見せ場
気が付いたら朝になっていた。考えることもせずに寝ていてしまっていたようだ。既にソフィヤは起きていてこちらを見ている。一体何が面白いというのかこちらが目を覚ましてからもずっと眺めてきている。
「おはよう。どうかした?」
そういえば挨拶に関して教えていないことを思い出し、適当に挨拶に関して教える。
「おはよう、だね。ええと私はねキンジのその服を見てたの。それは作ったの?」
彼女は俺の服を少しだけつまんで聞いてきた。
この粗雑なつくりのこれを服と呼んでくれることが妙に嬉しかった。あくまでイメージや印象のみで作ったものだから他人に見られて服と認められるとは思っていなかったのだ。
俺は嬉々として聞かれたことに対して答える。
「うん、俺が作ったんだ。裁縫道具とかないから苦労したけど、芋に火を通してすり潰したのを水で伸ばしたものを接着剤代わりに使ってる。そのせいで時々剥がれたりもするけどね」
思わず得意げになって答えてしまった。伝わらない言葉もあったのだろうか少し表情が微妙だ。
俺はいい気になったことを恥じつつ話題を変える。
「それよりもさ、今日はどうする?。ソフィヤは魔虎を倒しに行くの?」
「むー。行かないといけない、けどまだいい」
ん?、後回しにするのはなんでだろう。と思ったが彼女が目を伏せて顔を少しだけ伏せているのを見てその理由がわかった。怖いんだ。実際に虎の存在が近づくにつれて実感がわいてきているんだ。それに俺の話もあったしこの子くらいの年代なら無理もない。いや、むしろ良く耐えている方だろう。普通ならこんな森に来ようとも思わないはずだ。
俺は改めて協力を申し出る決意をした。
「ねえ、やっぱり俺に君の協力をさせてくれないかな?」
「それは」
いくら怖がっていても俺が協力することを肯定してくれない。頼りたくないのか巻き込みたくないのか或いは単純に信用が足りないのかはわからないが彼女の中の何かが俺の協力を拒んでいる。もっと頼ってくれても良いというのに。でもこれならばいずれは心が折れて協力させてくれそうだ。
「まあ今決めなくても頼りたくなったら頼ればいいよ」
別に彼女自身が今すぐ行くつもりもないのならば俺もそこまで結論を急ぐ必要もない。
彼女は答えを先延ばしにすることに納得し多様で顔を伏せたままだが頷いてくれた。
「とりあえず朝食にしようか。何をするにしてもそれからだね」
「うん」
俺たちは適当に朝食を済ませ、今後の方針を定めていく。
「今日は魔虎倒しに行かないんだよね。何をするの?」
「キンジに言葉を教える」
この子俺を出しにして後回しにしてないか?。俺も断り辛いし妙に上手に避けている。このままじゃいつ退治しに行くかわかったものじゃない。
彼女の魔虎退治の刻限が不安になり聞いてみることにした。
「魔虎退治の期限ってあとどれくらいなの?」
「いつまでなんだろう。特に期限は言われてなかったかな」
この子からすれば倒せさえすればいつでもいいのか。といってもあの生態系の荒らしようだとそこまで放っておくわけにもいかないだろうが。それに期限のない宿題などいつまで先送りにされるか分かったものではない。
「心配しなくても大丈夫。必ず魔虎は倒すから」
怪しんでいるのがバレたようで俺の心を読んだようなことを言ってきた。表情を見るに言葉に嘘は無いように見える。まあ3か月も人の顔を見ていない俺の勘など当てになるものではないだろうが。
特にこれ以上彼女に対し魔虎退治をせまることも出来なかったのでおとなしく彼女の講義を受けることとした。しかして語順や文節が日本語とはかけ離れており、なかなか覚えるのが難しい。数時間教えてもらったがあまり進展したとは言えない。
流石にそろそろ集中力も切れ始めた頃。申し訳ないと思いつつ、彼女の話を少しだけ流し何の気なしに周りを見渡す。すると普段よりやたらに木の葉が舞っているのが見えた。そのまま木の上を見上げるとしきりに木が揺れているのが見えた。
猿か。こちらを見ているな。一匹か、ほかに姿は見えない。存在を認識出来てからようやく敵意を感じた。
すぐさまにソフィヤにそのことを伝える。
「ソフィヤ、近くに猿が見てる。数は一匹。俺たちを狙ってるみたいだ」
猿がいる方向を指す。ソフィヤは驚いた様子だったがすぐさま戦闘態勢を整える。
そうだ、あいつを俺が倒せば俺の力を認めてくれるんじゃないか?。あいつは魔獣じゃないし、何度か殴り合って勝ってる。これこそ見せ場なんじゃないか?。
俺は立ち上がってソフィヤをかばうように前に出る。
「ここは俺に任せてくれ」
猿は自分が気づかれたことを知り前に出てくる。歯をむき出しにして今にも襲い掛かってきそうだ。少しやせている。こいつは肉を食えていないのだろうか。
「大丈夫なの?」
ソフィヤから心配されている。よしよし、良い感じだ。
俺は打算的に戦うこととした。