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言葉紡ぎ  作者: ウミボウズ
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服作り

 俺は適度な力加減を行い石器を作り上げることに成功した。上手くいくまで5個ほど石が砂と化したが。

 肉体の変化に対し取れる対処はこの体がどのくらいの力をもって、何ができるか。それを知る必要があるだろう。でも今は夜だ。この体のことを知るのは明日でも良いだろう。

 今はこの石器を使って鹿の解体だ。解体したことないし時間もかかるだろうから今のうちに進めておきたい。

 石器の尖らせたところで鹿の肉を切り裂いていく。もちろん切りにくいし殆ど無理やり引きちぎっているようなものだ。

 どのくらい時間が掛かったのかもわからないがボロボロながら何とか皮にすることが出来た。解体にてこずったがその後の皮から肉をそぎ落とす方が神経を使った。力を込めないと肉は削げないし、込めすぎると穴が開いてしまうため絶妙な力加減を求められた。

 その苦労の甲斐もあり何とか腰巻ぐらいにはなりそうなものが出来上がった。加工技術も道具も無いため素材そのままだが何もないよりマシだ。

 毛皮を腰に巻き付け、木の蔓で固定する。硬くゴワゴワとした感覚だが何かに身が包まれる感覚というのはとても懐かしく感じられた。未だ文化的な服装とは言い難いが文明レベルは大躍進といえるだろう。妙にそれが誇らしい。

 続いて余った部位も皮にしておいた。大きい部分は殆ど腰巻に使ってしまったためそのままでは服には使えないだろうが何かの役には立つだろう。

 鹿を全部処理し終わったころには周りが明るくなってきていた。木々の隙間から見える空が青い。火も殆ど消えかけている。しまったな肉に火を通しておけばよかった。

 ある程度やることを終えたからか眠気がどっと襲ってきた。このままでは今日の活動に差し支えるかもしれない。と自分に言い訳をして葉っぱを敷いた寝床に転がり込んだ。不思議とこの寝心地の悪い寝床でもぐっすりと眠ることが出来た。

 鳥のさえずりによって目を覚ます。何時間眠れたかわからないが、体に活力は十分だ。時間の把握が出来ないことが怖いが今日は昨日より大きく動くつもりだった。腰巻程度だが隠さなければならないとこは隠せるようになったし、人を見つけられないまでも川は見つけなければならない。

 俺は移動を始めた。昨日とは違う方向だ。昨日と同じく地面に跡を付けていく。鹿の肉は置いていく。火が絶えてしまって焼けないから持っていても仕方ない。生肉を直に持ち続けるのは衛生的にも悪いし、手に持つのは気持ち悪い。

 体感的に数時間は歩き通したが未だに風景に変化がない。どこまで踏み入っても木々しか見えてこない。

 一体どれだけ深い森なんだ。これがずっと続いていくと思うとちょっとした絶望すら感じる。これならば起点を移しつつまっすぐに進んだ方良いのだろうか。

 などと考えつつ歩き続ける。かなりの時間歩き続けたが川か民家を見つけなければここまで歩いている意味が無いのだ。

 再び数時間歩き続けてあることに気づいた。かなりの距離と時間、地面に線を引きつつ歩いてきたが体の疲れが少ない。線の跡が消えないように深めに地面に線を引いているのだが今になってようやく少しだけ負担を感じるだけだ。

 今のこの体は線が細くなっているのに鍛えていた前の俺の体より強くなっているようだ。元々筋トレ自体が趣味で強くなることが目的ではなかったがなんだか少し複雑な心境だ。どれだけ頑張っても石を砕けるほどの力はなかったしここまでの持久力もなかった。生まれがよければこうなってしまうのか。そう考えてしまうのは少し偏屈だろうか。

 しばらく歩いていると水の流れる音が聞こえてきた。音のする方に自然と走っていた。茂みを無視してまっすぐ向かう。

 茂みを抜けると奇麗そうな川が流れていた。これが泥水であるならば躊躇うが奇麗な見た目のため俺は迷わず顔を突っ込んで川の水を飲んだ。ごくごくと音を立てているのが自分でもわかる。勢いそのままに腹を満たすほどに水を飲みこんだ。

 美味すぎる。こんなに美味い水を飲んだのは初めてだ。喉の渇きというのはこれほどまでに水を極上の物へと変えるのか。

 満足した俺はそれ以上、人を探索する気にはならなかった。この川の近くを拠点にするために近くで寝床になりそうな場所を探した。近くに木々の少ない空き地のような場所があった。横になれる程度に生えている草を毟れば十分眠ることが出来そうだ。

 食べ物を見つけたら草むしりと拠点にするための何か材料を見つけることにしよう。川で魚を捕まえても火がないので生魚にかぶりつく羽目になるのは嫌だ

 辺りを探して食べられそうなものを探す。川の近くのせいか食べられそうなものが豊富だ。プルーンに似たような木の実しかなかったがあまり贅沢は言っていられない。毒が無ければだが。

 二つに割って中身を見る。中は白く、固形だがドロッとしている。あまりおいしそうな見た目とは言えない。

 とりあえず皮膚に擦りあててみたが特に反応はない。少し指ですくい取って舐めてみる。

 なんだこの味は。なんか食べたことがあるような気がする。このざらっとした感じとこのねっとりとした舌につくような甘さ。あ、これ駄菓子のやつだ。あのヨーグルトのやつだ。なんでこれ自然物なのにこんな人工物の味がするんだ。

 不満はあるが先程贅沢は言えないと思ったばかりだ。今日はこれで腹を満たす。

 一口だけだが口の中が甘ったるい。また川の水が飲みたくなってきた。これから何をするにしてもまずは水を飲むことからだな。

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