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第2話 おんぼろ学生寮の草むしり

 ルフェーブル魔法学園の敷地内の離れには、二つの学生寮がある。

 一つ目は、立派な豪邸を思わせる美しい洋館。

 入口の立派な門には門番が居て、その豪邸を囲むように綺麗に整えられた大きな庭園があり、ガッチリと頑丈でお洒落な金属のフェンスで囲まれている。


 そんな立派な建物を途中まで眺めながら、身体を九十度方向転換させて結構歩いた先にあるのが、俺が住んでいるもう一つの学生寮。

 いかにも何か出そうな古びた洋館。壁にはツタが張っている。

 入口の半壊した門をくぐると、あちらの豪邸に負けじと洋館を囲むように広めの庭はあるが、一部分を除いて草が伸び放題で一歩でも足を踏み出そうものなら一瞬で虫の餌食になりそうな予感。

 囲むように積まれたレンガの塀は所々崩れており、あまり機能していない。


 貴族と平民で分けられているのかと思いきや、寄付金額で寮は決まるらしい。

 そのためこの寮には遠方から通う平民と、貧乏貴族が住んでいるというわけだ。

 とはいっても、平民で今この学園に通っているのは俺やティアナ、ダリウス、寮長の他に数名ほどしか居ないらしい。加えて貴族で入寮しているのも少人数で、広い洋館内の部屋はほぼガラ空き状態だ。


 寮の管理人アンナさんは結構な年のばあちゃんで、とてもこの広い寮の管理を独りで出来る状態じゃない。

 というわけで、屋敷の掃除から庭の手入れまで全て入寮している学生に委ねられているらしい。

 人数が少ない上に、お貴族様達は何も手伝ってくれない。限られた人数では洋館内を掃除するのが手いっぱいで、中々庭まで手が回らないのが現状だそうだ。


「悪いね、ルーカス君。入学早々草むしりなんて手伝ってもらって」

「いえ、これから世話になるんですからこれくらいやりますよ」


 というのは建前で、あんなに草が伸び放題の庭じゃ窓も開けらんねぇっていうのが本音だったりする。

 入寮の際、好きなフロアを使って良いと言われた。階段を登るのが面倒だった俺は、すかさず一階の部屋を選んだ。

 横着しようとしたのがいけなかったらしい。暑くて窓を開けてたら、もれなく虫さん達が勝手に不法侵入。

 おちおち窓も開けて寝られないっていうのが分かったのが今朝だった。


 むしるしかないでしょ、全力で早急に!

 ここにはティアナも住んでいるんだ、虫の餌食になんてさせてたまるか!


