放課後
「ねぇ、春風。春風は彼氏のどこを好きになったの?何て言って告白したの?そもそも好きってどんな風になるの?」
例に漏れず、昼休みの屋上。
ランチタイム中の春風に一気に質問をぶつけてしまい、春風は飲んでいた飲むヨーグルトを喉に詰まらせていた。
「翔華、落ち着いて。一体どうしたの?翔華らしくないよ」
うぐっと鈍い声を出してから、春風は私の肩をポンポンと叩いた。
そうよね、こんなの私らしくないわよね。
だけど、だけど。
「どうしていいか分からないの。授業には集中できないし、気持ちがフワフワしてるし、食欲も無いし、考えることと言ったら飯田の事ばかりなの!」
「はいはい、第三の質問の答えは自分で見出だせてるね」
「え?」
「その気持ちが恋よ、それが好きって気持ちよ」
好き?私が飯田の事?
今朝、飯田にチョコボールをあーんされた事を思い出す。
その途端、チョコボールの甘さを思い出し、顔が熱くなる。
「まさか、堅物の翔華がそんな風になるなんてね」
うんうん、と嬉しそうに頷き、
「そんなに飯田の事気になるなら、放課後体育館に行ってみない?」
「…体育館?」
「そそ。一度飯田のバスケしている姿でも見に行こうよ」
「でも…文化祭の用意が…」
「文化祭まで、あと一週間もあるのよ。一日ぐらい生徒会長がいなくても全然平気よ」
確かに、春風の言うことは最もなんだけど、 人に任せて自分は何もしないと言うのが…、性格上許せないと言うか何と言うか…。
「いいから。たまには自分を休ませることも大切だよ」
まだどうしようか悩んでいる私の決断は
春風に決められてしまった。
**********
「ほらほらバスケ部はこっちだよ」
春風と一緒に体育館を覗いてみた。
放課後の体育館なんて初めて訪れる。
バスケットボールの弾む音とバレーボールが擦れる音が交差する体育館は、じめっと湿気った匂いに覆われていた。
三年生の部活活動は夏に終わっているのに、飯田だけはこうして参加しているらしい。
うちの中学は相当バスケに力を入れてるらしく、全中も連覇したほどの実力を持っていた。
そのチームの要が教室ではあのウドの大木と言われている飯田だと言うのだから、にわかには信じられない。
本当にあの飯田がそんな選手なのか?
だが、そんな疑問はすぐに消え失せた。
ゴール下に立っている飯田は、いつものボーっとしている飯田とは全然違っていた。
圧倒的な迫力があり威圧感がすごい。
何人たりもゴールに入れさせない。
まさに鉄壁の守衛力。
そんな飯田を見て、胸がキュンとなる。
いつもはあんなに頼りない飯田がこんなにも逞しい一面があるなんて。
長めの髪が揺れて、煌めいた汗が顔にかかる。
一瞬も目が離せず。
心の中で何度も何度もシャッターが押されるのが分かった。
今この瞬間の飯田の姿を忘れたくない。
部内の対抗試合が終わり、飯田は相手の攻撃を全て防ぎ0点に抑えた。
「すごかったね、飯田」
うん、と言葉に出そうとしたのに、声が出ない。
「翔華、大丈夫?」
「あれ?生徒会長?こんなとこで何してんの?」
春風の言葉よりも先に頭上から、気だるい声が聞こえた。
「……い、い、飯田」
声がうわずってしまった。
「さてと、私は先に帰る事にしよう。また明日ね、翔華」
春風は耳元で『頑張れ』と言って、巳を翻して帰ってしまった。
「で、生徒会長、何してんのー?」
そこで、また飯田の大きな手で頭をくしゃとして、腰を屈めて私の顔を覗き込むから、心臓が止まりそうになる。
どうしよう、どうしていいか分からない。
「あー、お腹空いたー。生徒会長暇なのー?」
え?
突然の事でどう返答していいのか分からなくて。
「え、うん、まぁ…」
「暇なら一緒にハンバーガーでも食べに行かない?」
何?何?このパターン?
飯田に私誘われてる?
デート?デートなのかしら?
そう思ってたら顔が熱くなってきた。