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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第一章 目覚めたら異世界/復活の邪龍神機
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1-7


「まだか! まだ、あの術は壊せないのか!!」


 クーラムタが憎々しげに絶叫する。

 森の捜索を開始し早々、待機する天幕に駆け込んだ手負いの兵より、怪しい二人組から攻撃を受けた情報が入る。

 直ちに捜索隊の一部を差し向け、二人組の血痕を辿り、家を突き止めるまでは良かった。

 しかし、突如発動された強力な水の結界術式に阻まれ、手出しが出来なくなった。

 今は、増員に増員を重ねた魔装甲冑十体で、結界術式を破るべく術式による攻撃中である。

 魔装甲冑……古代の遺跡から発掘されるこの人型兵器は、適性のある者が操手として乗り込み、術式で補助しながら操縦する。

 その巨体による力と厚い装甲のみでも十分脅威的だが、操手の扱う術式を何十倍にも強化出来る能力を有する為、一体で弱小国程度ならば攻め滅ぼせる程であり、魔装甲冑と操手の所有数がそのまま国家の軍事力を表すと言っても過言では無い。

 その魔装甲冑十体による術式の波状攻撃を結界術式は耐え続けていた。


(魔装甲冑十体の攻撃だぞ!? どれだけ強固な結界なんだ!! ボガードも森に入る前に何処かへ行ってしまったし……ええい!)


 イライラと角を掻き、兵達に拡大術式でより大きくなった怒声をぶつける。

 本来、クーラムタは研究職、文官であって、この様な場合に的確な指示を出来る武官では無い。

 出来る事は感情的に喚きながらひたすら力押しだった。


(……いや、待てよ……これだけの結界を生む力だ。その分、『探し物』である可能性が高いな)


 叫びでいくらか落ち着いたのか、クーラムタはそう思い直すと、椅子に座り直す。

 考えてみれば、こちらの戦力は十分過ぎるし、結界術式も最初ほどの勢いは既に無い。

 待機させている他の魔装甲冑を出すまでもない。

 ゆっくりと待っていれば、兵達が朗報を持ち帰ってくるだろう。そう、焦る事は無いのだ。

 結界術式がついに掻き消えたように見えたのは、それから間も無くだった。

 しかし、勇んだクーラムタが立ち上がり、兵達に突撃と叫ぼうとした瞬間、家が黒い閃光に包まれる


「な、なんだ! なんだ!」


 黒い閃光が消え、視力が戻った瞬間、クーラムタが……いや、周辺の帝国兵達全てが目にしたのは、消えた結界術式でも、その中にある家でもなく、巨大な一頭の黒龍だった。

 黒き龍……この世界に住む者にとって、それが指し示す存在はたった一つ。

 帝国いや世界にとって最悪の災厄。死を呼ぶ嵐。命刈り取る混沌の黒鎌。嘲笑う破壊の息吹…遠き神代の時代より、数多の呼び名で忌み嫌われ畏れられる邪龍神『黒龍』だ。

 周囲の兵達が騒めく。


「くぅ〜〜……『兵達よ!!』」


 目の前のありえない状況を分析・理解するより早く、クーラムタが術式で拡大したありったけの声で叫ぶ。己の中に芽生えた恐怖を塗り潰すように。


『勇敢なりし光龍神様の僕達よ! 世界の怨敵たる黒龍が現れた! 今こそ我等で、かの邪神に完全なる死を与えん! 進め! 進め! 進め!』


 絶叫にも似たクーラムタの声に触発されたのか、数の有利を頼りにしたのか、魔装甲冑十体を含む全ての兵達が、ある者は術式で、ある者は手にした射撃・投擲武器で一斉に攻撃を始めた。



 閃光が消えると辺りの風景が一変していた。

 2m四方くらいの空間の壁・床・天井が黒いスライムのようなテカテカヌルヌルした肉の様な物で覆われている。

 前面の壁には、俺と向かい合うようにイオスが身体を背中側半ばまで肉壁に埋めていた。


「うむ、問題なく召喚出来たな」


 天井からイオスの声が響く。

 よく見れば、壁に埋もれたイオスは、鱗や髪色が元の青に戻っていた。


「イオス……か? ここはいったい……ヤルバ爺は……いや、それよりリミルが元に戻ってるようだけど、大丈夫なのか?」


 声のした天井に向けて話すと、再び上方からイオスの声が響く。


「案ずるな、マスター。リミルなら大丈夫だ。今は我が意識が一時的に離れているから姿が戻っているだけで、繋がりは切れていないから問題無い」


 イオスの言う事はいまいちわからないが、相変わらず眠ったままのリミルを良く見ると、確かに顔色は随分良くなったようだ。


「それと、ここは我が肉体の中だな」


「イオスの……中?」


「ああ。まぁ、より正確に言うならば、召喚した我が肉体である黒龍の中だ。ただ、この場所に入れるのはマスターと、我が依代であるリミルだけで、ヤルバとかいう奴は別の場所に入っているぞ」


「お、おう……とりあえず、全員無事なんだな?」


「うむ。我が姿を顕現した事で、いくらか攻撃は激しくなっているがな」


 攻撃……そうだ、俺達は帝国兵達に包囲されている真っ最中だった。


「だ、大丈夫なのか?」


「ふん! いくら寝起きとはいえ、この程度の雑魚共でどうこうなる我ではないぞ」


 不機嫌そうにイオスが応える。


「とは言え、いつまでもいい気にさせておくつもりも無い。それではマスター、始めよう」


「うぉっ? なんだ!」


 突然背後の黒いスライム状の肉壁が迫り出し、椅子のような形状になり、俺を半ば強制的に座らせる。

 今度は椅子の四方から黒いスライム状の触手が伸び、俺の身体を覆う。

 天井から伸びた触手は俺の頭に乗りヘルメットのような形状で固まった。

 俺は椅子に座るような体制で身動きが取れなくなった。


「イ、イオス!?」


「ふふふ、慌てるな。今、マスターと我を繋げるところだ」


「繋げる? 何を……っ!」


 ヘルメットの内側がモゾモゾと動いたかと思うと、何かが頭の中に侵入してくる!?

 頭の中を何かが蠢く、有り得ない感覚に声にならない悲鳴をあげ思わず吐きそうになった瞬間、全ての感覚が溶けるように消えた。

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