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祇園迷走曲  作者: うめお
12/16

飯田透子 ⑧

 どうやら、今日一日はあの宗教団体と、運命の赤い糸で結ばれているらしい。

 透子は、マスコミと警察と野次馬でごった返している山道を眺め、ひっそりとため息をつく。

 山科方面や大津方面に心身美神社があることを期待したが、どうやら悪い予想が当たってしまったようだ。

 無駄な期待などせず、途中下車をすればよかった。

 判断能力の衰えに激しい絶望感を感じながら、透子は周囲を見渡す。

 どこかに悠斗はいないものか。

 透子は野次馬を押しのけて、前へ前へと進んで行く。

 ふと、誰かが無理に動いたのか、人混みのバランスが大きく崩れる。転びそうになりながらも、どうにか足に力を入れ、人に流されるまま、進んで行く。

 気がつけば、土産物屋や骨董品屋が並ぶ坂道にたどり着いていた。透子が清水寺に最後に上ったのは随分前だが、記憶が正しければ、このまままっすぐに登って行けば清水寺にたどり着くはずだ。

「まずいなぁ」

 透子は引き返そうと振り返る。しかし、背後は人の群れでとても出られそうにない。別の道を、と透子は周囲を見渡す。

 清水寺に続く道だけ、見事に人がいない。

 違和感を覚え、人混みに目をやると、警察官やマスコミ達は、清水寺とは逆方向、とても人が歩けないような獣道に向かって列を成していた。

 どうやら、本拠地は清水寺とは逆方向にあるらしい。

 それならば、この人混みを抜けるのは容易い。

 透子は清水寺に向かって歩き出す。確か、清水寺まで向かえば、八坂神社に続く《ねねの道》があるはずだ。そこを通って河原町へ帰ろう。

 何となく足を止めて、人々の群れを眺める。

 緩く続く緑の坂は、夕焼けで赤く染められていた。あの坂を超えた先に、吟がいるのだろうか。

 なんとなく、透子はアイフォンで心身美神社をインターネットで検索する。公式サイトは見つからなかったが、すぐに素人が作った《心身美教まとめサイト》が引っかかった。

 詐欺症状や吟の擁護等、好き勝手に並べられた罵詈雑言の最後に、心身美神社までのアクセスが記載されている。どうやら、最寄り駅は地下鉄清水五条駅のようで、東大路通りから山の中腹まで、まっすぐ一本線が描かれている。

 なんと雑な地図だ。駅と山しか書かれていない地図に、透子は顔を引きつらせる。目印になるものが一つもない。

 よくもまぁ、こんな粗末な地図で信者が呼び込めたものだ。呆れを通り越して感心する。

 透子はアイフォンをポケットに仕舞うと、清水寺を目指して門前通りを歩いていく。観光客が立ち寄る土産物屋等の出店は、全て閉鎖されており、通行人の一人も見つけられない。どことなく漂う不気味な空気を払うように、透子はまっすぐに前を歩いていく。

 しばらく歩くと、遠くに仁王門が見えた。夕焼けに照らされ、より一層赤く輝く壮大な門に、透子は思わず息を飲む。今日は一日散々だったが、その憂鬱さを忘れるほど、神聖で、荘厳な光景だった。

 しかし、見とれている場合ではない。

 透子は仁王門を目指して歩いていく。産寧坂を通れば、確か《ねねの道》に繋がっていくはずだ。

 リン。

 一瞬、鈴の音が聞こえる。また幻聴だろうか、と透子は周囲を見渡す。やはり誰もいない道に、いよいよ精神が汚染されてきたことを自覚する。

 早く帰ろう。

 透子は両耳の下を指で軽くマッサージしながら、仁王門へ向かう。

 リン。

 仁王門に近づくにつれ、再び鈴の音が聞こえる。今日一日、自分を追いかけていたあの鈴の音とは違う、透き通った美しい音色。

 一瞬、吟の姿が思い浮かび、透子はその鈴の音の方へ顔を向ける。我ながら警戒心が乏しい。そう思いながらも、一歩ずつ、音のする方へと歩を進めていく。

 仁王門の階段の下、人影が横たわっている。

 まさか、と透子はその人影に駆け寄る。


 そこに倒れていたのは、後ろ手に拘束され、猿轡を噛まされた吟が、横たわっていた。


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