その6
今回で終わると言いましたが無理でした。すみません
「ふぁぁぁ…」
次の日の私は朝から既に眠かった。
理由は単純なもので、翔也からの連絡を待っていたら夜更かししてしまったというだけである。
傍から聞けば呆れてしまうような理由だろうけど、私からすれば切実だ。
好きな相手から無視されているのではと思えば、不安に駆られない乙女がいるのだろうか。
そんなわけで昨夜は日付が変わるまで悶々とした気持ちをずっと抱いていたのだが、気付けば寝てしまっていたのが現実である。
もちろん起きてすぐスマホを確認はしたのだが、やっぱり連絡はナシ。
残ったのは寝不足の頭と、下がりきったテンションのみだ。
自分からもう一度電話をかけたりするのはしたくない…また無視されることを考えたら、つい尻込みしてしまうから。
「そういえば可憐からもなんにも連絡ないのよね…」
このままだとひたすら気持ちが沈みそうであったため、思考を切り替えようとしたのだが、そうなると思い浮かぶのは昨日嬉しそうな笑みを浮かべて校舎へと駆けていった後輩の姿だった。
「なにも言ってこないってことは上手くいったってことよね、多分…」
人の心配をしている場合ではないかもしれないけど、やはり気にならないといえば嘘になる。
よくよく考えたらこれもおかしな話だ。あの子なら付き合い始めたとあらば、きっと私にいの一番に報告してくれるものだと思っていたのに、メッセージのひとつも未だにない。
翔也にばかり気を取られていたけど、可憐は可憐でなにかあったのだろうか。
(連絡してみようかな)
引っかりを覚えると、確かめたくなるのが人間という生き物だ。
スマホを取り出し、軽く操作しながらメッセージを送ろうとしたところで、ふと前のほうを歩く人影に既視感を覚えた。
それは私と同じ学校の制服を着た女子生徒で、栗色の髪をツインテールにした、つい昨日も見たばかりの後ろ姿……
「あれ、もしかして可憐…?」
太陽の光を反射して、キラキラと輝くあの子の髪を、私が見間違えるはずもない。
よく見ればひとりではなく、隣には同じくうちの学校の制服で、少し背が高めの男子の姿もある。
なにやら楽しく談笑しているようで、以前見た男子を前にしたときの刺々しさを微塵も感じさせない、明るい雰囲気を醸し出している。
ここから導き出される答えはひとつだ。つまり、あの男子こそが可憐のハートを射止めた強者。
そしてふたりは付き合い立てのカップルとして、朝から早速イチャつきながら学校に登校しているということか。
(でも可憐の家ってこっちじゃないわよね。確か反対だったはず。ということは…)
今はまだ朝も早い。あの子の家から私の家にほど近い場所まで彼氏を迎えにきたというのなら、結構な早起きをする必要があるだろう。
それなら健全なお付き合いということで済ませることもできるだろうけど、そうでないとしたら…
「……いろんな意味であの子に先を越された可能性があるわけね…なんか泣きたくなってきた…」
ガックリと肩を落として、思わず頭を掻いてしまう。
その際勢い余ってあの子の贈り物のヘアピンも巻き込み、ガリガリと掻き毟ってしまったが、それに気を取られるほどの余裕もなかった。
いや、こういうのは勝ち負けじゃないとは分かってるけど、感情としては素直に悔しいっていうか…こっちは決められたコースをキッチリ走って先行しているつもりだったのに、いきなりショートカットされてあっさり抜かれちゃった気分だ。
ノーマークだっただけにそのショックもひとしおで、実際にこの眼で見ても、どうにも現実感に欠けている光景だった。
「……邪魔しちゃ、悪いわよね」
臆したわけでは決してないけど、あんなに幸せそうにしている可憐を見ていると、自然と歩くスピードが落ちていった。
気付けばきっとこちらに振り向いてくれるだろうという確信はあるけれど、あの空間に割って入るのは気が引けたのだ。
だからあのふたりが先に行くところを見届けた後、私もゆっくり学校に向かおうと、そう思ったのだけど
ドクン
「あ、れ…?」
またなにか、既視感を覚えた。
可憐に目を惹かれていたために気付かなかったけど、隣を歩く男子のことも、なんだか以前から知っている、ような…
ドクン、ドクン
いや、でも、そんなはずはない。
私は男子の知り合いはそう多くないんだ。
ましてや、見覚えがあるほど仲がいい相手なんて限られてる。
ドクン、ドクン、ドクン
そう、限られて…でも、そんなわけ…
だって、あの子はタイプじゃないって言ってた。
アイツのことなんて、好きじゃないって、そう…
(言って、たっけ…)
言っては、なかった、かも…
「あれ、瑞佳?」
思わず立ち止まった私に、かけられる声。
それは、私がこの場で一番聞きたくなかった声。
認めたくなかった声だ。それは背後からでも横からでもなく、前方から聞こえてきた。
そう、可憐の隣から。それは私の好きな幼馴染。
「しょう、や…」
翔也の声だった。
眠くて中途半端なところまでしか書けずすみません
明日仕上げます