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言葉紡ぎ  作者: ウミボウズ
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出会い

俺がこの森に来てから3ヶ月が経とうとしていた。木に傷をつけて数えているから間違いはない。

あれから多くの事を知った。この森の動植物の毒性の有無、簡易的な寝床の作り方そして火の付け方。ちょっとした木片と枯れ草と木の棒さえあれば1分以内で火を点けられる。手に火起こしのタコが出来るくらいには練習させられたが。服もネバ芋から作った糊で手軽に作れるようになった。

もうこの森で暮らすことに困難は無い。余裕が出てきて筋トレも生活の一部に取り入れられるようになった。

 ただ人に会ったことは一度もない。森の外にも出られたことはない。一度、二日間ぐらい移動をしてみたがどこまで行っても木しか無かった。どれだけ広大な森なのか把握も出来ない。

 人と話しがしたい。この世界に来るまでそんなことを思っていなかった。むしろ逆で筋トレさえできていれば人との交流などどうでもいいと思っていた。たった3ヶ月、人と出会わなかっただけでこうも意見が変わるとは。

生きることは辛くはないが生きる意味が見出せない事が辛い。元の世界に戻れるかもわからないのだ。いきなりその可能性を頼りして生きる事ができるほど俺は強くない。

このまま生きていても俺の人生に何がある。何度だって考えてきた事だが答えは未だに出ない。それならばもう死んでしまった方が楽なんじゃないか。

水にインクを垂らしたように俺の心は黒ずむ。

いや、もう何日も前から黒ずんでいたのだろう。ただ今日それに気づいただけなんだ。

 俺は決めた。今日人に会えなければもうそれで終わりにしようと。割り切った俺は足取り軽く森を走り出す。

 何も考えずに走り続ける。全速力で走るのもここに来て何も考えなくなったのは初めてだ。景色が流れるのが早い。今の俺ならばどの陸上競技に出ても金メダルを取るのは簡単だろうな、と今になってそんな凡庸な考えに至る。これから先の事を考えなくなったからかどうでもいいような事ばかり浮かんでくる。なんだか楽しくなってきた。

 自分でもわかるくらいはしゃいでいる。誰かに見られたら恥ずかしい。

 「ハラシラマシニヤイ」

 「へ」

 久しぶりに聞いた人の声。でもそれは最悪のタイミングだった。恐る恐る声の方向を見る。そこにはそこには中世の村娘のような恰好の女の子が立っていた。年齢は10歳から13歳くらいだろうか。若いというより幼い女の子がこちらを見て一人で立っていた。

 「フヤラヤクヤチモシイスチイフセ、ツシイソセラハチソクラ」

 何か注意されているのはわかるが何を言っているのかさっぱりわからない。どこの国の言葉なんだ。せっかく人と会えたというのにこれはあんまりだろう。それでも何か言葉を返さないと。せめて大人なら何とかなるかもしれない。おそらく俺の言葉も理解はされていないだろうが一縷の望みにかけて話してみた。

 「俺には君の言葉がわからないんだ、ごめんね。近くに君のお父さんかお母さんはいる?」

 女の子は非常に驚いた表情に変わった。それもそうか、他国語を話す奴がいきなり現れたらそうなる。

 「ヤクラヤノナシチ。キシイワヤラソスラヒラ」

 驚いた表情が一気に変わった。なんというか好奇心に満ちたような、そんな表情だ。

 「ソノチマニモエイネワクノソヒライルソヤチエク」

 向こうはキラキラとした目で見てくる。けれどこっちは困惑しかできない。日本に来た外国人はこんな気分になるのだろうか。

「ソノチマニモエイソヒラニソスラヒチ」

 先ほどと変わって話し方がゆっくりになった気がする。何か俺に聞いている?。逆の立場で考えてみよう。外国人に対して話すときと考えて、その時自分の言葉をゆっくり聞こえやすくして話すような気がする。いや、もうそうだと思うしかない。

 俺はを身振り手振りを加えながらゆっくりと話し始める。

 「俺は志倉剱地。君の名前を教えて欲しい」

 彼女は聞いている時はまっすぐこちらを見ていた。絶対意味は伝わっていないだろう。今の言葉を聞いて何を考えているかはわからないが顔を下ろして、熟考していることはわかる。正直不安でしかない。彼女が黙っている時間が妙に長く感じた。

 彼女は顔をあげてこちらを見た。そして考えていたことを話し始める。

 「ソフィヤ・ヴィターリラヒエチ・イリニエ」

 彼女は自分に指を向けてそう言った。

 今のが彼女の名前か、長いな。ってことは今ので伝わってたのか。凄いなこの子、違う国の言葉だってのにわかったのか。

 今度は俺に対して指を向け俺の名前を言う。

 「シキゥラ・キンジ」

 だいぶネイティブに俺の名前を言うな。まあ概ねあっているし問題はないか。名前をお互い知ることは出来たが問題はこれからだ。どうやって言葉を理解しあうか、どうすればいいのか見当もつかない。

 ただ、良かった。久しぶりに人と話せて。一人じゃなかったんだ俺は。

 思わずこぼれそうになる涙を堪え、俺はまた話し始めた。

言葉翻訳

ハラシラマシニヤイ→待ちなさい

フヤラヤクヤチモシイスチイフセ、ツシイソセラハチソクラ→あなたは何をしているのですか、ここは危険です

ソノチマニモエイネワクノソヒライルソヤチエク→あなたの国の言葉を教えて

ソノチマニモエイソヒラニソスラヒチ→あなたの言葉を教えて

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