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【R15】僕らの逢瀬に言葉はいらない

作者:たこす
こちらは津蔵坂あけび様の無茶ブリ企画作品です。
 一年ぶりの再会に、言葉はいらなかった。

 空からふわりと舞い降りてやってきた彼女は、僕の顔を見るなりその可憐な唇を押しつけてきた。

 まるで待ちきれなかったかのような、激しくて濃厚なキスだった。
 思わず窒息してしまいそうになるほどのキスだった。

 僕も負けじと唇を押し返す。
 それが一層嬉しかったようで、彼女は口を開けて舌をねじり込んできた。
 甘く、ねっとりとした感触に僕の心は溶かされていく。
 一年ぶりの彼女の味は最高だった。

 僕らは舌を絡め合わせながら、一年ぶりの再会を喜んだ。


 どれくらいそうしていただろう。

 ようやく。
 ようやくと言っていいほど長い時間をかけて、僕らは唇を離した。
 そうして、見つめ合う。

「ひさしぶり」

 やっと彼女がうるんだ瞳でそう言った。

「うん、ひさしぶり」

 僕もそれに答える。


 そしてもう一度口づけを交わした。


     ※


 僕らが出会ったのはいつだろう。
 もう、ずっと前すぎて思い出せない。

 いつものように庭で農作業をしていると、彼女が声をかけてきたのだ。

「こんにちは」

 ふいに聞こえた声に振り向いた僕は、心臓が止まるかと思った。
 そこにいたのは、羽衣を着た見たこともないほど美しい女性だった。
 優しげな瞳にふっくらした頬。
 小さな鼻と小ぶりな唇。
 そしてその顔は光り輝いていた。
 いや、顔だけじゃない。全身が輝いていた。


 彼女が本物の天女だと知ったのは、少し後だ。


 けれども、その時の僕は当然そんなことなど知る由もなく、ただただ目の前に現れた女性に目を奪われていた。

 なんて……なんて綺麗な人なんだ。
 あまりの美しさに息を飲む。

 彼女は土で汚れた僕の顔をジッと見つめていた。
 何が面白いのか、食い入るように見つめていた。

「……何か用?」

 そう尋ねる僕に彼女は答える。

「別に用があって声をかけたわけじゃないわ」
「そう」
「あなたが一生懸命に土を掘ってたものだから、声をかけてみたくなったの」
「掘ってたんじゃない、耕してたんだよ」
「耕してた?」
「野菜を植えようと思って」

 そう言って、野菜の苗を見せつけた。

「これを植えるの?」
「うん、そう」

 答えて再度クワを動かす。
 彼女は黙ってそれを眺めていた。
 僕が土を耕しているのを、面白そうに眺めていた。
 ニコニコと微笑むその姿にドキドキする。
 邪魔をする気はなさそうだ。
 けれども、僕は気になってしょうがなかった。

「ねえ」と思わず声をかけた。
「なに?」と彼女は答える。

「なんで見てるの?」
「さあ」
「そんなに土を耕してるのが面白い?」
「別に」
「もしかして僕の顔、変?」
「ふふ、どうかしら」
「気になるんだけど」
「私は気にならないわ」

 ひょっとして、からかわれてるのか?
 戸惑う僕を面白がってるのかも。

 むうー、とうなっていると、彼女はそそそと近づいてきて手を伸ばしてきた。

「ねえ、それ貸して。やってみたい」

 その姿は近くで見るとより一層美しく、ドクンと僕の心臓は跳ね上がった。
 けれどもなんとか平静を保って言葉を紡ぐ。

「お、重いよ?」
「だいじょうぶ」
「ほんとに重いよ?」
「だいじょうぶ」
「ほんとにほんとに重いよ?」
「だ・い・じょ・う・ぶ!」
「じゃあ……、はい」

 そう言ってクワを差し出す。
 それを彼女に手渡す瞬間、ふんわりと甘い匂いがして、僕は全身が火照るのを感じた。

「じゃあ、見ててね」
「う、うん」
「せーの!」

 えいや、と大きく振りかぶった彼女はクワの重みでバランスを崩し、思い切り後ろにのけぞった。

「危ない!」

 慌てて僕は背後に回り込んで倒れかかる彼女の身体を全身で受け止める。
 瞬間、感じる彼女の重み。
 一緒に倒れそうになるのをグッとふんばってなんとか堪えた。
 不覚にも、僕は彼女の身体を後ろから抱きしめる形になってしまった。
 広げた両腕の中にスッポリと納まる彼女の身体。
 同時に地面に落ちるクワ。

 彼女の身体はとても細くて小さくて。
 ……柔らかかった。


 僕はしばらく、我を忘れて彼女の身体を抱き続けた。
 彼女の方も身じろぎひとつしない。

 思わず、抱きしめる腕に力が入る。
 官能的な匂いが僕の心を支配していった。
 ドクンドクンと心臓の音だけが聞こえてくる。
 意地の悪い欲望が、鎌首をもたげた。

 と、その時。
 リィンという鈴虫の音が聞こえて僕は我にかえった。

「ご、ごめん!」

 慌てて身体を離す。

「……う、ううん」

 彼女は振り返らずに首を振った。
 そうして、そのままパタパタと駆けていく。
 その愛らしい姿に、僕の顔が熱くなる。
 彼女はピタッと立ち止まると振り返らずに「ありがとう」と言った。

