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11.死体令嬢は憤慨する

 カリオさんは表では錬金術師、裏では情報屋をやってる人だってレナートが紹介してくれた。

 でもカリオさんは普通の錬金術師じゃなくて、精霊を扱う“精霊錬金術師”ってやつらしい。ちなみに錬金に魔術を使う魔術錬金術師っていうのもあるとか。

 で、カリオさんは錬金術師の本業のかたわら、精霊たちが町のあちこちで集めてくる情報も一部に売ってて、レナートもそのお客さんの一人だった。


「シプレス領主の娘、エルバ・クレシェンツィについて情報が欲しい」


 レナートの言葉にカリオさんの太い眉が困ったように寄せられた。


「エルバ・クレシェンツィっていやぁ、ついこないだ獄死したって嬢ちゃんじゃねぇか」

「ああ。そいつのことを知りたい」

「父親殺しのエルバ、だったっけ? 精霊たちがそんな噂を拾ってきてたな」

「父親殺し!?」


 嘘だ! だって、エルバはやってないって言ってた。

 でも、周りにそういうことにされちゃったんだったら……人を殺したら、牢屋に入れられちゃうよね。それに領主を殺したなんてなったら、きっと重い罰が待ってる。それであの夢みたいなことになってたんだ。


「詳しいことは調べてみねぇとわからねぇ。ちっと時間くれ。お代はいつも通り、情報と引き換えだ」

「わかった」


 その日はそこまで。

 私たちはカリオさんのお店を最後にメランヌルカを出た。そして二日後――


「はぁ~い。カリオの情報、おまちどぉさまぁ~」

 

 するんって! するんって七階にある小さな窓から、薄い黄緑色(ライムグリーン)のふわふわヘアのグラビアアイドルみたいなお姉さんが入ってきた‼

 言葉にならなくて私がひとりで口をぱくぱくさせてる間に、レナートは当たり前みたいな顔してお姉さんのところへ行っちゃった。


「ご苦労様、シルフ。お代はこれで」


 シルフって呼ばれたお姉さんはレナートからたぶんお金? の入った袋を受け取ると、おっきな胸の間にそれをしまった。

 おおう……そんな漫画みたいなやつ、初めて見た。ていうか、人ってそんなところに物を収納できるんだ。あ、いや、お姉さんどう見ても人っていうか人間じゃないけど。いやいや、収納するのに人かどうかは関係ないか。落ち着け、私。


「あらぁ~、これが新しい生ける死体(リビングデッド)ちゃん? あらあら、かわいいわねぇ~。あらあら……あらぁ?」

「な、なんでしょう?」


 するんとそばに寄ってきたシルフ姉さん。あらあら言いながら、なぜか私を見て首をかしげてた。


「あなた、わたしが見えてるのねぇ~。それにそのお目目、噂のエルバちゃんとおんなじ~」


 今日はどこにも出る予定なかったからカラコンしてなかった。どうしよう、まずい?

 慌ててレナートを見たけど、特に焦ってる様子とかない。てことは問題ない……のかな?


「えっと……」

「きっとぉ、あなたもどこかで石人の血が入ったのねぇ~。だからわたしが見えたのかぁ~。納得ぅ~」


 なんかよくわかんないけど、シルフ姉さんは納得したようだ。私には全然わかんなかったけど。

 だから、思わず助けを求めてレナートを見てしまった。


「普通の人間には精霊の姿は見えないんだよ。見えるのはまだあまり汚れてない子供か、汚れないまま大人になった稀有な人間か、あとは石人や天使なんかの一部の種族の血をひいていて、なおかつその血が濃いやつらだ」

「はぁ~、なるほ、ど?」


 ……ん? んんん?


