3-13
『マシロッ!!』
『マシロちゃんっ!』
『ダメだっ! マスター! リミル! 集中しろ、まだ終わりでは無いぞ!』
イオスの言葉通り、マシロが入った事なんて何も意味がない……そう言わんばかりにコスモ・ドラグーンの攻撃が続く。つまり、こちらが防戦一方になる状況は変わってはいない……だが……
『マシロも今、奴の中で必死に戦っているはずだ! ここで俺達が負けてられるかぁぁっ!!』
触手をギリギリで躱し、伸びきったタイミングを狙い餓龍剣で斬り飛ばす。地に落ちた触手はビタビタと数度のたうつと、ドロドロに溶けて消えた。
『やった、タツヤ兄っ!』
『よしっ! これならっ!』
タービュレンスと目線を合わせ頷きあう。この調子でいけば……しかし、そんな俺達の想いをドミニアスは嘲笑う。
『ふはは、たかが一本、我が腕を落としただけで、随分調子付くでは無いか。ならばもっと落としやすいよう数を増やしてやろう!』
『くっ、冗談だろっ!?』
コスモ・ドラグーンの背部から更に五本、同じ触手が生えてくる。残った物と併せて倍の八本だ。
『あれだけの数を同時に操りきるとは……化け物めっ!』
『化け物? くっくっく……違うぞ、邪龍。我は神だ! この世界を統べるべき神なのだよっ!!』
コスモ・ドラグーンの猛攻が始まる。威力と速さに加え、文字通り手数の増した攻撃に、無理な回避が続きドラグーンの全身が悲鳴をあげる。
そうして数十に及ぶ攻防の後、遂には直撃を受けてしまった。数本の触手を捻り束ねた巨大な一本の触手が、唸りを上げ俺の体を激しく打ち、殴り飛ばした。
『ぐぁっ!!』
『タツヤ兄っ!!!』
タービュレンスが持ち前の高速移動で先回りし、俺を空中でその背に乗せるとしなやかに着地する。
『うっ……ありがとう、シルフィ、タービュレンス。助かったよ』
『えへへ、どういたしまして! ……えっ? タービュレンス?』
俺を背に乗せたタービュレンスが突然クルルルルと鳴きだす。今まで聴いた事の無い鳴き声だ。
その瞬間、俺の脳内にあるビジョンが流れだした。
『おい、今のって……』
『うん、タービュレンスが見せたみたい!』
シルフィが応えるその間も、脳内でビジョンは繰り返され続ける。俺はタービュレンスが発信した、そのビジョンが訴える言葉通り叫んだ。
『暴風武装!!』
途端にタービュレンスの全身を守るエメラルド色の結晶が眩い光を放つ。その光に呼応するように、タービュレンスの頭部と胴、前脚、下半身と後脚が分割変形し、ドラグーンへと引き寄せられた。
『おおっ!』
両前脚は手甲のような形状で両腕へ、更に下半身と後脚が左右に分割されるとドラグーンの膝から下に装着。
最後に頭部と胴体がドラグーンの上半身を包み込むと、大きな結晶の肩当てが特徴的な鎧状になり、胸部に付いた唯一変形していないタービュレンスの頭部である虎が大きく吠える。
『龍虎合体っ!キング・ドラグーーン!!!』
思わずポーズを取り名乗りをあげる。すると、それに応えるように胴、肩、腕、腰、膝に装着されたタービュレンスの結晶が、元のエメラルド色から光り輝く黄金色へと変化する。
全身を輝く黄衣を纏ったかのように光らせ、俺とタービュレンスは一体となった。
「おい、マスター……何なんだ、そのキングとやらは?」
少し呆れたような口調で、イオスの冷静なツッコミがとぶ。
「いや……ははは、様式美だよ、様式美。俺が元居た世界だと、こういう合体した時には、ゴッドだとかキングだとかグレートだとかが名前の頭に付くものなんだよ」
何というか、ノリで名乗ったものを改めて言うのは少し気恥ずかしいな。
「ふん、それでキングか……まあ良い。しかし、まさかタービュレンスにこんな機能があるとは思わなかったな……聞こえるか、シルフィ」
「うん、聞こえるよ! 凄いね、これ……まるで、頭の中に皆を詰め込んだみたい」
「我等は元よりそうだが、タービュレンスを介してシルフィも繋がったからな。なに、じきに慣れるさ。それより、マスターとリミルも聞いてくれ、簡単に現状を説明する。まず、先の合体によって、タービュレンスだった部分を含む全身の操作権は全てマスターに移譲された。シルフィはリミル同様、術式でサポートしてくれ」
「うんっ、了解っ!」
「そして、我の核とタービュレンスの霊王結晶が完全に同期した。あれ程、我に馴染まなかったのに、だ。完全同期した二つの結晶の相乗効果により、我等は大きな力を得た」
「それって、つまり……」
「ああ、我等は既に先程までの我等では無い! 行くぞっ、マスター! リミル! シルフィ! 皆でこの戦いを終わらせようっ!!」
「応っっ!!」
合体した俺達に警戒したのか、それとも単純に好奇心からか……コスモ・ドラグーンにまだ動きは無い。イオスの檄に応え、俺はコスモ・ドラグーンへ突撃した。




