これからの
彼女は魔法を使い炎を何もない所から発生させた。確かエチキニネだったか。俺も使えるようになれば虎を倒せるようになるかもしれない。なにより魔法を使えるかも知れないっていうのはワクワクする。
俺はさっそくエチキニネについて尋ねてみる。
「今一体何をしたんだい?」
「何って、さっき言った通りエチキニネだけど。力を持った言葉を連ねて想像力を高めて実体化させるの。キンジの世界にはないの?」
もちろんない。漫画やアニメのの中ぐらいでしか存在していない。
俺は今までの失言を考え少し言い方を変える。
「少なくとも俺は見たことないかな。あるかもしれないけどソフィヤの世界ほど当たり前の物じゃないと思うよ。作り話だったら似たようなことは聞いたことあるけどね。俺の世界で近いのは魔法って言葉かな」
何も考えずに返答していたらそんなものないよ、みたいことを言っていたと思う。
この返答が相当意外なものだったらしく表情が驚いたものへと変わっていた。
「エチキニネが無いってそんなことあるんだ。生活するの大変じゃない?」
生活に組み込まれているほどなのか。炎を発生させる以外にも色々あるだろうし生活の欠かせない一部なのかもしれない。
「俺の世界にはまた別の便利なものがあるから。電気を動力に動くものなんだけどね。それで色々燃やしたり動かしてるんだ」
「ほうほう」
ソフィヤはそれにも興味を示したようだ。目をキラキラとさせて聞き出そうとしている。だが先にこちらの質問を優先させる。
「それよりもさ。エチキニネって俺にも使えないかな?。それが俺にも使えたら危なくないし、魔虎だって少しは楽に倒せるでしょ?」
きっと今の俺の目も機械のことを聞いたソフィヤのように目を輝かせているのだろう。我ながら年甲斐もないはしゃぎぶりだ。
「うーん、それはちょっと」
あまりよろしくない反応だな。目に見えて嫌そうな反応だ。
「まだ言葉を覚えていないのにエチキニネを教えるのは何かおかしいと思う。上手く言えないけど変な覚え方しちゃうと思うよ」
全く反論できない。確かにまともな言葉を覚えていないというのにそれだけ教えてくれというのは無理なことを言っている。逆の立場であったら何を生意気なことを言っているんだとさえ思うだろう。
「だからまずは言葉を覚えようね」
「はい」
まるで大人に諭されているようだが、この状況で俺には肯定しかありえなかった。
続けてソフィヤは得意げに話し続ける。
「わかってもらえたと思うけど私にはエチキニネ、魔法だっけ?。使えるから。私一人でやれるよ。そもそも魔獣には魔法でしか倒せないしね」
「魔法でしか倒せない?」
思わずそのまま聞き返してしまった。もしそれが本当ならば俺の罠は何の意味もないことになってしまう。
「うん。魔法じゃなきゃ傷をつけることもできない。押したりとか力任せに無理やり吹き飛ばすとかはできるかもだけど」
悲しいことに何の意味もなかったようだ。それに俺に出来ることは少なそうであの体格差では力で絶対勝てない。
「だから私は一人でやるから大丈夫だよ」
一人で放っておくには不安だが足手まといにしかならなそうだし協力できることはなさそうだ。
少し気をを落としたところでかなり夜が深まっていることに気づいた。話もちょうどよく途切れたため寝ることを提案する。
「かなり遅い時間になってきたみたいだしそろそろ寝ようか」
「そうだね。明日はもっと言葉を教えてあげるね」
その言葉に愛想笑いで返すことしかできなかった。
寝る準備を進め、特に寒くもないので焚火を消化する。ソフィヤは荷物の革袋を枕にして横になった。
仕方ないとはいえこの子地べたで寝るのに抵抗ない子なんだな。正直俺は今でもある。地面はとても固いのだ。
ソフィヤが寝息を立て始めたのを確認してから明日のことに考えを巡らせる。
こっちに来てからというもの少しだけ記憶力が良くなったと感じるもののやはり新しい言語を覚えるのは難しい。それにソフィヤほど上達しないことももどかしく感じる。彼女のレベルからしたら教え方にはかなりの無駄があるのだろうし彼女の目的も遅らせる事になってしまう。俺のことより先に彼女のことを優先してもらった方がいいのではないだろうか。とういかこのまま好意に甘えているだけでは申し訳が立たない。俺は彼女に心を救ってもらい言葉も教えてもらったのだ。やはり何かしらの実を伴った見返りをしなければならないだろう。
明日もう一度協力を申し出ることを決意する。
今は断られているが俺が協力することに魅力を感じさせてやるのだ。今のところなんの案も浮かびそうにないが、まあ寝るまで考えていれば何かしら思い浮かぶだろう。
俺は深く思考を巡らすために横になり目を瞑った。