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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第一章 目覚めたら異世界/復活の邪龍神機
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1-6


「ヤルバ爺!! 大変だ、リミルが!!」


 家に飛び込んだ俺とリミルを見て、ヤルバ爺がすぐにリミルの治療を術式で始め、俺は状況を慌てながらも説明した。


「なんと! ……帝国の兵達がこの森に……いったい何が目的か……」


 喋りながらも、ヤルバ爺の詠唱と手は止まらずリミルに治療術式を施している。

 いつになく険しいヤルバ爺の顔がリミルの状態の悪さを物語っている。


「治療術式はあくまで、その者が本来持つ回復力を強化促進する術……しかし、儂も三賢の一人と数えられた者! 何としても助けてみせるわい!!」


 その時、家の外がだんだんと騒がしくなっていく事に気付く。

 窓からそっと伺うと帝国兵らしき男達が多数、家を包囲していた。

 逃げる時の血痕を追われたのかもしれない。


「……っっ!! ヤルバ爺っ! 外に帝国兵達が!」


「くっ!! 帝国兵め………術式発動! めぐり大瀑布だいばくふ!」


 ヤルバ爺が詠唱をし、頭上で合わせた両手を左右に振り下ろす。

 直後、轟音と共に空から、360度グルリと家を囲むように巨大な滝が流れ出した。

 いつまでも流れ落ちる滝の水は、地面に到達すると消えるようで、家はさながら水のドームの中のようだ。


「とっておきの結界術式じゃ! これでしばらくは持つ! 治療を続けるぞ!」


「ヤルバ爺…俺に、俺に何か出来る事はないですか!」


「ならば、タツヤ殿はリミルに語りかけ続けて下され!」


 ヤルバ爺の指示で俺はリミルの左手を握り必死に呼びかける。俺の声にリミルも微かだが反応を示す……が、それも段々弱くなっていくようだった。

 突然、地響きと共に家が揺れる。地震のように断続的に続く振動に、ヤルバ爺が驚きの声を上げる。


「儂の大瀑布を破ろうと攻撃しているようじゃが……この力……まさか魔装甲冑か!?」


「魔装甲冑?」


 目を窓の外に向けると、降り注ぐ滝の向こう、巨大な人影、まるで巨人のような影が炎の球を撃ち出す姿が見える。

 撃ち出された炎の球は滝に当たると爆散し、大気が震えた。


「古代の力と術式で動く巨大甲冑じゃ……帝国が数多く保有し、それ故他国を次々と攻め落とせた……奴らの戦力の要よ」


 ヤルバ爺の顔に焦りの色が濃くなる。


「不味いのう……魔装甲冑の強化された術式の前では、儂の術式もそうそうもたん……」


 ヤルバ爺の繰り返した治療術式の効果もあり、既にリミルの吐血は収まり、矢を除去した跡の傷口も僅かずつだが塞がりつつある。

 しかし、リミルの呼吸は浅く、閉じられた瞳は開かれない。


「くぅぅぅ……儂は……儂は何と無力か! 孫娘一人救えず、何が三賢か!!」


「いや、俺が……もっと上手くリミルと逃げていれば……」


 治療術式を止めず、握った手を離さず……それでも俺とヤルバ爺はリミルが助からないだろう事を悟り慟哭する。

 ……その時、俺の足にこつんと何かが当たった。

 見ると、それはあの黒龍が遺した神具、不思議な漆黒の玉だ。

 おそらく振動で転げ落ち、龍の像から外れたのだろうそれを、俺は拾い上げた。

 俺の手に収まった途端、玉に変化が現れる。

 中央に薄く赤い光が灯り、鼓動を刻むように段々と強くなりながら明滅する。その光に合わせるように、玉の周囲に赤い線が浮き出てきた。


「ヤ、ヤルバ爺、こっ、これは?」


「なんと! い、いや、儂にもわからぬ!」


《資格者を確認。起動開始》


「えっ?」


《……我、目覚めたり》


 脳内に謎の声が響く。無機質なその声は、まるで手の中の玉から出ているように感じた。


