第41話 断罪のお時間です
作戦決行の日。
アトリエに事前に仕込んでおいたピースケで中の様子を確認し、シリウスが鼻息荒く絵を描き始めた所で突入することに。
「そろそろ頃合いかと思います」
「それでは、現場に向かおう」
皆に透明化バリアを張って、すごく疲れた。しかしシリウスの断罪ショーを見るまでは休むなんて出来ないぜ!
生徒会メンバーをシリウスのアトリエまで案内して、いざ突入!
「動くな、シリウス」
すかさずドアを閉めて音漏れを防ぐ。
まぁ、アトリエで発狂する声が漏れるのはここでは珍しい事でもないし多少うるさくても誰も気にしないだろう。芸術家とは、良くも悪くも興味あること以外には無頓着な奴が多いし。
「ハイネル様?! それに皆さんお揃いで、どうなされたのですか?!」
「よくない噂を耳にしてな。真相を確かめにきたのだ。シリウス、その絵を見せてもらうぞ」
「いけません、ハイネル様! こちらはまだ未完成なのです!」
往生際悪くも、シリウスは絵に覆い被さって見せようとしない。
「構わぬ。レオン、シリウスをどかしてくれるか?」
「ああ、任せろ」
レオンハルトは軽々とシリウスを絵から引き剥がした。すると露になったのは、描きかけの女体画だった。
「シリウス、私は学園内では絶対にこのような絵は描くなと言っていたと思うが? どういうことか、説明してもらおうか?」
「す、すみませんでした! しかしこれにはわけがあるのです!」
ものすごい勢いで床にひれ伏したシリウス。知的でクールなイケメンは、無様な姿でとんでもない理由を口にした。
「神の啓示を受けたのです! 美しい花達が枯れてしまう前に、清らかな姿を白いカンバスに残しておくようにと、神が私に啓示を授けてくださったのです!」
神様のせいにしちゃいけねぇよ。ほら、皆しらーっとした目で見てる。
「シリウス、神をも冒涜するつもりか?」
「滅相もございません! 私は神の啓示に従ったにすぎません!」
「ほほぅ、そうか。それならなぜ私に報告しない?」
「そ、それは……」
「何月何日何時にその啓示を受けたのだ? 神殿で調べればすぐにでも分かるような事、よもや嘘をついているわけではないだろうな?」
シリウスの顔がみるみる青ざめていく。
「誠に申し訳ありませんでした! 全ては欲望を抑えきれなかった私の未熟さ故に招いた失態です! どのような罰もお受けいたしますのでどうか……どうか私のコレクションだけは燃やさないで下さい!」
これは昔、燃やされた事があるんだろうなぁ。
「却下だ。裸婦画は全て焼却処分。シリウスには上級シュナイダー式更生プログラムを受けてもらう。ユリア、早速連れていってくれ」
「かしこまりました、殿下」
鞭を一振りして、シリウスをぐるぐる巻きにしたユリア様。その手際は見事なものだった。
「ひぃぃぃ……ユリア、なぜ君がここに……」
「それは勿論、貴方をいたぶるためですわ、シリウス様。あれだけ調教してあげたのに、本当に懲りない方ですわね。そんなに丸みのある曲線がお好みですか?」
「い、いや、違う、違うんです……絶壁こそ至宝! そう、絶壁こそ美しい!」
「この絵のどこに絶壁があると仰るのですか?」
「そ、それは……っ! ですがユリア、私は君の絶壁なら是非ともモデルにして絵を描きたいと思っています!」
あ、完璧につんだな。直感的にそう思った。般若と化したユリア様を見る限りあながち間違ってなさそうだ。いくらイケメンでも、女性を傷付ける言葉をいっちゃいけねぇよな。しかも、こんなに大勢の前で。
「余計な煩悩が捨てられるまで、徹底的に調教してあげますわ。ご安心ください。私は公私混同しない主義なので、例え貴方が婚約者であろうが、容赦はしませんので」
ユリア様がパチンと指をならすと、どこからともなく黒装束の男達が現れた。男達は、令嬢の指示に従いシリウスを袋に詰め始める。
「お願いです、ユリア。君は私の婚約者ではありませんか。どうか慈悲を……」
「仕方ありませんね。では特別に、最高に厳しくしてさしあげますわ」
自業自得だな、これは。燃え尽きた灰のような顔をしたシリウスが、完全に袋に詰められた。
「それでは殿下、失礼致します」
優雅に挨拶して、ユリア様は黒装束の男達と消えていった。あの袋から出された時、シリウスの地獄が始まるんだろうか。
「ルーカス、シリウスはどこに他の作品を隠している?」
「この彫刻像の下です」
天使の彫刻像を移動させ、床下から施錠された宝箱を取り出す。
「本当に悪趣味だね。裸婦画を宝箱に収納するなんて……」
うんざりした様子で、エレインが吐き捨てた。
アトリエをもう一度調べた後、俺達は宝箱を生徒会室へと持ち帰った。そして被害状況を確認するために、宝箱の中身を確かめていたわけだが……
裸婦画を前に、眉ひとつ動かさず被害者の学年と名前を淡々と確認して読み上げる会長のハイネル。それをサラサラと達筆で記録していく書記のレオンハルト。
ただ、ハイネルも全校生徒を把握しているわけではないため、下の学年はレオンハルトやエレインに尋ねてくる。顔を赤く染めながらも、なるべく身体を見ないように顔だけを確認するレオンハルトはやはり紳士だな。
所で俺は、いつまでここに居ればいいのだろうか。後は生徒会の仕事だろうし、関係ない俺は帰ってもよくないか?
生徒会室を掃除しながらそんな事を考えていた時、エレインが突如悲鳴をあげた。
「どうされました、エレイン様!?」
ハイネルの手から絵画をすごい速さで払いのけたエレインは、顔が真っ赤に染まっている。ヒラヒラと俺の足元に落ちてきた絵画を拾うと、そこにはエレインが描かれていた。もちろん、一糸纏わぬ姿で。
「見るなー!」
鬼の形相でエレインが俺の手にあった絵画を奪い取り破り始めた。
「あの変態眼鏡! 絶対に許さない!」
シリウス、サラシで巻かれていたエレインの身体を妄想ではかりとったのか? 恐るべき執念だ……。
「レイ、お前を辱しめたシリウスにはきちんと罰を与える」
「絶対だよ!」
「ああ、約束しよう」
こうしてみてると、エレインってやっぱ妹みたいに大事にされてんだな。
全ての確認が済んだ後、レオンハルトが口を開いた。
「もう終わりか? エッタのものは、なかったのか?」
「ああ、安心しろ。ガルシア公女のものはなかったようだ」
「そうか。よかった……エッタのものがなくて良かった。良かったのだが……シリウスの目には、あのエッタの可愛さが伝わらないのか?! それはそれで、腹が立つ」
レオンハルト、お前も地味にめんどくせーやつだな! 素直になかったことを喜んどけよ!
こうして、インテリイケメンことリヒテンシュタイン侯爵子息シリウスの排除は完了した。
これにてシリウス編完了となります。
ここまでご拝読頂き、ありがとうございました!
次は第一王子ハイネル編に入ります。
魔法学園の頂点に君臨する孤高の王子に隠された本当の正体を、ルーカスが暴いてくれることでしょう。
現在鋭意執筆中で、次回は完結してから更新する予定です。亀の歩み更新ではありますが、引き続き楽しんでいただけたら幸いです!










