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第1話 この学園は絶対的な格差社会

 貴族ばかりが通う学園内で、平民は肩身の狭い思いをしながら生活しなければならない。

 入学当初に行われた実力テストで俺はそれを痛感した。

 終わった者からテストの答案用紙を提出して帰っていいと、教師は言った。


『寄付金も収められない平民のくせに、お前が提出するのは一番最後だろ? 身分をわきまえろよ、貧乏人』


 早く済ませた俺がそれを提出しようとした時、俺のクラスを取り仕切る一番身分の高いリッチモンド伯爵子息のゲルマンに言われた言葉だ。

 ヘコヘコ頭を下げてゲルマンの答案用紙を受け取った教師は、クラス中の全てのお貴族様がテストの答案用紙を提出するまで、俺の答案用紙を受け取らなかった。


 教師が学生を差別するなんて、俺はその光景が初めは信じられなかった。

 けれどこの学園内では大人だろうが権力の前では関係ない。

 平民と貴族の間には超えられない格差があった。


『先生。それ、もう要らないから片付けといて』


 まるで使用人のような扱いを受けた教師は、『はい、かしこまりました』と言われたとおり、さっきまでお貴族様達が使っていた魔道具を片付けていた。


 その様子を見ていたら『ルーカス、お前も手伝え!』と、担任教師に命令された。


上位貴族の学生>下位貴族の学生>平民の教師>平民の学生


 学園で一日過ごして分かったのは、底辺に位置する俺は、命令された事をやるしかない小間使いのような扱いを受けて過ごすしかないという事だった。


 翌日には散々待たされて提出したテストの結果が掲示板に張り出されていた。

 内容には結構自信があった。しかし、掲示板を見て俺は愕然とした。


 クラスの中で、俺の順位は最下位で、ゲルマンが一位だった。

「面倒だから」と白紙に近い状態で、提出した奴等が居ることを、教師の隣で散々待ってた俺は知っている。

 それなのに、俺が最下位。ちなみに返ってきた答案は、ほぼ満点に近い点数だった。


 納得できなかった俺は教師に訴えた。

 どうして俺が最下位なのかと。


 教師は言った。

 あのテストは学力の順位を示すものではなく、地位(爵位)や財産(寄付金の額)、おまけで学力をトータル的に見て判断された順位だと。

 実力テストとは名ばかりで、格差を明確に知らしめるためだけの単なる余興だったのだと、そこで知った。


 授業料免除で通わせてもらえるのは、貴族の援助があるからだと重々承知している。

 それでも、腐りすぎてて乾いた笑いしか出なかった。

 ここに居るのは保身が一番の教師と、身分で順番付けされた実力を当たり前だと信じて疑わない馬鹿ばかりだった。


 努力しても報われない現実があるのだと、その日人生で初めて知った。

 圧倒的な身分差を前に、平民は貴族の機嫌を損ねないようしなければならない暗黙の学園ルールがそこにはあった。

 この学園内で、平民は何をするのも一番最後。

 それが当たり前のルールで、従わなければその権力で簡単に追放されてしまうのだ。

 学園を追放された平民は、国の義務である魔法の学業課程習得を怠ったと見なされ、故郷にも帰れない。

 国のためにただ魔力を搾取されるだけの収容所に送られ、死ぬまで一生そこで家畜のような生活を余儀なくされるそうだ。


『いいか、ルーカス。三年我慢すれば、平民のお前には輝かしい出世コースが待っている。一時の屈辱を我慢さえすれば、その道は開かれるのだ。くれぐれも、馬鹿な真似だけはするなよ』


 それが、教師の言う台詞なのか?


 喉元まで出かかった言葉を俺は何とか飲み込んだ。

 担任のカタール先生の目を見れば、それが本心で言っているのが容易に見てとれた。

 教師としての言葉ではなく、さながらこの学園の卒業生である大先輩としての言葉だったのだろう。


 魔法学園に通えるのは平民にとってはかなりのステータスにもなるが、それは同時に諸刃の剣でもあるというわけだ。

 生き残るには貴族に認められて後見を得るか、荒波立てず目立たないようそのルールを遵守して、ひたすら三年間我慢するしかないのだと入寮の際、同じ平民の寮長が言っていたのを思い出した。

