第19話 新入生歓迎オリエンテーション
今日は朝から新一年生入学を祝うためのオリエンテーションが行われていた。
ルフェーブル魔法学園の敷地内にある魔法の実技練習場の、東西南北に設置された四種類のスタンプを集めて来いという理不尽に歩かされるイベントだ。
魔法の実技演習場は馬鹿みたいに広い。
魔法が暴発しても周囲に被害が出ないよう、何重にも結界のはられたその場所は約六キロ四方の広さがあるらしい。
中央には転移結晶が置いてあり、校舎内から一瞬でテレポートして来れるものの、そんなだだっ広い場所全部を使って行われると聞いた瞬間、俺は寮に帰りたくなった。
実技演習場は、用途に合わせてフィールドを自由に変えられるのだ。
今回のイベントにあたり、北方は森、南方は砂漠、東方は岩場、西方は湖といったようにフィールド設定がしてあり、平坦な道ではない。要するに、面倒くさい仕様なわけだ。
しかもクラス対抗イベントらしく、一番早く四つのスタンプを集め中央にあるゴールエリアに持ってきたクラスの勝ちらしい。
生徒会主催で行われているこのイベントは、優等生の上級生軍団が道中トラップを仕掛けているそうだ。
それをクラス一丸となり協力して困難に立ち向かい、親睦を深めようという趣旨らしいが、正直怠い。
親睦を深めるというよりは、主と奴隷がしっかり浮き彫りになるイベントだと俺は思っている。だってこの学園、友情、努力、とか大嫌いでしょ。
適当にばっくれようと思ったが、我がクラスのリーダーゲルマン様がやる気に満ちあふれていて解放してくれない。
「いいか? 必ず我らがC組が優勝を取るぞ!」
一年は二十人のクラスが三つある。
A組のリーダーはガルシア公国第二公女のヘンリエッタ。レオンハルトの婚約者だ。
B組のリーダーはリヒテンシュタイン侯爵子息ノワール。シリウスの弟だ。
C組のリーダーはリッチモンド伯爵子息のゲルマン。特にこれといって特徴は無い。
今だけでいいからAかBに入れてくれないかな。エリート集団の関係者に近付く絶好のチャンスだっていうのに、ゲルマンが解放してくれない。
何でもこの学園、三年間クラス替えはないらしく、時折挟まれるこういったイベントで獲得した優勝トロフィーの数で最後に優秀クラスが決まるらしい。
リーダーとなった貴族の方々は、自分のクラスがそれに選ばれると大変名誉な事らしい。
だからゲルマンの気合いの入り具合が異常なのだろう。そのくせ作戦も何もなく、各自ベストを尽くせときた。お前、まじでリーダー向いてないよ。せめてリーダーらしく作戦とか立ててよ。
意識だけ高く、中身は大きな穴の開いたザルで水を掬おうとする我らC組とは違い、他のクラスはかなり統率がとれているようだ。
「ヘンリエッタ様! 南方スタンプ奪還の任は是非、我らにお任せ下さい」
「分かりました。ですが、決して無理はしないで下さいね。優勝よりも優先すべきは皆の安全です。楽しくイベントを頑張りましょう」
「勿論です!」
「ああ、ありがたき幸せ!」
「それでは私達は、西方へ向かいましょう」
ヘンリエッタ率いるA組は、まるで姫を守る騎士のように、クラスメイト達が団結し合いスタンプ奪還に向けて旅立っていった。あの無駄に高い忠誠心はどこからきているのだろうか。
どうやらA組は人員を多めに振り分けて確実に二カ所を取り、その後残りの二カ所を目指す戦法のようだ。
それに対しノワール率いるB組は、彼が先頭に立ちチーム分けをしていた。
「カルロス、イヴァン、セレイナ! 君達を各小隊の隊長に任命する。知識、経験、実力、全てを考慮して僕が考えた最適パーティをここに記した。各自隊長の命令の元、その力をいかんなく発揮してくれ。スピーディかつパーフェクトに! 君達なら出来る!」
「イエス、マイロード!」
軍隊なの? あのクラスって軍隊なの?!
切れ者指揮官がめちゃくちゃ統率とって行っちゃったよ?
四組に分かれて一気にスタンプ狙いにいくらしい。多分優勝はB組だろうな、うん。
観察してる間に、俺の周りからC組の奴らは誰一人居なくなっていた。
騎士団にも軍隊にも所属したくねぇ。俺は一匹狼でいいや。
スタンプよりも、俺には優先すべき事項がある。折角エリート集団の縁者が二人も居るんだ。情報収集を優先したい。
ヘンリエッタに対する守りが堅すぎて近づけない今、ここはとりあえずノワールの後を付けることにしよう。
ばれないようこっそり後を付けるも、先輩達の無駄に本気度が伝わってくるトラップの数々のせいで見失ってしまった。
俺は今、林の中で炎を纏った鉄の甲冑鎧に追いかけ回されている。
北方のスタンプ場を守るように設置されているようで、近付く者を追いかけ回す仕様らしい。
これ、エントランスに飾ってあったやつじゃん。何で炎纏って追いかけてくんの?!
不幸中の幸いか、同じように追いかけ回されているノワール達を見つけた。
「皆さん、逃げるだけでは進めませんよ」
空の方から呼びかけるように声が降ってきた。声のした方を見ると、木の上にちょこんと腰掛けたサンドリア様がいらっしゃった。
こちらに気付くと、サンドリア様は微笑んで手を振って下さった。
いや、コイツ等を止めて下さいよ! と内心で懇願しつつも、頭を下げて会釈を返す。
流石は力馬鹿エミリオ様の婚約者。見かけによらずバイオレンスな魔法の使い方をなさるのは、ご挨拶みたいなものなのかもしれない
「アクア、魔法で彼等を消火してくれ」
「かしこまりました、ノワール様!」
追いかけ回されていたB組のノワール達が、炎を纏った甲冑鎧に向き合った。
アクアと呼ばれた少女が水魔法を使って炎を消すと、甲冑鎧達は動かなくなった。
「よし、今のうちに行くぞ! アクア、よくやってくれた!」
仲間を労いつつ、ノワール達は北方のスタンプ場へ行ってしまった。
なるほど、炎を消せば止まるのか。
創造魔法で水の入ったバケツを作り出した俺は、それを思いっきり追いかけてくる甲冑鎧にかけた。纏っていた炎が消え動かなくなったのを確認して、俺はノワール達を追いかけた。
林のフィールドを抜けると棘の庭園と書かれた開けた場所に辿り着いた。どうやらここが北方のスタンプ場らしい。
四方を茨で囲まれた庭の地面には何故かぎっしりと茶色い落ち葉が敷き詰められている。季節感ゼロだ。
一歩足を踏み入れた瞬間、目の前に物凄いデカくて鋭利な牙が迫ってきた。
く、食われる?! 慌てて後ろに飛びのいた。
何とか避けれた事に安堵していると、頭上からタラーンと降ってくるドロンとした液体。
地面からジュワーって嫌な音がするんだけど! え、まじ? 溶けてるし……
「避けちゃダメだよ、ルーカス。ちゃんと食べられてくれないと」
聞き覚えのある声がして見上げると、うねうねとつるのような触手をいっぱい持つ食虫植物の上に、とっても見覚えのあるお方が座っていらっしゃった。
「エミリオ様……こんな所で何やってるんですか!」
レオンハルト編の執筆完了しましたので、ぼちぼち更新していきます。
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