建設
食べ物集めもそこそこに休める場所を作るための材料を集める。寝床として必要なのは主に葉っぱぐらいのものだがここを拠点とするならもっとちゃんとしたものを作るべきかもしれない。地べたから離すようにしたり屋根を取り付けたい。そのためにはしっかりとした木を伐採し集める必要がある。
今まで線を引いていた棒の先端に獣を解体するときに使っていた石をツタで幾度にも巻き付け簡単な斧を作った。
こんな物でも細い木を切り倒すには十分だろう。丁度よく交通標識のポール部分程度の太さの木を見つけた。これならばいくつか集めれば材料にもなるし試すにはちょうどいいくらいだ。
作った斧を思い切り振り回すとくの字にへし曲がって折れた。
これならば問題なく使える。簡単に作れるし武器にもなるな。あの虎相手にこんな武器程度で歯向かおうとは思わないが。
似たような太さの木を見つけ次第切り倒し集めていく。支柱にするもの以外はツタでまとめやすくするため出来る限りに長さを揃えていく。
作るものとしては寝床となる床。それを浮かすための柱。それと屋根だ。奥行のあるカラーボックスが近いだろうか。一番下は要らないものとして考えるがその形状が近い。
それなりに本数を必要とするため集めるにはかなりの時間を要した。日も落ちかけている。その甲斐もあってこれだけあるのならば色々試行錯誤も出来そうだ。
木をツタで結び固定して寝床となる板を作り上げる。木自体に加工はしていないため凹凸が出来ているが葉っぱを敷けば気にならない。
少し雑なつくりだが眠るための板が出来上がった。これと同じように屋根も作り上げる。後はこれを柱となる木に括り付けるだけだ。適当に柱を4本突き立てツタで二枚の板を固定する。
ようやく拠点となるベッドが出来上がった。早速試しに寝てみる。しかし屋根と寝床の隙間が狭いせいで体が入りにくい。体を押し込みなんとか寝床に体を滑らせることが出来た。
思ったよりも寝心地が悪くない、が足が寝床からはみ出てしまっている。問題は無いが足がふらふらするのは気になるな。それと屋根が低すぎるせいで寝がえりが打てない。本当に考えなしに作りすぎた。入り込むのにちょうどいい高さにしたら支柱の高さが足りず結果寝るスペースが狭くなるとは。とりあえず支柱をもう少し長いものに変えるか。
試しも済ませたため俺はもぞもぞと動き出して寝床から抜け出そうとした。床板に手をかける。
「よいしょっと」
しかし力を込めた瞬間、突然寝床が地に落ちた。当然俺自身の体も地に叩きつけられる。
「うげぇ」
腰を強く打ち思わずうめき声がでた。打った腰を撫でながら立ち上がり何が起こったかを確認する。地面にはさっきまで俺の寝床だった板が落ちている。ツタの結び方が悪かったのか結んだ至る所が千切れていた。
やはり結び方が粗雑過ぎたか。俺の体重に耐えられるような結び方を見つけなければならない。
「どんなことも学ばないと上手くいかないな。一つ一つ積み重ねか」
ぼやいてからまだ残っている元寝具の残骸を分解した。
日は完全に落ちて辺りは真っ暗になった。日があったうちに見つけていた駄菓子のヨーグルトっぽい果物で腹を満たす。この暗闇の中で出来ることはあまり無いので分解した屋根に寝転がる。やはり足が出てしまう。今日一日の自分の活動を考えてみた。一日中森の中歩き回ったのに森の外に出ることはおろか人の手が入っている場所にたどり着くことすらできなかった。
俺の中で嫌な考えが頭をよぎる。
あれほど歩いていたのに森から抜けられないということはこの世界はずっとこの森なんじゃないか。俺以外に人間はいないんじゃないか。生きていくだけで必死だが俺は元の世界に帰れるのか。
今まで考えないように蓋をしていた疑念が一斉に沸き立つ。辛さではなく恐怖に体が侵食されていく。眠るために瞼を閉じても思考がぐるぐる巡り一切休まらない。
眠れ、眠れ、眠れ。頼むから眠らせてくれ。これ以上俺を考えさせないでくれ。
祈るように願い続けたが日が昇っても結局考えが止まることはなかった。目は冴えたままだ。どうやら俺は何かし続けて眠くなるまで動き続けなければ寝ることはできないようだ。不安で眠れない夜を過ごすのは大学受験の合格発表を待っていた日以来だ。
目を瞑っていても刺さってくる光に負けて俺は瞼を開けた。体はしっかりと覚めている。何の異常もない。だが心がそうはいかない。これ以上生きることに意味はあるのかと問いかけてくる。わかっている。結局朝までこの問いを続けていた時点で死ぬ気など無いことは。でも行動する活力も湧いてこないのだ。
仕方がないので思考を止め、義務的に無理やり体を起こす。ただの仕事だと思えばいい。そうやって生きていこう。考える事を止めなければ。