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アルター・エゴ  作者: 我藤育人
第一章:花能学園編
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第5話:味方

花能学園(かのうがくえん)生徒会執行部が実は異能者の集団だった!なんて誰が信じるよ?

しかも、自分のことを育ててくれた恩人までもがそっち側の人間だったなんて。


「いや〜、人手が足りなかったら助かったぜー!!」

「それは戦刃(いくさば)君が仕事をサボるからでしょ!」

「それを毎回甘やかすお前にも原因があるだろ」


何故か3人の口喧嘩が勃発する。


「殆どが3年で構成されてるが、ここにいないだけでお前らと同じ2年も少しはいるからそんな気負いしなくていいぞ〜!」


「いやいや、なんで俺らが入ることがもう確定してるんだよ!?俺はこんなとこ入んねぇぞ!さっき俺は殺されかけたんだッ!!」


幻水さんに文句を吐き捨てて部屋をあとにしようとする。


「おい慶次、いいのか勝手に部屋から出て。また鎖に首を絞められるかもしれねぇぜ!?」


戦刃の言葉にさっき自分の身に起きたことを思い出し、扉の取手から手を引く。


「くくくっ…、まぁもう異能は解除されてるからなにも起きないんだけどなァ!!」


ビビった俺を見て笑ってやがる…!!

ふざけやがって!!


せめてもの抵抗で扉を力いっぱい閉めてでかい音を立ててやった。


「戦刃君さ〜、うちの息子を可愛がるのは結構だけど生徒会に入ってくれなかったらどうするの?あいつまだ弱いよ?」


「どうするもなにも、あいつ次第でしょ。1人で強くなってくれるならそれでよし。自らの弱さゆえに命を落とすなら、それまでの男だったってだけの話ですよ」


「冷たいなぁ…、それじゃ千藤君に慶次を任せよう!!なにが起きても大丈夫なように見張っといてくれ」


「……了解しました…………」

「目付きと言動が一致してないんだけど…」

じゃあ榊原さんは美怜を任せたよ!!と言い残して幻水は生徒会室を去った。

なので室内には慶次のお守りを押し付けあう千藤と戦刃、その争いに美怜を巻き込まないように退室を促す榊原と状況を飲み込めない美怜が残った。




その日の日程をすべて終え帰路につく。

結局その日は剣道場にも顔を出したが美怜はいなかった。

あいつ生徒会にあのまま入ったのか?

まぁ俺には関係ないな、殺されかけたあとに仲間になれって言われて、はいそうですかってなるかよッ!!

あんな危なっかしい奴らの仲間なんて誰がなるかよ。


そんなことをブツブツとつぶやいている間にすぐに寮に着いてしまった。

薄暗くなり、各部屋の明かりが窓から漏れ出てるんだが、どういうことか俺の部屋の明かりもついてるんだよなぁ…。

目の錯覚であることを願って部屋の前まで移動する。


あれ?鍵も開いてる!?

丸1日以上明かりをつけっぱなしで鍵も開けっぱなしって…。


空き巣にやられてないだろうな…。

扉を開けて中を覗くとリビングから物音が聞こえる。


(まだいるのか…?)


足音を立てないように静かにリビングまで近づく。

男と女の声?複数人の声が聞こえる。

女を人質に取ればいけるか…!!

ドアのくもりガラスに女の人影が写った瞬間に取っ手を引き、目の前にいる女を後ろから取り押さえる。


「動くなッ!!」


引き締まった声をだして威嚇する。

空き巣の驚いた表情…、ってあれ?


「なんで美怜がいるんだ?」


そこにいたのは、美怜と千藤先輩。

じゃあ今俺が人質にとっているのは?

「御堂くん…、あの、そのえっと…ううぅっ…」


「榊原先輩ィ!?」

瞳をうるうるさせた先輩が俺の腕の中に!!

人質に取ろうとしてたから今の体制はまるで後ろから抱きしめているみたいになっていた。


生徒会室で会ったときとは違って今はメガネをかけていて潤んだ瞳との相乗効果で、ヤバイ、カワイイぞ!!


「いい加減に!! は、な、れ、ろォォオ!!!」


ひょいと頭を下げた榊原先輩の頭上をすり抜けて、美怜のジャンピングキックが俺の顔面に炸裂した。

どんな身体能力してんだよ…。

キックの威力と、倒れた時に壁に頭を打った衝撃で俺の意識はどっかにいっちまった。


目を覚ますと、そこには出前で頼んだであろう寿司が陳列されていた。

何人前だこれ?


