最終回
ポタ、ポタと赤い液体が地面に零れ落ちる。
その血は、吟の物だった。
吟は豊海に振りかざされる前の刃を掴み、苦痛に耐えながら、ジ、と豊海を睨んでいる。豊海は「あ、あ」と言葉が出ずに、ただただ吟の顔を見つめていた。
「神よ……、私はなんということを……」
「だから、神じゃない。……それと、言い忘れたことがある」
吟は豊海から刃を奪い取ると、地面に投げ捨てる。そして、その血まみれの手で豊海の両肩を掴んだ。
「俺が、あの神社から抜け出したのは閉ざされた世界にずっといるのが怖かったからだよ。そのきっかけは、俺に、奇跡を与えてくれた」
そう告げると、吟は透子に微笑みかける。その笑みの理由がわからず、透子は首を傾げた。
「だから、俺は逃げ続ける。あんたらが追ってきても、ずっと」
そう静かに告げると、吟は、豊海の肩から手を離す。支えを失った豊海の身体は、ドサリ、と力ない音を立てて地面に倒れ込んだ。手錠を掛けられる豊海の身体と、警察に毛布を掛けられる吟を交互に眺め、透子は地面に座り込む。
ようやく事件が終わったようだ、透子はほっと一息ついて警察の群れを他人事のように眺める。
その群れから、人影が一つこちらに向かって歩いてくる。悠斗だ。
「ご無事ですか?」
心配する言葉とは逆に、悠斗は呆れたようにこちらを見下ろしている。透子は「まぁ、なんとか」と額に付着した砂を手で払った。
「あなた、まさかわざと助けに来たんじゃないでしょうね?」
咎めるような視線を送る悠斗に、言葉は「まさか」と苦笑いで否定する。そして、遠くで警察の事情聴取を受けている吟に目をやった。
吟は、透子の存在に気が付いたようで、じっとこちらを見て、口を動かす。
ありがとう。
そんな言葉が聞こえたような気がして、透子は小さく笑みを浮かべた。
「本当に、最高の休日でしたよ」




