勇気
屋上で飯田の謎の言葉を受けてから、前り余計に飯田を意識するようになっていた。
飯田の1つ1つの行動が気になり、気が付くと飯田の姿を追っていた。
飯田の事を想う前の自分が何を考えて、何を想っていたのかが思い出せないぐらい、飯田の事で頭がいっぱいだった。
「それで、文化祭最終日、告白する事決めた?」
いよいよ明日から文化祭が始まるため、私と春風は最終確認のため、校舎内の見回りをしていた。
「…分かんない」
「まだそんな事言ってるの?最終日は明後日なんだよ!」
「……、でも勇気が無い…」
そりゃー、分かるけどと、春風は続けた。
「告白なんてした事も無いし、考えた事もないもの。どうしていいか分からないわ…、それに、呼び出しても来てくれなかったらどうしよう?と思うとますます怖くなって何も言えなくなる」
よくアニメとかドラマで見るような告白は決まってロマンティックで、ハッピーエンドだけど、そんなのってきっとただのお話の世界だけじゃないかしら?
本当の恋はそんなにうまくいかないよ…。
「お菓子で釣れば絶対来ると思うよ!」
確かに、飯田の歩く先にお菓子をぶら下げてうまく銀杏の木の下まで誘導すれば…って、いやいや、おかしいって。
だいたい文化祭最終日オレンジ色の夕陽の中、銀杏の木の下で告白したらうまくいくなんて言う伝統…ちょっと前の私なら絶対信じなかったのにな。
今の私はそんな迷信にでさえすがってしまうほど、自分の気持ちと向き合えずにいた。
「私が呼び出してあげよっか?」
押し黙り、どうしようかとアタフタしている私を見ていられなくなったのだろう。
春風がそう言ってくれたけど。
「大丈夫、自分で呼び出せる!」
だけど。これは私自身の恋だから、私が自分でしないと意味が無い。
グミキャンディが僅かな確率でピンク色のハート型を出してくれたように、私の恋もその僅かな確率を信じたい。