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逆ハーに巻き込まれた幼馴染を助けるために、群がるハエは一匹残らず駆逐します!  作者: 花宵
第2章 テオドール公爵家のエミリオを駆逐せよ!

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第15話 生きて帰る、今はそれだけで十分だ

 逃げたい。ものすごく、逃げたい。

 俺は今、現在進行形で命の危機を感じている。

 休みの日、ティアナ達と共にテオドール公爵家に連れてこられた。

 勿論、ティアナとサンドリア様は丁重な客人扱いだ。別室に案内された俺はというと――


「エレインお嬢様の侍従がきちんと務まるかどうか、試させてもらう!」


 部屋に入るなり、顔面めがけて物凄いスピードでキラリと輝く何かが飛んできた。

 咄嗟に創造魔法で障壁を作った俺は、飛んできた何かの軌道を逸らす事に成功した。

 俺の頬スレスレを通過したそれは、非常によく磨かれた鋭利なナイフだった。


 やばい。テオドール公爵家、色々やべぇよ。

 そういえば最初、エレインにもいきなり手を潰されかけたし。この家系、ちーっとばかしバイオレンス過ぎやしないか?


「まぁ、及第点といった所でしょうか。テオドール公爵家の侍従長を務めているクラウスと申します。基礎をたたき込むようお嬢様より言付かっておりますが……覚悟はよろしいですか?」


 こちらに向けられた眼鏡の奥から放たれるあの鋭い眼光はもはや、裏社会の人間のものとしか思えない。

 ここで『いいえ』と言えたら、男としての格が上がるだろう。上がるだろうが、俺はまだ死にたくない!

 さようなら、俺の貴重な三連休。生きて帰る。それが今、俺の切実な目標だった。


「ルーカスと申します。クラウス様、ご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます」


 半ば脅されて結ばれた雑用契約でも、テオドール公爵家の後見を得ている事には変わりはない。

 少なからずその恩恵を受けているわけだ。迷惑をかけるわけにもいかないし、腹を括ってやるしかない。


「それではルーカス、奥の部屋でこちらに着替えて来て下さい」


 一寸の狂いも無く執事服を着こしたバイオレンス男クラウスは、そういって制服らしき服一式セットを渡してきた。


「分かりました。ありがとうございま……す?!」


 な、なんだ洋服にあるまじきこの重さは。腕がもげるかと思った。


「ベストに左右5㎏、スラックスに左右10㎏ずつ重りが入っています。三分以内に着替えてここへ戻ってきて下さい。遅れたら……三分間ナイフ投げの的にでもなってもらいましょうか。ウォーミングアップにはちょうど良いでしょうし」


 好きだな、三分以内と罰与えんの!

 お願いだから、懐中時計で計るのやめて!

 ナイフ投げの的なんて絶対にごめんだ。俺は慌てて隣室に駆け込んだ。


「お、またせ、しました」

「2分59秒……運が良いですね」


 あっぶねぇ。何とか間に合った。

 全身にかかる負荷は全部で30㎏

 ダリウスならともかく、俺はそんなに筋肉馬鹿じゃない。それなのに……


「まずはウォーミングアップに、屋敷の周りを軽く五周。終わったら、腕立て腹筋スクワットの基礎トレーニングをそれぞれ百回。休憩を十分挟んで、給仕の仕方から教えていきます」


 ウォーミングアップと基礎トレ要る?!

 そんな事した後にお茶淹れさせたら、きっと俺は生まれたての子鹿みたいになるよ?!

 ブルブルグラグラしてご主人様の頭からお茶ひっかけちゃうよ? いいのそれでも?!


「それでは、スタート!」


 お願いだから、懐中時計で時間計るの止めて下さい……





 悪魔だ。あの鬼畜バイオレンス眼鏡は悪魔に違いない。

 俺と同じことしながら汗一つ垂らさず実に涼しい顔をしていやがった。

 きっと細胞レベルで体のつくりが違うんだ。そういう事にしておこう。

 それにしても、疲れた……動けねぇ。もう一歩たりとも動きたくない。

 ふかふかのベッドに倒れ込んだ俺の耳に飛び込んで来たのは、控えめなノックと


「ルーカス、起きてる?」


 という可愛らしいティアナの声だった。


 前言撤回!

 ティアナが呼んでくれるなら、たとえ地の果てだろうが地獄の底だろうが速攻で駆けつけるぜ!


「どうしたんだ、ティアナ」


 ベッドから飛び起きた俺は、平静を装ってドアを開けた。


「今日は一日大変そうだったね。疲れてないかなと思って。これ、よかったら使って?」


 差し出されたのは、小さな香袋だった。柑橘系の爽やかな香りを吸い込んだ瞬間、嘘みたいに身体の疲労や倦怠感がとれた。


「エレイン様に、リラックス効果の高いベルガモットの香油を頂いたの。魔法で効能を高めてるから、疲れを取るのに役立つかなと思って」


 ティアナの魅了魔法で効能を高めた香袋だと?!

 なんて素晴らしいアイテムを差し入れでくれるんだ。

 これさえあれば、対鬼畜バイオレンス眼鏡も怖くない。


「わざわざ悪いな。ありがとう、ティアナ。大事に使わせてもらうよ」


 ティアナの魅了魔法──物の魅力を高める=かなり高品質の物にするのと同義だ。

 最大限まで効果の高まったこの香袋は、俺の疲れを見事に一瞬で吹き飛ばした。


「ねぇ、ルーカス」

「ん……どうした?」

「無理してない? 私のせいで、巻き込んでしまってごめんね」

「自分から首つっこんだんだ。ティアナが気にすることはないよ。それにテオドール公爵家の後見を得られた事は、ありがたい恩恵もあるし、認めてもらえるように頑張るよ」


 使えるものは、何でも使ってやる。それで少しでも、ティアナを守れるようになるならば。

 それよりも俺は違うことが気になっていた。あの疲れを一気に吹き飛ばすほどの強い闇魔法を使ったのだ。同じ先祖返りとして、ティアナの身が心配だった。


「それよりも、ティアナ。あんなに魅了魔法を使って大丈夫か? もし悪夢に苛まれたら……」

「大丈夫だよ。これがあるから」


 ティアナがポケットから取り出したのはお守りケースだった。

 その中から取り出されたのは、生まれた時にもらう幸福祈願のお守りと、ティアナが王都に立つ前に俺が魔法で創ったお守りだった。


「不思議とね、悪夢を見てもルーカスにもらったこのお守りが辺りを明るく照らしてくれるの。だから、大丈夫だよ」


 お守りを作る際に俺が付加したのは、魔除けと有事の危険回避、身代わり機能だった。

 闇魔法が得意なティアナの元には、魔物が集まりやすい。奴等にそれを関知させないようにする魔除け効果と、命の危険が迫るような時には防御壁が発動し、身代わりになるよう魔法をかけている。

 ティアナの元にこのお守りがあるという事は、そういう危険はなかったという事だが、かなり魔力量が減っている。 


「ティアナ、それを少しだけ貸してくれないか? 魔力を補充しておくから」

「うん、ありがとう」


 俺の代わりにティアナを守るよう、ありったけの魔力をお守りに注ぐ。これでしばらくは大丈夫だろう。

 部屋に戻った俺は、魔力を回復すべく深い眠りについた。

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