔法師団長が進行方向上の壁に向けて魔法で火炎弾を放つ。

 いや、魔法師団長だけではなく、部下たちが左右と後ろの壁に向けて同じように魔法の火炎弾を放つ。

 着弾と同時に火炎弾は一気に燃え上がり、土壁を――傷付けることはできなかった。

 部下たちだけではなく、魔法師団長のモノも。

 一応、力の差を示すように魔法師団長の火炎弾は焦げ跡だけは残されていた。


「クヒヒッ。無駄無駄。その程度の魔法でこの土壁を砕くのは無理無理。その程度もわからないとは、魔法師団と言っても大したことはないようですねぇ。クヒヒッ」


 人を小馬鹿にしたような口調の声が響く。


「何者だ!」


 魔法師団長が声を飛ばすが、聞こえてくるのは気味の悪い笑い声だけ。

 それも、よく聞けば一人ではない。

 複数――それも、周囲から聞こえてくるため、土壁の向こうには多くの者が居て、既に取り囲まれているということを察する魔法師団長。

 それに、そこは魔法師団。その団長。

 火炎弾が土壁に通じなかった理由――原因は直ぐに理解する。

 土壁に火炎弾が通じなかったのは、双方共に魔法で作り出されたモノで、当然込められている魔力量というのがあるからだ。

 相性の問題もあるにはあるが、それを覆すことができるのが込められた魔力量である。

 一例として――同じ魔力量の魔法であれば、火は水で消火されてしまう。

 しかし、火の方に込められた魔力量が圧倒的であれば、相性を超えて水を蒸発させることができる。

 今回は、土壁に込められている魔力量の方が多かったため、結果としてこうなった訳だ。

 単純な話ではあるが、これは「魔力操作」や「魔力循環」、魔力量もある程度ないと直ぐ枯渇して危険であると、わかってもやれるような技術モノではない。

 つまり――相手はそれなりに魔法に精通している者であると、魔法師団長は判断する。


「総員! 反撃には魔力を込めろ! 相手は見た目以上であると思え!」


 指示はそれだけで充分であった。

 部下たち――魔法師団の方は魔法を放つ前準備として魔力を込め、騎士団の方はしっかりと構えて防御姿勢を取る。

 騎士団の方にも、魔法師団を通じてそういう技術があると知っているのだ。


「クヒヒッ。その判断は間違っていませんよ。というより、それしか取れませんよね? 堅実ですし、何より状況的に。しかし、それはこちらが魔法師団よりも劣っていたらどうにかできる、という話。いえいえ、イザード国が誇る魔法師団。その実力は理解していますよ。ですが、残念ですが私たちとまともにやり合えるのは、団長くらいですよ。クヒヒッ」


