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『はぁぁっ!』
迫るクトゥルフのエネルギー波に、真っ向から突っ込むと、手にした餓龍剣を下から上へ素早く振り上げた。
ただそれだけの動作で、エネルギー波は斬り裂かれ、剣圧で生じる風に巻かれるように上方へと捻じ曲げられ消えた。
『これが、餓龍剣の本当の力か……』
「うむ! これならいけます、マスター!」
『ああっ!!』
自身のエネルギー波を簡単にいなされ、クトゥルフがその触腕を震わせる。
「wygm!!」
クトゥルフの上半身がブクブクと泡立ち、まるで間欠泉のように、粘液がいくつも勢いよく吹き出る。
吹き出た粘液はそのまま固まると、それぞれが醜悪に歪んだ蛇か竜のような頭部を有した触手へと変化した。
クトゥルフから生えた、その無数の竜達が伸び、一斉に俺へと襲いかかる。
『なんのっ!』
思考を加速させ、多方からの攻撃を躱し、あるいは餓龍剣で次々と斬り捨てる。
業を煮やしたクトゥルフが、唸り声をあげながら、更に触手の本数を数倍以上増やした。
最早、俺の視界は青緑の触手だらけだ。
『ふん、バカの一つ覚えで助かるぞ、クトゥルフッ!』
奴が触手を伸ばせば伸ばす程、数を増せば増す程に、奴自身の肉は少なく薄くなる。俺は餓龍剣を突き出しクトゥルフへと突っ込む。
『イスミルッ!』
「はい、マスター!」
虚空から黒水龍が現れ、俺の腕を伝い餓龍剣を包み込む。その力によって触手達を一直線に貫きながら突き進み、俺はクトゥルフの目の前に飛び出した。
触手に組織を多く割いたクトゥルフは、既に両腕や頭部を無くし、ただあの濁った両目だけが胴体の上から恨めし気にこちらを見つめていた。
『おぉぉぉっ!!』
餓龍剣に力を込め、再び下から上へと振り上げ、クトゥルフを斬り裂く。
「〜〜〜〜!!」
既に叫ぶ口を失ったクトゥルフが、声にならない振動に全身を震わせる。裂けた体の奥、クトゥルフの核が露出した。
振り上げた餓龍剣を返し、核に向かって振り下ろす。
黒と白に輝く刃は、光の軌跡を残して、正確に奴の核を左右に分断した。
クトゥルフはより一層激しくその身を捩り震わせ、核も左右へと開き倒れていく。
『……なにっ!?』
しかし、クトゥルフは倒れなかった。左右に分断された核の間に、青緑の粘液が伸び、まるでゴムのように伸縮すると、ピタリと核を合わせる。震えも止まり、触手達が再び攻撃を開始した。
『くそっ、クトゥルフは核が弱点ってわけじゃないのかっ!?』
「いいえっ、マスター!」
触手を避けつつ、思わず毒づく俺の声をイスミルが遮った。
「一瞬ですが確かに効果はありました! クトゥルフの生命力が異常なだけです。奴の回復が追いつかないダメージを、核に与えられさえすればっ!」
『……わかった! イスミルッ、マシロッ、全開でいくぞっ!』
触手達を振り切り、一気に上昇する。クトゥルフを遥か下に見下ろす高度まで上がると、右足の先端を手に似た形状へ変形させ、手離した餓龍剣をその足で掴む。
「はい、マスター! 今の我の全力をマスターにっ!」
数十体の黒水龍が生み出され、俺の足先、餓龍剣へと集まる。
「姉さん、技をお借りします。私の力も使ってください、お兄ちゃんっ!」
更に同数の白い水龍も生み出され、黒水龍に加わる。黒と白の龍が剣先から俺の全身まで全てを包み込み、螺旋を描きながら高速で回転する。
『いくぞ、クトゥルフッ! ドラグ・ブレイク……インパクトッ!!』
俺は右足を伸ばし、左足を畳んだ飛び蹴りの体勢のまま、一気に最高速度まで加速し、クトゥルフの核目掛けて突入した。
『はぁぁぁぁっっ!!』
クトゥルフが触手を束ね、巨大な一本の竜に変化させると、こちらに向けて超高速で突き出す。
青緑の竜がその顎門を大きく開き迫る。
しかし、俺は怯まない。そのまま、竜の口へと飛び込む……バクンッと竜が口を閉じた瞬間、竜の頭部は大きく爆ぜた。
水龍達の高速回転するエネルギーに、次々と吹き飛ばされる竜の肉片に見向きもせず、俺はひたすら核へ向かって触手の中を突き進む。
やがて触手を全て砕ききり、核へと行き当たった。
『これで、終わりだぁぁっっ!!』
水龍達が限界まで回転を増す。やがて小さな破裂音と共に、両断した中心部から、核表面に小さなヒビがはしり、ヒビは大きな亀裂となる。
遂に耐えきれなくなった核が粉々に砕け、俺はそのまま反対側へと突き抜けた。
クトゥルフは大きく体を震わせると、ピタリとその動きを止め、地響きを立てながらルーディア山へと、その巨体を横たえた。




