グミキャンディ
これは夢なのかしら?
飯田と二人きりでファーストフード店にいる今の状況が信じられない。
そもそも、帰りに買い食いすること自体初めての事だった。
私はドリンクを飲みながら目の前の飯田をじっと見てしまう。
飯田はポテトを一本一本つまんで食べたりしない。
ケースごと手で掴み飲み物のような感じで口に運んでいた。
「生徒会長食べないのー?食べないなら全部もらっちゃうよぉー」
あっと言う間に自分の分を全部食べきってしまい、私のハンバーガーセットを指を加えてじっーと見てる飯田は、先程部活で見せた彼とはまるで別人のようだ。
「どうぞ」
「いいのー?」
目を輝かせて私のハンバーガーセットを食べ始めた。
「飯田はバスケの名門の高校を受験するんだよね?」
「うん」
「バスケ好き?」
「好きかどうか聞かれたらよく分からないけど、楽しいから続ける。オレのこの身長いかせるスポーツだからさ。生徒会長はどこの高校受験するのー?」
「私は…」
正直どこの高校に行くべきか迷っていた。
親が進めるか高校を受験するのが当たり前だと思っていたけど、本当にそれでいいのか?最近思うようになっていた。
「生徒会長ならどこでも受かるでしょ?あー、急にチョコスナックが食べたくなったー、帰りに駄菓子屋寄ってもいい?」
「まだ食べるんかい?」
思わず突っ込んでしまった。
*********
駄菓子で大量のお菓子を買い、鼻唄を歌っている飯田は本当に幸せそうだった。
2メートル以上の身長の彼が、ちっちゃな子供のように見える。
何か可愛い。
そんな風に見とれてたら、目が合ってしまい、急に後退りなんてするから足がふらついて、
「危ない、引かれるよ」
焦った感じの声の飯田に腕を引かれた。
背後でバイクの音がしていた。
危なかった…。
「もう何してんの?生徒会長?そっちは車道だよ」
いつもあまり表情を変えない飯田の慌てっぷりを見て、ドキドキが止まらなくなる。
「そんなにお菓子が食べたいなら上げるから」
また勘違いされてる。
私が見てるのはお菓子じゃなくて飯田だってこと、私が言わない限りきっと彼は永遠に気付かない。
ガサガサと袋の中をあさり、『うん、これにしよう』とグミキャンディを取り出し、箱を振り始めた。
「これね、ハート型が出るとラッキーなんだって、しかもハート型が必ず入ってるとは限らないし、オレもあんま見たことない。って言うかーオレ一個づつ食べないからなー。まぁ、手出してー」
言われるままに手を出すと、よく振ったグミキャンディの箱から出てきたのは。
「あ」
「あ」
私の手の平に落ちたのは、ピンク色をしハート型のグミキャンディだった。
「あ、ハートだー。しかもピンクって、めちゃめちゃラッキーだねー」
こんな子供騙しのグミキャンディなのに。
嬉しくて心が震える。
もったい無くて食べれないよ…。
「どうしたのー?食べないならもらっちゃうよぉー」
いつまでも手を閉じない私のグミキャンディに飯田が手を伸ばすから。
「これはあげない」
これだけは絶対にあげない。
口の中にゆっくり入れるとふわーっと甘さが広がった。