 ってわけで放課後、寮に帰った俺は寮長が草むしりしているのを手伝っていた。

 とはいえ、敵は俺の身長の半分以上ある草だ。

 掴んで引っ張るもしっかりと根を張った草はびくともしない。


「まいったな。やはり素手では無理だね。去年はダリウス君が手伝ってくれて、召雷魔法で器用に草だけを全て炭にしてくれたんだ」


 やるなダリウス。

 魔法で何とか出来れば早いんだろうが……


「あの、ちなみに寮長は何の魔法が使えるんですか?」

「僕が得意なのは水魔法だよ」


 水を撒いたら草が生き生きするだけだな。

 でも、草むしりをするなら地面が柔らかくなった雨の次の日が最適だっていうし、ようは使い様か。


「寮長、この庭に雨を降らせる事は可能ですか? 地面を濡らしたいんです」

「可能だけど、濡らしたくらいで抜けるかな?」

「道具は俺が用意します。なので、お願い出来ますか?」

「分かったよ」


 寮長は天を仰ぐように両手を広げると、雨雲を召喚して庭一体に雨を降らせた。

 その間俺は、創造魔法で草むしりの道具を用意する。

 創るのは「パワー強化手袋」、「鋭い鎌」、「自動収集ゴミ袋」の三点。


 俺の創造魔法は心の中で創造したものを具現化する事が出来る。

 その際、三つまでなら効能を付与できるのだ。


 パワー強化手袋は、はめた人の力を強める効能を付与させた手袋。

 これで、長い草をまず引っこ抜く。


 鋭い鎌は、一振りするだけでスパッと何でも切れる効能を付与させた鎌。

 短い草はこれで一気に刈ってしまおう。


 自動収集ゴミ袋は、むしった草を自動で集める効能を持たせたゴミ袋。

 近くにあるむしった草はこれで簡単にゴミ袋に吸い込まれて片付く。


 それらをとりあえず二人分用意して、片方を寮長へ渡す。簡単に道具の説明をしたら作業開始だ。


「すごいよ、ルーカス君! あんなに頑固だった草が嘘みたいに簡単に抜けるよ!」

「寮長が先に水をまいて土を柔らかくしてくれたおかげですよ」


 かなり作業が楽になった。

 途中、自動収集ゴミ袋だけ作り足して、庭の半分くらい草むしりが終わった頃、アンナさんが差し入れに冷えた麦茶と水菓子を持ってきてくれた。


「ルーカスちゃん、ランボルトちゃん、ほんと悪いねぇ。疲れただろう? 少し休憩にしようか」


 ちなみにランボルトちゃんとは寮長のことで、ダリウスと同じで学年は三年生の先輩だ。


「昔はね、あっちに負けないくらいここも立派な寮だったんだよ。二つの寮が切磋琢磨して競い合って、学園を盛り立ててたんだよ。懐かしいねぇ」

「俺、その話知ってます! 確かリシャール公爵家のアレクシス様が、身分の低い者達の味方になってこちらの寮に引っ越してこられて革命を起こしたって」


 リシャール公爵家のアレクシス……とても聞き覚えのある名前に、俺は二人の会話に聞き耳をたてた。


「そうそう。あの頃はアレクシスちゃんに影響されて、この寮の子達も意欲的に頑張ってたよ」

「アレクシス様の伝説は、今でもしっかりと受け継がれていますよ。全ての学生が身分にとらわれず学べる環境を作るために、尽力されていたと」

「そうそう。アレクシスちゃんが卒業してもその風習はしっかり根付いてしばらくは良かったんだ。でも王族とそれに連なる貴族達が入学してきてからやりたい放題でね、結局昔のような身分格差に厳しい環境に戻ってしまったんだよ」

「あの……ちなみに、そのアレクシス様って今何をされているんですか?」

「今は確か各地を回って魔力持ちの平民の子達の教師をやってるみたいだよ。正しい魔法の知識を教えるために」


 やっぱりアレク先生じゃないか!

 俺達がまだ小さいガキの頃、三ヶ月間だけこちらに住み込みでやってきて、魔法の事を教えてくれた破天荒な変わり者教師。

 昔は中々魔法が制御できなくて、魔力駄々もれ状態だった俺は、心に思い描いたものを何でも具現化させて、皆に迷惑かけっぱなしだった。そんな時に、風来坊のようにしてやってきたアレク先生は俺の目線の高さまで屈むと笑顔でこう言った。


『ルーカス君。一度、思う存分作ってごらんよ。魔力と向き合う事って、実はすーごく重要なんだよ。制御するにはまず知る事からってね。しりとりでもやりながら、やってみようか』


 その言葉に従った結果、俺は先生としりとりをしながら村の広場をガラクタで埋め尽くしてしまった。

 アレク先生はその後、一緒に村長の所に行って謝ってくれて、片付けるのを手伝ってくれた。


『今日は楽しかったね、ルーカス君』


 帰り道、先生はそう言って俺の頭を撫でてくれた。やることなすこと全てが破天荒だったけど、気さくで面白い人だった。


『光魔法を極めるには、光を知る事からだね』


 なんて言われて、一緒に河原でボーっと雲を眺めて日光浴をした。

 こんな事をしてなんの意味が……と最初は半信半疑だったけど、アレク先生の指示に従って色んな光を感じるうちに、俺は創造魔法を正しく制御できるようになっていった。

 それはダリウスもティアナも一緒で、俺達にとってアレク先生はとても頼りになって尊敬する先生だった。


『君達にはとても優れた魔法の才能がある。その力を是非、世のため人のために役立ててほしい』


 最後の授業でそう言って、先生は俺達にあるバッジをくれた。

 最後まで自分の授業に頑張ってついてきてくれた証、卒業証書の代わりだと言って。


『何か困った事があったら、東の地にあるリシャール公爵家を訪ねておいで。このバッジが君達を僕の元へ案内するから』


 そこで初めて先生が偉い貴族様なんだと知った。

 アンナさんと寮長の話を聞いて、あの人ならやりかねないなと思った。

 もしアレク先生が今、この学園の現状を知ったらきっと悲しむだろうな。


 ダリウスの手紙にも、ティアナの手紙にも、決して貴族に対する悪口は書かれていなかった。

 それはきっと、俺の貴族に対するイメージを、アレク先生への憧れを崩さないためだったんだと今になって気付いた。

 いつか先生のような教師になりたい。それが、幼心に描いた俺の夢だったから。


「ご馳走様でした。アンナさん、差し入れ美味しかったです! ありがとうございました」

「おやおや、ルーカスちゃんもういいのかい?」

「はい。昔みたいには無理でも、少しでもアレク先生が在籍されていた頃のように出来たらいいなと思いまして、草むしり頑張ります!」


 柄にもなく頑張った結果、草で覆われていた庭はきちんと見通せる程綺麗になった。

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