「う、うん……」
「……じゃあね」

 そう言ってそのまま帰ろうとするのを慌てて呼び止める。

「あ、あの!」
「……なに?」

 彼女は振り返らなかった。
 振り返りたくないのか。
 振り返る余裕がないのか。

 僕は構わずに続けた。

「また、来てくれる?」

 そう言うと彼女は嬉しそうに振り返った。
 溢れんばかりの輝かしい笑顔だった。
 そして大きく「うん!」と頷いた。

「また、来るわ」

 彼女はそう言うと、ふわりと宙に浮いた。
 突然、浮かび上がったものだから、ギョッとした。
 そんな僕を見て彼女はクスクス笑うと、顔を上げてそのまま天に昇っていった。

 きれいな羽衣をなびかせながら。
 キラキラと輝く小さな星をきらめかせながら。


 彼女が本物の天女だと知ったのは、この時だった。


     ※


 それから何度も何度も、彼女は僕のところに来てくれた。

 雨の日も。
 風の日も。
 今日みたいな穏やかな日も。

 けれども、やってくるのは年に一度。
 それも夏の日のたった一日だけだ。

 だからこそ。
 彼女との再会はいつも待ち遠しく、そして貴重だった。


 いつの頃からか、僕らは恋人同士になっていた。


     ※


 今日も二人で川べりを歩きながらお互いの1年間のことを話しあった。
 といっても、特に話すことはなく。

「ずっと君のことを考えてた」
「ずっとあなたのことを考えてた」

 お互いにそればかり。
 でも、事実なのだから仕方がない。

「他に話題はないの?」
 と笑う彼女に
「君のほうこそ」
 と笑い返す。

 笑い合いながら、またキスをした。


 夜になった。
 僕らは川のほとりに座りながらずっと寄り添い合っていた。
 満天の星空が僕らを包み込む。

 今日は……今日だけは何をしても許される日だ。
 彼女が天女であっても関係ない。
 たくさんの光り輝く星々が僕らを祝福してくれている。
 とてもきれいで、そして幻想的な景色だった。

「きれいね」

 彼女が夜空を見上げながらぽつりとつぶやく。

「そうだね」

 僕も同意してうなずく。
 空いっぱいに広がる星空は、本当にきれいだった。

 その時。
 そっと、彼女の手が僕の胸元に伸びてきた。
 温かな指先が僕の胸をつたう。

「……?」

 ふと見ると、彼女は何かを求めるように僕を見つめていた。
 潤んだ瞳が激しく僕の心をかき乱す。

「ねえ」と彼女が言った。

「抱いて」と。

「私の初めてを……受け取って」

 僕は少しためらいながらも、彼女を両手で抱き寄せるとその柔らかな唇にキスをした。


 それからは、自然の成り行きにすべてを任せた。

 鈴虫も、蛙も、この時ばかりは声をひそめてくれた。
 蛍さえも、恥ずかしがってどこか遠くへ飛んで行く。
 月はなく、星々の微かな明かりだけが僕らの身体を照らしていた。


 彼女は恥ずかしがりながらも、すべてをさらけだしていた。
 顔を真っ赤に染めながらも、嬉しそうに僕を受け入れていた。

「愛してる」

 そういう彼女に、僕も「愛してる」と答える。

「大好きだよ」

 そういう僕に、彼女も「大好きよ」と答える。


 僕らの愛の確かめ合いは、いつまでも続いた――。


     ※


「もう日付が変わるね」

 すべてが終わる頃、僕らは仰向けに寝転がりながら夜空を見上げていた。

「そうね」と彼女が答える。

 そして「そろそろ帰らなきゃ」と言って起き上がった。
 白くてきれいな肌が瞼に焼き付く。
 岩場に置いた羽衣を羽織ると、いつもの凛とした表情の姫君に戻った。

「彦星、今年もありがとう」
「僕のほうこそ。織姫」
「また来年、会いに来るわ」
「うん、待ってるね」
「来年もこの川原で会いましょ」
「うん。来年もこの川原で会おう」

 僕の言葉に満足したのか、織姫は微笑みながら天に昇っていった。
 そんな彼女に僕は「またね」と手を振った。


 夜空に流れる天の川の向こう岸に住む美しい天女・織姫。
 彼女との再会が、今から待ち遠しい。


お読みいただきありがとうございました。

一般的に伝わる七夕伝説とは違っております。
こういう織姫と彦星でもいいんじゃないかな、という想いで書きあげました。
なお、織姫は天女で彦星は農業の神様という設定ですので、お互いに人間ではありません。

いつまでもお幸せに!

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