《我を目覚めさせ力求めし者、契約を。契約を。契約を。契約を…》


「う、うるさい! 力がどうとか契約がどうとか一体……っ! おい! その契約とやらをすれば、お前の力でリミルを……この娘を助ける事は出来るか?」


《……可能》


「よ、よし、わかった! お前と契約でも何でもしてやる。だから……だから、リミルを助けろぉぉぉ!!」


 俺の叫びに呼応するように、一際大きな光を放った玉が手から浮遊すると、リミルの胸元に降り立つ。

 そのまま、何の抵抗もなく、まるでそうあることが自然な事のように、玉の半ばまでが胸元に埋まった。


「し、信じられん…」


 俺達が呆然と見つめる中、変化はすぐに訪れた。

 リミルの青い髪が、烏の濡れ羽のように艶やかな黒に染まる。白い肌は黒に近い褐色へ、そして額と尾の鱗は青から漆黒色へと変わった。


「ん……ん〜〜!!」


 変化したリミルがパチリと目を開け、起き上がると大きく伸びをする。開いた瞳の色は青から真紅になっていた。


「リ、リミル…?」


 俺の声にリミルがこちらを向く。

 しばらく俺を見つめた後、唐突にニヤリと笑った。リミルが一度もした事の無い笑い方だった。


「ふふ、お主が我のマスターか。我は黒龍イオス……気軽にイオスちゃんとでも呼ぶといい」


「黒龍!!?」


「な、なんと! なんと! 黒龍様でございますか!!」


 ポカンとする俺とは逆に、ヤルバ爺が慌ててその場で平伏する。それを見たイオスはヒラヒラと手を振る。


「あ〜、良い良い、そういう堅いのは無しで良い。……さて、我を宿したこの身体の持ち主、リミルといったか?」


「そ、そうです。我が孫娘リミルでございます」


「ああ、リミルは無事なのか?」


「ふふん、安心するといい。状態が状態でまだ目覚めてはおらんが、我の中で寝ている。マスターの望み通り無事だ」


 イオスは右胸の矢傷を見せる。さっきまで痛々しく閉じ切っていなかった傷口も、今は肌より黒い組織で完全に閉じていた。


「そ、そうか……良かった……」


「黒龍様、タツヤ殿……ありがとうございます。ありがとうございます」


 安心し力が抜ける俺と、涙を流し感謝するヤルバ爺を、イオスは満足気に眺める。


「……ところで、さっきから言ってるマスターって……」


 そう俺が尋ねると、イオスが怪訝な表情を浮かべた。


「何を言っている。我を目覚めさせ、我と契約し、我の力を行使出来る者。つまりはお主の事だ」


「……やっぱりそうか、いや、さっき契約するって言ったし、そうだろうとは思ったけれどな。あのさ、ギリギリの状況で確認出来なかったけれど、契約って具体的にどんな契約なんだ?」


 俺の問いかけに、イオスはまたニヤリと笑い答える。


「簡単な契約だ。我とお主が一つになるというな」


「お、おい! それ、どういう意味だよ?」


「なに、じきにわかる……しかし、ここは騒がしいな。一体何事だ」


 ヤルバ爺が手短かに状況を説明する。

 そう、今なおヤルバ爺の術式を破るべく、繰り返される攻撃による振動は続き、天井からは木屑がパラパラと落ちてくる。


「黒龍様、実は……」


「………つまり、白龍の信奉者供が、我のマスターを取り囲み攻撃している、そういう事だな?」


「ま、まあ、そういう事ですな」


 ヤルバ爺の説明が終わるや否や、イオスが高らかに笑い出した。


「くっくっく…はーっはっはっはー! 自分達が何を攻撃しているかも知らず、無邪気なものだ! ……しかし、可愛い児戯とて過ぎればお仕置きも必要か」


 すたっと立ち上がると、イオスがこちらに手を伸ばす。


「一体どうするんだ?」


 なんとなく伸ばされた手を取り尋ねると、イオスが笑った。


「ふふ、こうするのさ!」


 イオスが空いた方の手を胸に埋もれた玉に手を伸ばす。瞬間、視界を黒い閃光が埋め尽くした。

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