表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第一章 目覚めたら異世界/復活の邪龍神機
2/95

1-1



「くっそ! ……何なんだよっ、一体!!」


 俺は今、脇目もふらず必死で逃げている。

周囲は木・木・木……見上げても生い茂った枝葉で空も見えない。

 どうやら、どこかの深い森の中に居るようだ。どこか……というのも、実はここがどこか俺にもわからない。

 荒い呼吸を繰り返しながら、どうしてこうなったのかグルグルと何度も考える。

 そもそも俺は今朝、いつもの様に自宅のベッドで目覚めるはずが、気付いたらこの森の中で寝ていたのだ。

 誘拐? たちの悪いイタズラか? 訳もわからず、寝間着替わりのジャージに素足という格好で、森の中を当てもなく彷徨いだした。


「ん、なんだ?」


 どれくらい歩いただろうか……微かにだが、背後からまるで俺の歩調に合わせる様に着いてくる足音がある事に気付く。一瞬助けかとも思ったが、何も喋ってこないのは変だと思いなおし、太めの木の裏に身を隠した。


「なっ……!!」


 ……なんだ、あれは? 思わず出かかった叫び声を必死に抑える。

 おそらく俺の後を着けてきたのだろうそれは、例えるなら大型犬の体にカラスの頭を付けたような……少なくとも見た事も聞いた事もない様な生き物だった。

 そいつは俺の居場所を探す様に地面を嗅ぎ回る仕草をした後、ゆっくりとこちらを向いて……


「う、うわぁぁぁ!」


 叫び、俺は脇目もふらず走った。走って走って……木の根に足を取られ盛大にすっ転んだ。


「ぐぅう……」


 痛みを堪え、振り返るとそれ程遠くない場所にあのカラス頭が居た。

 こちらを感情を感じない瞳で見ながら、嘴をカカカと打ち鳴らしている。


「……く、来るな! 来るなぁ!!」


 威嚇するように大声で叫ぶが、カラス頭は全く怯んだ様子が無い。

 ゆっくり一歩一歩探るように近づいてきた。ここまでか…唇をギュッと噛んだその時、


「◉√→ゞ!!」


 俺の背後から突然、激しい水流が飛びカラス頭を吹き飛ばす。体を木に叩きつけられたカラス頭は、面食らったように逃げ出した。

 振り返るとそこには、一人の少女が立っていた。

歳はだいたい中学生くらいだろうか?

 不思議な少女だ。着物に似た何処かの民族衣装のような服を着て、リュックを背負った姿は、まるでコスプレだが、それよりも気になるのは少女自身の容姿だ。

 青い瞳に、肩まで伸びた青い髪からのぞく両耳は先端が大きく伸び、また額の一部にはキラキラと輝く青い鱗の様な物が付いている。腰の辺りからは同じ青い鱗で覆われた腕位の太さの尻尾がゆらゆらと揺れ、そのどれもが作り物とは到底思えない様なリアリティを放っていた。

 そのあまりに現実離れした容姿に一瞬言葉を失ったが、いやいや自分の現状はそれどころでは無かったと思い直す。


挿絵(By みてみん)


「あー、あの……本当に助かりました。さっきの化け物はいったい……いや、それよりここは何処かな? 実は気付いたらこんな所に居て……」


 少女の様子を伺いつつ話しかける。もちろん笑顔も忘れない。笑顔はコミュニケーションの第一歩だしな。多少見た目が奇抜でも向こうだって敵意の無い事はわかってくれるはずだ。

 少女は俺の問いかけに小首を傾げる。


「£∂∋ÅÅ?」


 あ……これは駄目だ。何を言っているのか全くわからない。

 イントネーションで言葉だというのはわかるけれど、聞き覚えの無い響きにただただ困惑する。

 少女も俺の表情から、言葉が通じない事がわかったようだ。

 少し考える素振りを見せた後、俺におそらく身振り手振りでそのまま待つように伝えると、背中の荷物を降ろし何やらゴソゴソと漁りだした。

 取り出したのは木製の椀と、皮袋。皮袋の中から透明な液体を椀にトクトクと注ぐ。

 器に半ば程液体を入れると、器の縁を指でなぞりながら、何やらモニョモニョと歌とも呪文とも思える言葉を呟く少女。

 言葉に合わせフリフリと左右に揺れる尻尾を所在無げに眺めていると、椀の中に変化が現れだした。

 少女の指の動きに合わせ、少しずつ椀の水が黒く濁っていく。だんだんと黒さが増していき、ちょうどブラックコーヒーのような色になった。


「▽▽†⊂」


 俺に椀を手渡すと、少女は微笑みながら飲むジェスチャーを繰り返す……えっ? これを飲むのか!?

 どういう原理なのか真っ黒になった水と、悪意なんかまるでありませんという目で頷いてくる少女を見比べる。


「い……いただきます」


 さっき助けてくれたのもこの少女なら、今俺が頼れそうなのもこの少女ただ一人なのだ。俺は半ば自棄気味に黒い水を飲み干した。黒い水は匂いも味も無く、色以外はただの水そのものだが、一体何の意味が……。

 不思議に思いながら飲み干した椀を少女に返すと、こちらを見つめたまま少女が再び語りかける。


「どうですか? 私の言葉……わかりますか?」


 驚きすぐには返事が出来なかった。意味不明な言語だった少女の言葉が、急に日本語になっていた。


「私の術式で、貴方と私達の言葉を繋げました。私の言葉、わかりますよね? 」


「あ、ああ。わかるよ。凄いなぁ……」


 俺の言葉に少女は満足気に頷いた。どうやら少女が日本語を話している、というわけでは無いらしい。


「良かった……旅の方ですか? 《跡追あとおどり》は逃げるだけだと弱りきるまで延々と追ってきますが、強い抵抗を受けるとすぐ逃げ出すんですよ」


「あいつは跡追い鳥っていうのか……いやぁ、本当に助かったよ……えっと」


「あ、申し遅れました。私は龍族リミル・リーエム、リミルと呼んで下さい」


「リミルか。俺は黒田竜也。竜也でいいよ」


 そう名乗ると少女ーリミルはニコッと笑う。


「タツヤさん……ですね? わかりました!」


「ところで……リミル。結局、さっきの跡追い鳥って何なんだ? それに跡追い鳥を追っ払った水流とか、さっきのお椀の水もいったい……」


「え、えっとですね……跡追い鳥はこの辺りで現れる魔物で、水は私の術式ですよ。私は青龍族なので、水の術式が得意なんです!」


 エッヘンと胸を張るリミル。が、すぐに怪訝な表情を見せる。


「跡追い鳥はともかく、術式は御存知ですよね? 」


「いや……正直、初めて見たよ」


「そうなんですか? んー、大気に満ち満ちた魔素を術式によって望む形へ整え、様々な効果を発揮する……私のそれも特に代わり映えのない一般的な物だと思いますけれど……」


 どうも、腑に落ちないようだ。

 それだけリミルにとって術式というのはあって当然の物なんだろう。

 いや、この世界にとっては……か。そう、おそらくここは…………


「もう一つだけ良いかな? ここって日本…いや地球だよね?」


 こんな質問したら、周囲の人間は何を言っているんだと、呆れるか笑うかするだろう。もしくは変な奴だと離れるかもしれない。

 しかし、リミルは少しだけ困ったような顔でこう言った。


「ニッポン? チキュウ? ……いいえ、ここは霊峰ルーディアの麓に広がるカケナの森ですよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