 最初は何の事か良く分からなかったが、今ならそれがどういう意味かよーく分かる。







 学園を牛耳る一番のエリート集団に囲まれたティアナは、視線を彷徨わせて困ったように愛想笑いを浮かべていた。

 彼等の誘いを無下に断ってもひんしゅくを買うし、それを受け入れてもひんしゅくを買う。

 どちらにしても、向けられるのは負の感情ばかりだ。


 居たたまれなくなって助けに行こうとした時、ティアナと目が合った。

 と思ったが、悲しそうにこちらを見つめるその視線は、俺ではなくその斜め後方に向けられていた。

 振り返ると、そこには二年見ない間に凛々しく男前になったダリウスが立っていた。

 その傍らには美の化身といっても過言ではない程の洗練された美しさを持つ令嬢が立っていた。


「アリーシャ様、本日は中庭などいかがでしょうか?」

「そうするわ。ありがとう、ダリウス」


 アリーシャと呼ばれた令嬢の視線の先には、第一王子ハイネルが居た。

 ダリウスの呼びかけに悲しそうに視線を落として、名残惜しそうにその場から踵を返して歩き出す。

 その一歩斜め後ろに付いて、ダリウスもその場を去った。


「ここだとギャラリーが多いから特別サロンへ案内するよ。行こう、ティアナ」

「ですが、私は平民です。そのような所には……」

「私と共にくれば何も心配する事はないよ」


 半ば強引に第一王子ハイネルがティアナの背中に手を当てて立つのを促す。

 逆らえずに、ティアナはそれを受け入れて席を立った。

 歩き出そうとしたティアナに、俺はわざと大きな声で呼びかけた。


「ティアナ!」


 振り返ったティアナは驚いたようにこちらを見て、戸惑いがちに声をかけてきた。


「もしかして、ルーカス?」

「ああ、一年ぶりだな。探してたんだよ。おばさんからお土産預かっててさ、それ渡したいんだ」


 あえて彼等が誰なのか知らないフリをして、エリート集団に視線を向ける。

 一度きりしか使えない技だが、新入生特権を大いに利用して俺はとびっきり無邪気な笑顔(自称)を浮かべて話しかけた。


「すみません、少しだけティアナをお借りしてもいいですか?」


 眉間に皺を寄せ、端正な顔を歪めた第一王子ハイネルは俺を一瞥した後、ティアナに声をかけた。


「ティアナ、そちらは?」

「幼馴染のルーカスです。今年入学してきたばかりの新入生で、まだ知らない事も多々あります。なのでどうか、仲良くして下さると嬉しいのですが……」


 その言葉に、中世的な顔立ちの美少年エミリオが人懐っこい笑みを浮かべて俺の元へやってきて手を差し出してきた。


「ルーカス君、僕はエミリオ・テオドール。君より一つ上の二年生だよ。よろしくね」

「ノースリーフ村出身のルーカスと申します。よろしくお願いします」


 差し出された手に自身の手を重ねた瞬間、指が折れるんじゃないかという握力で締め付けられた。

 見た目に反して、暴力的な魔力の扱いをする奴だな。

 俺はすぐに創造魔法を駆使して、手全体を包み込むように防護壁を作ってガードした。

 そのおかげで痛みはすぐに引いたが、もしそうしなければ今頃俺の手は使い物にならなくなってたぞ。

 本当にここのお貴族様はこれだから嫌いだ。


 ティアナに余計な心配をかけないように、俺は笑顔で言葉を返した。

 目の前では、「へぇ~やるじゃん」と俺にだけ聞こえるように呟いたエミリオが不敵な笑みをたたえていた。


「ごめんね、ルーカス。また後でいいかな? 今は……その、忙しいから。後で連絡するよ」

「そうか。邪魔して悪かったな。先輩方も、お時間取らせてすみませんでした」


 情けねぇ。結局助けるどころかティアナに守られてしまった。

 遠ざかっていくその背中をただ見つめる事しか出来なかった自分が悔しくて仕方なかった。


「ねぇ、俺の話聞いてた? 聞いてたよな? ほんと何してくれちゃってんだよ! これだから礼儀のなってない貧乏人は!」


 エリート集団とティアナが居なくなった後、俺の傍に駆け寄ってきたゲルマンが一人騒いでたけど、相手にする気にもなれなくて、適当に謝って俺もその場を後にした。

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