「異議あり‼」

「あぁ?」

「それだと精霊の見えるレナートは汚れてない大人ってことになる。無理。ありえない」

「あらあら、だってぇ――」

「ラーラ、てめぇシメんぞ」


 ヤバい、レナートの目がすわってる! えー、なんで? こんなのいつもの冗談なのに。いや、半分は本気で疑問なんだけど。


「シルフ、おまえも用が済んだならとっとと帰れ。あんま無駄口叩いてっと、カリオに嫌がらせしに行くからな」

「ちょっとぉ、カリオに迷惑かけるのはやめたげてよぉ~! はいはい、わかりましたぁ~。もう、レナートちゃんってば横暴~」

「うるせぇ。とっとと帰れ」


 なーんか変なの。いつも横暴っちゃ横暴だけど、今のはなんか誤魔化そうとしたとかそんな感じ?


「…………シプレスでのエルバの評判、残念ながらあんまよくねぇみたいだ」


 シルフから受け取った書類を読んでいるレナートの眉間にしわが寄る。


「何が書いてあったの?」

「エルバのやったって罪と、エルバの妹のことだな」

「妹……あ、あの金髪ちゃん!」

「読むぞ」


 レナートが読んでくれた報告書には、私には信じられないことしか書いてなかった。


 エルバはシプレス領主の娘として生まれた。エルバのお父さんとお母さんはいわゆる政略結婚ってやつで、お母さんはエルバを生んだすぐあと体調をくずして死んじゃって。残されたエルバは乳母さんに育てられたんだけど、あの目のこともあってお父さんからは避けられちゃったみたい。

 エルバの目、こんなきれいなのに……この国では認めてもらえない。


 で、エルバが三歳のころにお父さんが再婚したんだけど、そのとき一緒に連れてこられた妹――カタリナ――も三歳だった。エルバのお父さん、エルバのお母さんと結婚する前からカタリナのお母さんと付き合ってたって。

 エルバのこと避けたのって目のこともあったのかもしれないけど、本当はこっちが理由だったんじゃない? だとしたらエルバのお父さん、サイテー。


 でも、エルバはすごく優秀な子だった。

 そして残念ながら、カタリナはあまりお勉強が得意じゃなかった。

 エルバのお父さんは腐っても領主。だから後継ぎは、優秀な方のお婿さんになる人にって決めた。そして、エルバが選ばれた。

 ここまでならエルバは努力で自分の居場所をつかみ取ったってことで、めでたしめでたしだったんだけど……


 お婿さんになるはずだった人――たぶんあの地味茶髪――が、よりにもよってカタリナを好きになっちゃった。領主の地位はいらないから、エルバとの婚約を解消してほしいってことになっちゃって。

 エルバってば、お母さんと揃って男運がなさ過ぎる。で、ここからが信じられないんだけど……


 カタリナと地味茶髪のことを、お父さんが認めちゃった!

 二人の愛は真実だ、引き裂くことはできない。とかなんとか。でも、エルバはそれを認めなかった。だから二人にありとあらゆる嫌がらせをした。あげく、カタリナたちを認めたお父さんを殺しちゃった。で、カタリナは自分たちも殺されそうになったんだけど、なんとか真相を突き止めて断罪しました。めでたしめでたし――

 これがシプレス領で流れてるエルバたちの物語。てか、カタリナをヒロインとしたやっすい昼ドラ。


 んなアホな。


 それが全部聞き終わったときの私の感想。

 だって、そんな頭ゆるゆるハッピーな話ある? ただの女子高生の私にだっておかしいってわかるっつーの、そんなん。

 あの地味茶髪、エルバと婚約解消なんてしたら普通、妹であるカタリナには手を出せなくなるでしょ。それとも、カタリナと二人で駆け落ちでもする予定だった? どのみち普通なら、お父さん大激怒案件だと思うんだけど。出自とか関係なく、能力だけで後継者を選んだお父さんがそんなこと許す?


 だけどこの話を信じられない一番の理由は、私の中に残ってたエルバの記憶がやってないって言ってたから。だから、私はこの噂を信じない。信じられない。


 こんなバカみたいな噂、本当のわけあるかっての‼

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