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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第二章 商業国家ミンバ/吼えよタービュレンス
31/95

2-12


「兄上! ブエラリカ市街に多数の魔装甲冑がっ!!」


 王宮、王の居室へと慌ただしく踏み込んだブライド王弟が見たのは、既に戦支度を整えた、兄でありミンバの白き虎王、ブライアンの姿だった。


「ブライドかっ! 丁度いい……今より打って出るぞ、私に続け!」


 兄の良く響く低い声に、ブライドの背中が思わずブルルと震えた。

 その震えに押される様に兄へ頭を下げ承諾の姿勢をとる。

 そうだ、いつもいつもこうなのだ。この兄を自分は酷く疎ましく思っているはずのに、その言葉にどうしても逆らう事が出来ない……頭を下げたまま、ブライドは己の牙を噛みしめた。だからこそ俺は……。


「どうした?」


「……いえ、何でもありません、兄上! 承知しました!」


 その目に浮かんだ暗い輝きを悟られないよう、ブライドはブライアンに先んじて部屋を出る。

 王宮の外では既にブエラリカ駐屯軍の魔装甲冑が並び、出撃に備えていた。

 そして、それらを見下ろす様に巨大な影が地響きと共に現れる。

 小さな家屋ほどの太さがある脚部を四本有し、魔装甲冑すら容易に噛み砕く虎に似た巨大な獣。

 その肩甲骨辺りからは巨大な人型の上半身が生え、重装甲を感じさせない機敏さで四本生えた腕それぞれに構えた武器である長槍二本と長剣二本を操る。

 この強力無比な魔装甲冑こそ、ミンバの至宝にして王専用の魔装甲冑《虎楼閣ころうかく》だ。

 その威風堂々とした姿を見上げ、ブライドは思わず懐の瓶に手を伸ばす。が、すぐに思い留まった。

 ここでは他者の目が多過ぎる。兄にはこの戦いで名誉の戦死をしてもらわねばならないのだから。

 ブライドは己の魔装甲冑に乗り込む。王弟であるブライドの為に用意されたこの魔装甲冑も、並みの物に比べ頭一つ抜き出た性能を持つ一級品だ……が、兄の虎楼閣を見ると、ブライドはどうしても己の存在が矮小に感じられ、酷く惨めな気持ちになった。


(くっ、まあいい。それもあと少しの辛抱だ。もうすぐ全てが手に入る……玉座も虎楼閣もこの国すらも、な)


「行くぞ、皆の者! ブエラリカの民を救うのだ!!」


 弟の思考を打ち切る様に、兄の号令が響く。進み出した虎楼閣と魔装甲冑達にブライドも続いた。



 何体かの白騎士達を倒しながら王宮の方向へと進む。

 すると遠くに二体の魔装甲冑が白騎士達と戦闘している姿が見えた。


「あれも……魔装甲冑なのか!?」


 俺は思わず驚きの声をあげる。

 二体のうち一体は、まるで巨大な虎の上に人が生えたような異形で、サイズも他の魔装甲冑の比ではないほど大きい。

 巨大な四本の腕に持った武器で、複数の白騎士達による攻撃を器用にいなし、逆に攻め立てている。


「無事だったか……タツヤ、あれは虎楼閣。操手はミンバの王であるブライアン王だ。隣に居るのは王の弟ブライドの魔装甲冑だな」


「あれが王様の……凄まじいな」


「ん〜、虎楼閣が出たなら、この辺ももう大丈夫かな?コルト兄、他の場所も見てみる?」


「そうだな、ジルバ。俺の思い過ごしだったかもしれない。他の場所へ加勢に行くか」


 立ち止まった俺に追いついた虎鉄丸とタービュレンスが頷きあう。なるほど、少なくともあれに乗ってるなら、王様は問題無いだろう。

 俺がそう納得し、虎鉄丸やタービュレンスと共にその場を離れようとしたその時、異変は起きた。

 突然、王の弟と言われた魔装甲冑が虎楼閣へ巨大な火球を放つ。

 予期せぬ攻撃に直撃を受けた虎楼閣がその爆発に思わずグラつくと、そこに戦っていた白騎士達が殺到し虎楼閣を押さえつける。

 一時的に動きを抑えられた虎楼閣に、王弟の魔装甲冑が飛び乗ると、中から王弟と思われる黒い虎面の男が現れ、虎楼閣へ何かをした。


「なっ!? 一体?」


 驚く俺達の目の前で、虎楼閣に変化が現れる。

 王弟が何かをした場所から全体へ、虎楼閣の表面が白騎士達と同じ白色へと、まるで紙にインクを染み込ませている様に広がり変わっていく。


「あれは……マズイぞ、マスター!!」


「一体何が起きてるんだ? 何がマズイんだ、イオス!?」


「あの魔装甲冑……白騎士の手の者に奪われたっ!!」


 イオスの言葉を体現する様に、完全に白に染まった虎楼閣は、王弟をその身に向かい入れる。そして、誰かをつまみ出すと、それを放り投げた。


「っっっ! いけないっ!!」


 横のタービュレンスがいち早く反応し、風よりも早く駆け出すと、その放り投げられた者が地面に激突する前に咥え救い出した。

 見るとそれは鎧に身を固めた白い虎面の男で……おそらくはこの人物がミンバの王なのだろう。

 放り投げられた衝撃でか、気を失い動く気配はない。


「ん……大丈夫! 怪我一つしてないよ!」


「でかしたぞ、ジルバ! お前は一先ず安全な場所へ王を運んでこい!!」


「任せてっ! コルト兄、タツヤ兄ちゃんも気をつけてっ!」


 駆け出すタービュレンスを見届け、再び虎楼閣へ向き合う。

 突然の乱入者に、虎楼閣が大きく吠え、それに合わせたように白騎士達も武器を構えた。


「王弟が裏切りか……どうも今回の騒動、根が深そうだな……」


「コルト、そういうのは後回しだ! 来るぞっ!」

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