第三章 炭坑と駅と駅弁と
列車は緩やかなカーブを通りきった後、トンネルに差し掛かった。
真っ暗。蒸気機関車の煙が入ってくる。
暗闇を抜けた後、左側に炭鉱が見えてきた。あれは竪坑櫓だろうか。
煙突も2本立っている。けむりがもくもくと立っている。大九州砿業古森中央坑。
私は覚えている。12年後、この炭坑で爆発事故が起こったことを。
死者・行方不明者あわせて、190名。大惨事だった。この事件で、閉山したんだったかな。最後まで残った炭坑だった。
怪我人が病院に入りきらなくて、曽祖父の家にも10人ほど治療のために、一時的に来ていた。そう父が言っていた。
私の祖父は医者で、ボランティアとして手当していたそうだ。
今はどうなっているのだろうか。
地図を広げた。そこには、"慰霊塔" という文字があった。
およそ200もの魂、罪のない炭鉱夫が、天国へ旅立ってしまった。
悲しみは、今も忘れることはない。
「まもなくぅ 古森ぃ 古森ぃ 古森にとまりますぅ」
車掌がそういうと、古森駅のホームが見えてきた。
古森駅は田んぼの中にある。黄色がかった稲と焦茶の木造駅舎のコントラストがたまらない。
周りには、豪農の家がまばらにあるだけで、木本より賑やかではない。
「古森ぃ 古森ぃ」
夫婦とおじいさんが降りた。かわりに、高校生だろうか。学生帽と学ラン、スラックスを着た青二才が乗ってきた。とても欠伸をしている。寝坊したのだろうか。もう昼どきだから。
ふと思った。腹も減ってきた。今何時だろう。しかし、富永まで運賃を払ってしまったから、飯は富永駅についてから食べることにして、ひとまず車掌にきこう。
「すいません、今何時ですか?」
「ええと、11時42分です。もう昼ですね。あ、次の嶋田駅で駅弁売ってますから、ご飯はそこで買うといいですよ。」
「え、なんで腹へってることが分かったんですか?」
「だって、もう昼ですよ・・・ みんなお腹すきますよ。嶋田駅の駅弁はとてもおいしいですよ。有山線の名物です。2種類あって、私のお勧めは "筑前煮弁当" ですよ。今日も買います。じゃあ、そろそろ。」
「すみません、呼び止めて。」
「いいですよ。気にしなくても。」
ドアが閉まり、古森駅を出発した。しょうもないことだが、青二才はこれまで6回も欠伸していた。おかげで、私も欠伸してしまった。
列車は古森駅を離れ、嶋田駅へと向かった。ポーーーーーーーッ。蒸気機関車の汽笛が鳴った。