 気味の悪い声がそう言うのと同時に、土壁の向こうから魔法が次々と放たれる。

 それを防ぐ魔法師団長とその部下たち。

 確かに、状況が悪かった。

 土壁で移動することができず、その上背後には国宝の宝物があるのだ。

 相手から放たれる魔法を避ければ、守る国宝の宝物に当たってしまう。

 そのため、回避はできずに防御するしかないのだ。

 また、相手も上手かった。

 状況的に狙いが国宝の宝物――すべてかどれか、なのは間違いない。

 魔法で狙っているのが護衛の者たちであればまだ移動できるのだが、時折わかっているかのように国宝の宝物が狙われる。

 手にしたいが、できれば、という注釈が付いているため、そこに遠慮はない――と考えてしまい、もしや? と国宝の宝物への魔法攻撃を見過ごせないのだ。

 その上で、魔法師団長は気付く。

 ミスを犯していたことに。

 なんてことはない。

 四方からの魔法攻撃は通常のモノで、魔力を込める質よりも量を優先していた。

 量を優先しているのは、魔法師団長と部下たちをこの場に縫い付けて防御に集中させるという意味もあるが、他に魔力量の節約にも繋がっている。

 対して、魔法師団長と部下たち――特に部下たちの方は魔法師団長の言葉で魔力をより込めた防御魔法を使い続けていた。

 この状況で先に魔力が切れるのは――考えるまでもない。

 魔法師団長は己の失策に気付き、舌打ちする。


「総員! 相手の魔法を見極めろ! 魔力消費を抑えるのだ!」


 そう叫ぶが既に遅い。

 届かない。聞こえない。

 戦闘音で掻き消されてしまう。

 このままでは先に疲労してやられるのはこちらの方だと、魔法師団長は何かしらの手を講じられないかと考え始めた時、一部が瓦解する。


「ぐっ!」


「がっ!」


 魔力切れで相手の魔法を防ぐことができなかったのだ。

 幸いと言っていいのか、そこまで威力が高くなかったため、それで死んだということはない。

 しかし、物量による魔法は続いている。

 そこに追加の魔法が飛んできて、倒れた魔法師団員を守るために騎士団員が盾となって倒れた。

 その状況は四方で起こる。


「クヒヒッ。もう終わりのようですね。まあ、よくもった方ですよ」


 気味の悪い声が魔法師団長の耳に届くと同時に、四方から更なる物量の魔法が飛んでくる。

 ここが決め時だと、一気に攻めてきたのだ。


「クヒヒヒヒヒッ! これで『魔』」


「邪魔だな、この壁」


 気味の悪い声が何かを言おうとした瞬間――そんな呟きのような小さな声と共に大きな爆発音が響く。

 魔法師団長の視線の先――進行方向上の土壁が爆散したのだ。

 土壁の破片が飛び散り、土埃が周囲に舞い、ついでとばかりに黒いローブを見に纏う集団が土埃よりも高く空に舞い上がって落ちていく。

 落ちた黒いローブの集団は、「ぐげっ!」とか「ひぐっ!」とか汚い声を漏らした。

 土埃によって魔法師団長はよく見えなかったが、何かが起こり始めたと確信する。

 その証拠に――。


「土遊びかい、これは?」


 そんな声が聞こえたと思えば、次いで魔法師団長から見て左方の土壁が、巨大な何か――白い塊のような存在が衝突しながら削り消えていき、ついでとばかりに黒いローブの集団がひき飛ばされていく。

 飛ばされた先では同じく汚い声がした。

 さらに、右方はドガッ! ドゴッ! と小さな白い塊が土壁を次々と破壊し、ついでに黒いローブの集団が一人ずつ空へと舞い上がって落ちていく。

 何か硬いモノを振り回しているような印象である。


『お嬢さま。自分は最近、自分が剣なのか、それとも鈍器なのか、よくわからなくなってきました。なので、ここは一つ、自分が何かをハッキリと示して欲しいのです。……あの、お嬢さま? だから、斬ってください! お願いします!』


 魔法師団長は、悲痛な心からの叫びが聞こえたような気がした。

 そして、後方――。


「ふむ。ただ魔力量を足しただけの作りですか。芸がないですね。粗雑ですし、華やかでもない。つまらない魔法の使い方ですね」


 そんな言葉と同時に土壁は何もなかったかのように消え去り、その奥に居た黒いローブの集団がバタバタと一気に倒れて沈黙する。

 状況的に、自分たちは助かったのかもしれない、と魔法師団長は思うが、それでも気を抜くことはできない。

 何しろ、新たに現れたのが味方とは限らないからだ。

 魔法師団長は警戒しつつ、周囲の様子を窺い続ける。

 土埃が晴れ、視界が確保された。

 四方に居たのは、男性二人と白い大小の獣。


「さて、襲われていたようだが、あんたたちが芸術祭に向けたイザード国の宝物を運ぶ護衛で間違いないか?」


「……」


 男性の一人が魔法師団長は何も言わない。

 いや、言えない。

 さすがに、見ず知らずの者に言う訳にはいかないからである。

 その様子を見て、声をかけてきた男性はポン! と手を打つ。


「ああ、そういえば、まずはコレを見せないといけなかったな」


 そう言って、男性はどこからか手のひらサイズのメダルを取り出し、魔法師団長に投げ渡す。

 受け取った魔法師団長がメダルを確認すると、そこにはとある貴族家の印章が刻まれていた。


「これは、イスクァルテ王国・ペインズ家の……」


 そう呟いて、魔法師団長がメダルに魔力を流す。

 すると、魔力に反応して、メダルが青白く優しい光を発光する。

 これは特殊な処理を施したモノであり、所謂偽造対策の一つだ。

 本物であると確認して、ホッと安堵の息を吐く魔法師団長。

 というのも、既に話は通っていたのだ。

 話の元は、トレイル・ペインズ。

 ペインズ家の印章を刻んだメダルを持った者は当家で雇った者で、運搬の際の護衛として派遣することもある、と関係各所に届け出て通していたのであった。

 目の前の者たちには直接的だが、これは間接的にペインズ伯爵にも助けられたようなモノだ、と魔法師団長は思う。

 ――さすがは、王家の懐刀と言われるトレイル・ペインズ伯爵だ、とも。


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[一言] さすが王国の懐刀な伯爵やな! 聖剣はそろそろびっくり鈍器の自覚持たんと、その主のお嬢様は途中で剣を抜くとか出来ないんだし。
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