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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第五章 ブエラリカを覆う影/終焉の龍神機現る
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5-6

「タツヤさんと……同じ顔?」


「お前……いったい何者なんだ?」


 思わず出た俺の言葉に、混沌卿は薄く笑うと顔を摩る。


「この顔が気になるのか……ふふん……」


 おそらく、割れた仮面の能力だったのだろう。あの不思議な声も、今は普通の男の声になっていた。自分ではわからないが、きっと俺と同じ声なのだろう。


「俺は時空を渡って来た、未来のお前……だったらどうする?」


「なっ!?」


「くっ、のせられるな、マスター!! 混沌卿! 我のマスターは、貴様のような下衆ではないっ!!」


「ははははは! イオスの言う通り、嘘だ。安心しろ、俺とお前は同一人物じゃあない……まあ、今の所は他人の空似だと思っていろ」


「そうかよっ!」


 再び混沌卿に殴りかかる。しかし、俺の拳は奴の手に掴まれ止められた。


「ふん、さっきの攻撃……なかなか良かったぞ? 褒美に面白い物を見せてやろう!!」


 俺の拳を掴んだまま、そう言うと混沌卿に変化が現れる。首回りのスーツがボコボコと泡立ちながら増殖し、混沌卿の頭部を覆っていくのだ。

 頭部を完全に覆うと、まるで特撮ヒーローのヘルメットのような形状で固定化する。そして、バイザー越しに三つの赤く燃えるように発光する眼のラインが現れた。

 その三つ目は、あの紅蓮零度でドラグーンが見せた暴走時に酷似している。


「待たせたな……りゃっ!」


「ぐっ!」


 掴まれた拳を引き寄せられ離すと同時に、腹部に重い一撃を打ち込まれる。


「ほらっ! どうしたどうした!」


 くの字に曲がり低くなった俺の頭部へ、奴の右蹴りが迫る。俺は咄嗟に腕でガードするが、ガードごと吹き飛ばされた。


「タツヤさんっ!!」


「マスター!!」


 ゴロゴロと転がりながら、二人の悲鳴に似た声を聞く。危険を察知し、すぐに飛び起き後方へ飛ぶと、俺が居た場所に上空から混沌卿のフットスタンプが刺さる。硬いはずの遺跡岩盤に、放射線状のヒビが入った。


「おっと、惜しい!」


 黒いヘルメットの中から、混沌卿の楽しそうな声が漏れる。俺は荒れた呼吸を整えると、奴の攻撃に対処出来るよう構えた。


「まだまだいくぞ!」


 消えた……そう、錯覚するほどの速さで、混沌卿が接近すると拳をくりだす。


「ちっ!」


 思わず舌打ちが漏れる。さっきまでの混沌卿とは、力も速さも数段違った。

 左右から放たれるマシンガンのような連撃を、フル加速させた思考速度で何とか凌ぐ。しかし、それでも間に合わず、たまらず後ろへ大きく跳躍し逃げた。


「くく……どうだ? なかなか良いだろう?」


 余裕の態度で、混沌卿が腕を広げる。悔しいが、今の俺では勝てそうもない力の差を見せつけられた。


(いや、待てよ……あいつは自分のスーツが、イオスのスーツと同じような物だと言っていた……だったら、もしかして……)


 思いつき、思考する。もっと早く、もっと強く、俺はお前を受け入れる、だからお前も俺に力を寄越せ、そう自分のスーツに向かって強く念じる。


「お? おお!」


 どうやら正解だったらしい。俺のイメージに呼応するように、スーツの首回りが膨張し、混沌卿と同じように頭部を覆っていく。そして、完全に覆いきった瞬間……またしても俺の意識は弾き飛ばされた。


「ウォォォォォォッ!!!」


 透明な、まるで幽霊になったような俺の目の前で、俺だった肉体が空に……月に向かって吼える。

 その姿を見て、混沌卿は頭を振った。


「やれやれ……まるでケダモノだな。肉体の方は聞いていないが、意識のお前は聞いているだろうから教えてやる。お前には、この力は……イオスの完全な力は扱えないのさ」


 喋りながら混沌卿は、飛びかかる俺の体を軽く躱し地面に叩きつける。感覚が無い今の俺には痛みが伝わってこないが、相当のダメージなのだろう……倒れた俺の体は、すぐには動けないようだ。


「お前とイオスの間には重大な障害バグがある。それが、全力になったイオス・ドラグーンとお前の接続を阻害しているのさ。バグが何かわかるか?」


 俺の体をミシミシと踏みつけながら、混沌卿が尋ねる。今の俺に応える術は無いが、どちらにしても、そんな物見当もつかなかった。


「ふん、教えてやる。お前とイオスの繋がりを阻害するバグ、それはあの嬢ちゃんだよ」


 混沌卿が指差したのは、檻の中に居たリミルだ。


「人間にしか扱えないドラグーンのシステムに、お前が嬢ちゃんを組み込んだんだ。通常時ならそれでも問題無かったが、全力稼動となると……こうなるというわけだ」


 俺の頭を掴み、持ち上げると蹴り上げる。宙に浮き、再び地面に叩きつけられた衝撃で、元のスーツに戻り俺の意識も体に戻る。


「ぐぁっ!!」


 と同時に、感覚も戻り身体中に鋭い痛みが走る。俺はたまらず身悶えた。


「正直、お前は良くやってるよ。お前を殺しの道具扱いするイオスに、バグ娘まで抱えて、何とかここまでやってきたんだからな」


「ぐっ……俺が……殺しの道具? 何の話だ……」


 痛みに耐え、何とか上体を起こし混沌卿を見る。混沌卿は呆れたように、腕組みをしたまま首を傾げた。


「何だ、知らないのか? お前の脳味噌は、とっくの昔にイオスによって、殺人マシンへ作りかえられているんだぞ」


「なんだと……そんなわけあるかっ! 俺の脳にあるのは、ドラグーンと接続する為のイオスの組織だけだ!!」


「くっ……はっはっはっは! これは傑作だ! まさか、それだけだと本気で思っているのか?」


 一頻り笑うと、混沌卿はこちらを指差しながら、近寄ってくる。


「なあ、よく思い出せ。お前が初めて殺しをしたのはいつだ? この世界に来てから……いや、そこのイオスと契約してからじゃないのか? 初めて殺しをした時はどうだった? 良くも悪くも、特に何も感じなかったろう? それは、お前の脳味噌を、イオスが扱いやすく改造したからなんだよ。扱いやすく、どんな奴でも殺せる殺人マシンにな!!」


 混沌卿の指が、俺の胸に当たる。それでも俺は動けなかった。

 ようやく首を動かし、檻の中のイオスを見る。イオスは俯き動かない。


「イオス……今の話は……」


「……事実……だ、マスター……。しかしっ、我はマスターを道具だなどと思った事は一度だって無いっ!!」


 悲痛なイオスの叫びが聞こえる。俺はふらつく頭と脚を、何とか支える事で手一杯で、そんなイオスに何も言葉を言えそうになかった。


「言葉では、何とでも言えるよなぁ……じゃあ、俺が思い出させてやろう。本来人間が持つべき良心の呵責ってやつをね」


「や、やめろ、混沌卿! マスターに触るなっ!!」


 動けない俺を混沌卿が抱きしめ、耳のすぐ脇で呟く。イオスの制止の声も無視し、奴の手が俺の頭に触れた途端、俺を衝撃が襲った。

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