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言葉紡ぎ  作者: ウミボウズ
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名前

 猿を埋葬するため、石で作った簡易的なスコップで地面を掘る。

 ソフィヤに弔い方を教えてもらったところ、俺の世界と変わらず埋葬するのが一般的なようだ。

 ソフィヤは荷物から小皿のようなものを取り出した。器の中は何やら乾いた絵の具のようなものが固まっている。それに水を注ぎこみ、指でかき回して溶かしていく。水はみるみる間に青黒く染まった。

 あれは染料だろうか。

 その染料が付いた指で木の板に何やら文字を書き始めた。

 「それはなにをしてるの?」

 「その子の名前を書いてあげるの。そうしたらその子が生きてたこと、皆にわかるでしょ?」

 彼女は俺の方を振り向かずそう答えた。

 そうか、墓標か。

 俺はスコップを握った手を止めることなく質問を続けた。

 「名前はどうするの?」

 「コニャアク」

 「こんにゃく?」

 「コ・ニャ・ア・クだよ」

 聞いたことない言葉だ。まだ教えてもらっていないものだろうか。

 「それはいったいどういう意味?」

 「意味はないよ。なんとなく。響きがいいから」

 まさかの語感オンリー。道理でわからないはずだ。

 掘った穴を亡骸と一緒に埋め、埋葬を終えた。埋めたところにソフィヤが文字を書いた木の棒を突き立てる。

 簡素なものだが今できる限りのことはしたはずだ。

 両手を合わせ目を瞑り、コニャアクが浮かばれることを祈る。

 「なにしてるの?」

 黙祷を終えるとソフィアに話しかけられた。声の方に目をやるとソフィヤの手には何か握られている。

 「ああ、俺の国では死んだ相手に対してこうするんだ。死んでしまった後に苦しみは無いように、安らかにしてくださいって意味を込めてね。ところで手に持ってるそれ何?」

 「傷口に塗るの。ケガしたでしょ?。見せて」

 なるほど傷薬か。手に持っていたのは何やら生物の殻のようなもので薬入れになっているようだ。

 俺は座り込んで彼女に傷口を見せる。

 「血を止めるのと、きれいにするの」

 殺菌と止血作用のある薬の様だ。水で傷口を流し、薬を塗る。少しばかり沁みる

 後なんか臭いが気になるな。なんで詰まった排水溝みたいな臭いするんだ。

 彼女の手慣れている様子から、怪我をしたら魔法でパッと治せるものだと思っていたがそういうものはないらしい。

 彼女が手当してくれている時、俺は何の気なしに墓標目を向けた。改めて木の棒を見ると文字の大きさがバラバラで、しかも下にある方の文字は埋まってしまい途中で途切れている。

 なんかやたら書いてあることが長くないか?。

 少し気になったので書いてあることを聞いてみる。

 「これにはなんて書いてあるの?」

 「コニャアク・シキューロイヒニフ・キンジ。ここに眠るって書いた」

 まさかのフルネームで名づけられていた。しかも何でか俺の名前まで入っている。

 疑問気な表情だったからか、ソフィヤは俺の疑問に対し答えてくれた。

 「この子の家族の名前は知らなかったから名前をキンジに借りたよ」

 何で名前をそのまま借りられてるんだ?。

 ふと気づいたが、俺は名前の作りを知らない。気になったのでソフィヤに聞いてみる。

 「ソフィヤの名前の作りってどうなってるの?」

 「名前の作り?」

 「ほら、名字…あー家の名前とその人個人の名前とかさ。俺にはあんま馴染みがないけどそれ以外の名前とか。どういう順番で組み立てられてるの?」

 「どういう順番って…普通にその人の名前・その人のお父さんの名前・名字の順番だよ」

 何を当たり前のことを聞いているんだと言った表情で答えてくれた。

 その人の父親の名前が入るのか。確かそういうの父称って言うんだったかな。名前・父称・名字ってことはキンジを名字だと思われてんのか。それと、俺いきなり名前呼んでることになるな。うわ、なれなれしいな俺。外国籍の人と交流が無かったから普通に頭にある方が名前だと思っていた。

 「そうだったんだ、俺の国だと名字と名前って順番で親の名前を入れるとか知らなくて。ごめんね、いきなり名前で呼んじゃって」

 「謝らなくていいよ。私は私自身の名前好きだから」

 そういうものなのか。自分の名前が好きとか嫌いとか考えたことないな。剱地の剱とかほかに見たことねえなってくらいの感想ぐらいしかない。ただ正直ソフィヤ以外名前覚えてないから助かった。

 「名字と名前ってことはキンジが名前だったんだね。シキゥラが家の名前か」

 「志倉ね」

 ソフィヤは少し困ったような表情をする。

 そんなに言いにくいか。

 「次からはキンジシクラって名乗ってね。父称は殆ど省くものだからいいけれど、順番は名前、名字で自己紹介してね」

 「ああうん。こっちの世界に合わせるよ」

 等と話しているうちに手当が終わったようだ。傷口の上に沁みるのもなくなった。多少痛みはあるが動かす分には問題ない。

 が、この臭いだけはいかんともしがたい。自然と顔をしかめてしまう。

 「臭いがひときわ強くなったら後は全然臭わなくなるから我慢してね」

 「これが一番じゃないのか」

 思わずお礼より先に驚きのが口からこぼれた。

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