屋上で
「文化祭まであと少しだね!」
昼休み、毎度同じの屋上でサンドウィッチを食べていた春風が、『楽しみだね』と続ける。
「うん、そうだね。ねぇ、春風、文化祭最終日の噂知ってる?」
「噂?」
私は迷いながら、先日女の子たちが話していた内容をそのまま話した。
「あー。あれって都市伝説的な話しじゃなかったんだ。ん?翔華がそれをわざわざ私に聞かせるって事は、まさか、翔華その噂通りに文化祭最終日にあの銀杏の木の下で飯田に告白するのー?」
目を爛々と輝かせて聞いてきた。
飯田に告白…。
告白…!
頭の中でその言葉をリピートするだけで顔が赤面してしまう。
「無理無理」
あれから、飯田とは特に何も無い。
特に何も無いと言うのもおかしな話だけど。
日常的な会話はする。
飯田の事意識する前は飯田の姿なんて全く目に入らなかったけど、毎日毎日、色んな姿の飯田が脳裏にインプットされていく。
と言っても教室での飯田はほとんど眠っているかお菓子を食べているかのどちらかだが。
だけど、残念ながら前より距離が近付いたとかそう言う事は無い。
「そうねー、飯田に告白するのはかなりハードル高いよね、本当あの人バスケ以外何にも興味ないからね」
私が告白と言うことを迷っているのはそれだけじゃない。
告白なんてした事無いから、何て言っていいのか分からない。
「春風」
春風に胸の内を聞いて欲しくて、名前を呼ぼうとしたら、先に呼ばれてしまった。
コンビニ袋を片手に持ち、ジャケットのボタンを全開にした小柄な男子生徒が私たちの前に立っていた。
第2ボタンまで空いているワイシャツの首もとから、春風とお揃いのリングのペンダントが見えている。
「春人、珍しくない?あんたが屋上に来るなんて!ちょっと待って」
春風はすぐさま唇にパン屑が着いていないか手鏡でチェックした。
言う間でも無く、春風の彼の堀越春人である。
彼はこの時期の花粉が辛いらしく、屋上でお昼を食べるなんてあり得ないと春風にいつも言ってるらしい。
「今日は何か調子良くて、たまには春風と一緒にお昼食べようかと思って、って、さっきLINEしたのに既読にならないから」
「あ、ごめん、全然気がつかなかった!」
慌ててスマホを手に取り、ごめん、と可愛らしく春風は私には一度も見せた事の無い表情をしていた。
「じゃあ、お邪魔虫は退散するね」
恋愛知らずの私でさえ、ここにいては二人邪魔になると言うことぐらい理解できる。
「え?大丈夫だよ、翔華、一緒に食べよう」
「そうだよ、一緒に食べようよ、一之瀬」
去年、私たち三人は同じクラスだった。
始め三人で行動していたけど、春風と堀越が付き合うようになってからは、私はこんな風に空気を読むようになった。
「あ、髪の毛にゴミがついてるよ」
立ち上がった私の髪についていたホコリを取ってくれた堀越に、
「ありがとう」
と笑顔で答えてから、春風に向かって言った。
「先に教室行ってるね、春風」
「えええ、いいのに」
「またね」
教室に向かおうとしたその時。
二つのベンチを使って寝転がっている飯田の姿が目に入った。
あまりにも大きな体はベンチ二つでも収まりきっていなかったが。
ふぅーと大きく深呼吸してから、
「飯田?」
仰向けになって空を見上げている飯田に恐る恐る声を掛けてみた。
「何してるの?」
「見て分かんない?寝転がってるだけ。オレ、結構屋上好きなんだぁ。こうして空を見てるのが好き」
「そうなんだ」
と言う事は私たちがここでお昼を食べている時、飯田は案外近くにいたのかも。
「生徒会長は楽しそうだったねー」
「見てたの?」
以外だった。
飯田は第三者に全く興味無いと思っていたから。
「見たく無くてもここからよく見えちゃうしー、てかさー」
ガバッと体を起こすと、イスがギシギシと音を立てた。
「生徒会長って誰とでも仲いいよねー」
赤くした頬を膨らませて、唇を尖らせる飯田。
…。…。…?
言葉の意味を理解するのにかなりの時間がかかった。
まさか、さっきの堀越とのやり取りを見ていたの?
え?え?え?
これって一体どう言うことーー?