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「こちらにてお待ちで御座います」
いかにも有能という佇まいの老執事に案内され通されたのは、意外にもかしこまった場所ではなく、こじんまりとした庭が望めるやや広めのテラスだった。
「おお、来たようだな! さあ遠慮せず座りなさい」
テラスに置かれた円卓に座る白虎のブライアン王が笑顔で手招きをする。その横では、リズさんが静かにお茶を飲んでいた。
「ど、どうします?」
リミルが俺の袖を引き、小声で尋ねる。一国の王に同席を促されたら、こんな風に困惑してしまうのも無理は無い。俺はリミルを安心させるように笑顔を見せる。
「せっかくああ言ってくれているんだし座ろう、リミル。それに、あえてこういう場所で円卓を向こうが選んだという事は、おそらく身分の上下関係無く腹を割って話したいという意思の表れだと思うんだ。そうですよね? ブライアン王」
あえて王に聞こえるように話し、最後に王自身に話を振る。すると、王はすぐに破顔し答える。
「はっはっは、まあ概ねそんな所だ。付け加えるなら、公の場での謁見というものは色々と手続きや作法が面倒でな。こうして、個人的に茶でも飲みながら話す方が、私は楽でいい」
そう言うと、また手招きで座るよう促した。俺はリミルに頷き、椅子に座る。
「それでは、失礼します。ブライアン王、早くの謁見ありがとうございます」
「ああ、事が事だけに……ね。それに君達が、ブエラリカに来てから私達に何をしてくれたのか、私は良〜く知っている。そんな君達の事をそうそう無下にはできないさ」
俺達に王自ら茶を淹れ、見た目の厳つさに反して茶目っ気のあるウィンクを見せるブライアン王。モフモフの虎がウィンクする姿はなかなか可愛かった。
「王様は私達の事を御存知だったんですか?」
「知っているよ、可愛いお嬢さん。確か名はリミルだったね」
ブライアン王はそう言うと、リミルの方に向き直り、人差し指を立てる。
「昔からミンバの民は皆、本質的に商人でね。それは王である私も同じだ。そして、商人にとって商機を左右する情報という物は、非常に大切な商売道具で……国を治める上でも変わらないと私は考えている」
「ふふ、その大切な情報源を横に座らせておいて、ずいぶんと大きな事を言うな、ブライアン」
「やれやれ、せっかく若者達に尊敬してもらおうとしているのに、ネタばらしは勘弁して欲しいな、リズよ。それに君達の事はリズだけに聞いたわけで無いぞ?」
ブライアンが手を大きく叩き椅子に座ると、ドアが開き二人の人物が入って来た。
「よう、タツヤ。その格好、なかなか似合っているじゃないか」
「へへ、いらっしゃい! タツヤ兄ちゃん、リミル姉ちゃん!」
「コルトに……ジルバなのか?」
思わず疑問形になる。それも無理は無い、何故なら……
「紹介しよう。私の子供達、兄ゴルディに妹シルフィだ」
そう、普段のラフな格好から、キッチリとした格好になったコルトはともかく、嫋やかなドレスに身を包んだジルバは、どこからどうみても可憐なお姫様、つまり可愛い女の子だった。
「ん? どうしたのタツヤ兄ちゃん?」
「いや、俺ずっとジルバがおと……っ! つぅっ!」
思わず出てしまった俺の言葉は突然走った鋭い痛みで掻き消えた。見ると、リミルが目線を合わせずに俺の掌をつねりあげていた。
「そういう事は思っても言っちゃダメですよ、タツヤさん!」
小声で怒るリミルに目線で謝ると、ようやく掌が解放される。そんな俺の様子に、ジルバは不思議そうに、コルトは笑いを堪えながら、それぞれ卓に着いた。
「もともとは二人の希望でな。王族として普段は民の中に身分を偽り混じり、王城の中では学べない様々な事を学んでいる。君達に出会ったのは全くの偶然だったが、結果的には事前に君達の人となりを知る事が出来て良かったと思っているよ」
「まあ、なんだ。そういう訳でな。すまない、騙すつもりでは無かったんだが……」
ブライアン王の言葉に続いて、コルト……ゴルディが頭を掻く。俺はそれに笑って手を振った。
「構わないさ。ゴルディにコルト、どっちのあんたも俺達への対応自体には差や嘘が無かったと思うぞ。それはシルフィだってそうだろ?」
「うん! 僕はどうしたって僕だよ、えへへ」
笑い合う俺とシルフィを見て、ゴルディも安心したように笑顔を見せる。
しかし……二人が王子様にお姫様だとは思わなかった。いや、よくよく考えてみれば、思い当たる節はあった。
互いに面識があるはずなのに、案内してくれたジルバの事を伝えた時のリズさんのあの反応、いくら貰った物とは言え、一個人であるコルトが魔装甲冑を所持し軍相手にも顔がきく事……なるほど、二人が王族なら全て合点がいった。




