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 7.死体令嬢は弁明する

「そういえばここ、私以外にリビングデッドの人っていないの?」


 なんかムズムズする気持ちをごまかしたくて、慌てて質問をひねり出した。


「ラーラみたいな肉付きのやつはいないが、骨ならいるぞ。昨日のやつみたいな」


 しまったーーー!

 なんでよりによってこの話題選んだ、私! ムズムズが加速するわ‼

 あの骨に捕まって、動けないとこで契約とかいって無理やりキスされたあげく血を飲まされたんですよね、たしか‼

 いい人はあんなことしない。目を覚ませ、私。むしろデレたのは私だよ。チョロいのは私だよ。


「俺の使役する生ける死体(リビングデッド)は二種類いてな、ひとつはラーラみたいに血の契約を交わした、簡単なことなら自分で判断することも出来る自律型。もうひとつは昨日のや馬車に使ってるみたいな、命令を書き込んだ疑似魂と俺の直接の命令でのみ動く他律型。で、こいつらそれぞれの――」

「ストーーーップ! それ、絶対長くなるやつ‼」


 わたわたしてたのは私だけで。レナートにとってあのキスは、あくまで契約のために必要だからやったってだけのもの。

 だからアレをなんとも思ってないセクハラ野郎は、また得意げにネクロマンシーのことを語ろうとし始めた。コイツ、デリカシーない上に得意分野語り始めると長いんだよ。

 もういい。私も切り替えていこう。


「それよりさ。質問あるんだけど、いい?」

「なんだ?」

「ここってさ、ネクロマンサーってどういう扱い受けてるの?」


 私の質問にレナートは、なんだコイツ? みたいな顔をして眉を寄せた。

 でもさ、いちおう知っておきたいじゃん。これから町に行くかもしれないわけだし。それに私的にはなんだけど、ネクロマンサーってどうしても怖がられてたり嫌がられたりってイメージが強い。まあ、フィクションの中での話なんだけど。日本にはレナートみたいなネクロマンサーなんていないからね。


「どういうって……どうもこうも、魔術師の中のひとつだな。国によっては死霊魔術師(ネクロマンサー)は忌避されてることもあるが、この国ではまあ受け入れられてる。なんせ危険な場所での作業や単純な労働なんかは、俺たち国家死霊魔術師が作った他律型生ける死体が使われてるからな」

「マジか! え、でも死体はどうやって手に入れてるの?」

「献体や罪人、あとは輸入品を使うな、普通。国が管理してる」


 はー……まさかの世界だった。要はあれだ、ネクロマンサーってこの国だと国家公務員で、死体はロボットみたいな労働力なんだ。死体をそんな風に使うなんて日本じゃ考えらんない。


「あれ? 国が管理してるって……でも私っていうか、エルバは盗掘してきたって言ってなかった?」


 あ、思いっきり目そらした。


「こっちまで回ってくる状態のいい死体が少ねぇんだよ! ばれなきゃ問題ねぇ‼」


 うわー、開き直ったよ。ドロボーよくない。あ、でもレナートに盗掘されたおかげで私は助かったんだった。


「ちょっと前に、自律型が一体壊れちまったんだよ。そこへちょうど、隣の領の領主の娘が獄死したって聞いて……新鮮な死体を手に入れる機会だって思ってな。獄死した罪人は、遺族の希望がなけりゃ警備の薄い共同墓地に葬られる。しかもエルバは美人だって話だ。なら死体がなくなっても、またアイツの仕業かって思われるだけだしな」


 そうだ、夢の中で地味茶髪が言ってた。「おぞましい罪に手を染めていた」とかなんとか。エルバは違うって言ってるのに、誰も聞いてくれなくて。それで最後、なんか飲んで――


