気になる人?
「翔華、翔華、聞いてるの?」
昼休み、屋上で一緒にお昼御飯を食べている春風が私の目の前で手をパタパタと揺らしていた。
秋らしい穏やかな天気で、外で食べるには絶好の日和だった。
「え?あ、ごめん、何か言った?」
「何か言ったじゃないよ、てか、翔華あんたソレ食べる気?」
春風が指差していたのはバランをつかんだままの私の箸の先だった。
私、何でこんなもの掴んでるんだろう?
今日の私、何かおかしい。
授業も集中できないし、春風の会話も耳に入らない。
「てか、器用にソレ掴んだねー」
クスクスと愉快そうに笑った春風の首もとにはシルバーのペンダントが揺れていた。
「そのペンダント彼氏に貰ったんだっけ?」
「うん。先月の誕生日に、付き合って一年の記念も兼ねてもらった」
嬉しそうに笑う春風からは恋する女の子特有の香りが漂ってきた。
私が身に纏ったことのない、恋のフレグランス。
「不純異性交遊は校則で禁止されてるわよ」
決して意地悪で言った訳じゃないけど、そんな風に笑う春風に少しヤキモチを焼いてしまったのかもしれない。
「相変わらず、翔華の頭は固いなー。翔華、本当に好きな人いないの?」
好きな人?
好きな人がいない訳じゃない。
塾の先生も好きだし、クラスメイトの男子の中にも好きな子はいる。
だけど、春風の言う好きな人とはどれも違うと分かっているから、それには答えなかった。
「気になる人もいないの?」
気になる人?
無意識に私は自分の頭に触れてみた。
昨日飯田の大きな手に触られた頭。
そして、今朝、私の右手に触れた大きくて温かい手を思い出し、頬が熱くなった。
「ねぇ、春風、飯田敦ってどう思う?」
「え?は?う、ぐ」
何かを喉につまらせたようで、慌ててドリンクを飲んだ春風は目をまん丸にして声を上げた。
「今、何て?今、飯田敦って言った?あんなウドの大木みたいな翔華とは全く正反対の人間のことを言ったの?」
いくら何でも言い過ぎじゃない?
と思ったが、春風の言うことは確かだった。
「今日の朝バスが一緒でね…」
と、今朝の出来事を春風に話した。
「へぇ、アイツがそんなことしたんだ。そんなことするんだね、それで?」
「それで?って?」
「うん、それで?」
「いや、それだけだけど」
「それだけかい」
ズコっと大げさに体勢を崩した春風だったけど。
「まぁ、それでも、翔華の口から男の子の名前が出ただけ進歩だ、これからの進展が楽しみ。でも、アイツバスケ以外は全く興味の無い人間だから色々難しいとは思うよ、がんばって」
春風が何を期待しているのか分からないけど。
ただ今日の私はいつもと違うと言うことだけは確かだった。