「エルバは罪人なんかじゃない! 違うって言ってた‼」

「おい、どうした急に。落ち着けって」


 私と同じ。そんなことしてないのに、周りが勝手にしたことにした。


「私は違うって言ったのに……誰も聞いてくれなかった! あの子も信じてくれなかった‼ だから――」


 逃げた。逃げて、そこで車にはねられて。それが最後の記憶。さっき夢で見た、あの光景。


「エルバも私も、やってない‼」

「わかったから落ち着け。ラーラ!」


 肩を掴まれて顔を上げると、昨日と同じ真っ黒に染まった両目があった。

 不思議……ぐちゃぐちゃだった気持ちがすとんと落ち着いてく。こんなホラーな目見て落ち着くとか、ほんと私どうなっちゃったんだろ。

 

「……ごめん。ちょっとエルバと自分が重なっちゃって」

「体の記憶に囚われるな。おまえはこの体に入ってた魂とは違う」

「うん。わかってはいるんだけど……ちょっと、あまりにも似てて、つい」


 ぐちゃぐちゃの気持ちと頭を整理したくて、夢で見た話をレナートに聞いてもらうことにした。

 私の話、エルバの話、すごく似た私たちの最後の話を。


「まあ、あれだ。エルバの方はもう完全に死んじまってるが……ラーラの方は、まだわかんねぇだろ」

「まだ生きてたとして、どうやって帰ればいいんだろ」

「そうだな……だったらまず、この世界のことを知るのはどうだ? もしかしたらそこから、この体になんでおまえの魂が入っちまったのか原因わかるかもしれねぇし。なんもしねぇよりいいだろ」


 レナートが優しい。やっぱいいヤツかも、コイツ。


「今その体にラーラの魂を固定してるのは俺だから、帰れる目処がついたら契約解除して追い出してやるよ」

「うん。そのときはお願い」

「任せとけ。おまえを追い出したら、今度こそ精魂込めて作り上げた俺的最高傑作の疑似魂をその体に入れて、従順で有能な下僕を作ってやる予定だからな!」


 ……おい。さっきの私の感動を返せ。


「だから安心して帰れ。その体は俺が有効利用してやる。つか早く原因突き止めてその体返せ」

「エルバの体はアンタのじゃないっつーの! 言われなくたって帰るし‼ 横領ネクロマンサー! ばーかばーか」

「うるせぇ! バカって言う方がバカなんだよ」

「小学生か!」

「ショーガクセイってなんだ?」


 ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、心が軽くなった。

 私の体がどうなってるのか、今はまだわからない。正直すっごい不安だし怖い。でも、今はやれることから一つずつやってこう。何もやらないで後悔するくらいなら、とりあえずやってから後悔したい。

 あ、嘘。やっぱできれば後悔したくない。


「とにかく、だ。ラーラを俺個人の所有する生ける死体として国に登録するためにも、一度メランヌルカに出ねぇとな」

「めらん、ぬるか?」

「町だよ、町。マンサーナ領の中心の町だ。ただ今のままじゃ、とてもじゃねーがラーラは連れてけねぇ」

「あー……ですよねー」


 エルバのこの目は目立ちすぎるもんなぁ。

 そうそうこの目。レナートに教えてもらったんだけど、ヘテロクロミア(虹彩異色症)っていうらしい。左右で色が違うとか、同じ目の中で二色以上が混ざってるとか、そういう不思議な目のこと。そういえばゲームとか漫画でたまに見たなー。オッドアイって呼ばれてるやつだよね。

 こっちには石人(いしびと)って呼ばれてる片方の目が宝石の妖精たちがいるらしいんだけど、その石人の血をひいてる人間にはヘテロクロミアの人が生まれやすいんだって。


「ラーラを連れ歩くとなると、まずはその目をなんとかしねぇとな」

「当てとかあるの?」


 そんな私の言葉に、レナートはニヤリといつもの悪役みたいな笑顔を返してきた。


「ある。普通の人間にゃちっとキツイが、お前ら生ける死体ならなんとかなる」

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