「目が覚めたか?」


隣に座っていた千藤先輩が声をかけてきた。寿司を食いながら。

部屋を見渡すと、美怜と榊原先輩もサーモンやいくらを食べている。


「なんで俺の部屋で先輩方が寿司食ってるんですか…」

「心配するな。お前が食べないならすべてこちらで処理する」

「食べないとは言ってません」

席について自分も寿司にありつく。


「一応、これはお前らの生徒会加入祝いってやつだ。好きなだけ食べろ」


「美怜はともかく、俺は入るなんて一言も言ってないんですけど!」


まさかこの寿司を食わせてその対価として生徒会に入れってことなのか!?

くそっ!!さすがチェスの世界一だぜ…!!


「いくら物で釣ろうったって、そう思い通りにはなりませんよ!!」

「食べながら言ってもなんの説得力もないわよ…」

「そういう美怜も寿司食ってるだろ…」

「私は生徒会に入るからいいの!あぁ、美味しいなぁ〜!!」

こいつめ…、見せびらかすように食いやがって…。俺も食うけどな!生徒会には入んないけど!!


「まぁ、半分は生徒会に入って欲しいっていう賄賂みたいなものだが、もう半分は謝罪だ」

「謝罪?」

「先程はすまなかったな。こちらも少々熱くなってしまった。許せとは言わん。だが、非礼を詫びさせてくれ…」


真剣な顔で謝っている千藤先輩を見てると、なんかこっちが意地を張ってるのがバカバカしく思えてきた。

この人は真面目すぎるけど、根はいい人なのかもな。


「先輩に免じて、話だけは聞いてみることにします。なんで俺をそんなに生徒会に入れようとするんですか?」


実際おかしな話だ。生徒会にいるのは、どれも優秀な才能を持ち、異能に覚醒した人達なのは想像がつく。しかも生徒会執行部と言う名前から察するに規模もそこそこ大きいのだろう。美怜は剣道の腕を見込まれて入ったというのならまだわかる。幻水さんの娘だし、異能を覚醒させる余地はあるのかもしれない。

……………なら俺は?

才能は、器用に毛が生えた程度のもの。異能に覚醒してはいるが、どういった能力かまでは、わかってないはずだ。しかも、俺は自分の手ではないが人を殺しちまってる。そんな危ない人間を入れる必要がない。

…ってか、二重人格者の罪ってもう片方の人格にも被るのか…?


「明確な理由は大きく二つだ。生徒会室でも少し言ったが、お前は一応人殺しの異能者ってことになってる」

「あれは、確かに俺が殺したかもしれない…!でも…!!あいつだって俺らのことを殺そうとしてきた!!最初に仕掛けてきたのはあっちだ!!」


エンリットと名乗ったあの男が、孤児院に火をつけ、俺や美怜の命を奪おうとしたのは記憶に新しい。捉え方によっては、あれは正当防衛、不可抗力になるんじゃないか?


「安心しろ、その件についてお前を処罰するってわけじゃない。一つ目の理由はな、お前の監視だ。また勝手になにかしでかさないようにな」

「そうですか」


良かったァァァァァッ!!!

よくわからんがそのことについては刑務所とかに世話にならずに済みそうだ!!


「二つ目の理由は、お前を保護することだ」

「保護?俺は一人でも生きてきますよ」

そういうことじゃないとでも言うかのように、千藤と榊原、美怜までもがため息をつく。


「いいや、お前はもう、一人で生きていくのは難しい」

「もう?どういう意味ですか?」

「桐生に聞いたが、昨晩お前達を襲った男は自分のことを"魔術師"と言ったそうだな」

「はい、確かにそう名乗りました。なんか王宮に仕えてるとか…」


俺と美怜、そして孤児院の皆を襲った男、恐ろしい炎の魔術と鋭い剣撃を操る魔術師、エンリット。

「王宮の魔術師…」

先輩達の顔が曇る。

「あれで終わりじゃないの。むしろ始まるかもしれない」

「始まる…って何がですか?」

「戦争だ」


は?何言ってんだこの人。


「戦争だ」

「そんな面白くないボケを二回も繰り返さなくてもいいですよ」

「ボケじゃないから、二回繰り返してるんだ」

その表情は至って真剣だった。

「もうすぐ、異能者を皆殺しにする為に魔術師共がわんさか攻めてくる」

「魔術師って、じゃああんな奴らがまだまだいるってことですか!?」

魔術師がいたのは認める。もう身をもって体験したしな。そんな奴らが徒党を組んで攻めてくるってことは、だいぶやばいんじゃないか!?

「元々魔術師と異能者は仲が良くなかったんだ、殺し合いまでは行かなくとも、その一歩手前ってのはよくあった」

「それでも、まだ殺人は起こらなかった。暗黙の了解で命を奪うのはご法度だったの!」

「その均衡を破ったのが、魔術国家『オルガノ』の現在の王」

「第72代目国王、カイル・ケイオス」

「今まで野良の魔術師が攻めてきて、それを撃退したこともあった」

「王宮の魔術師を殺したことで、奴らは口実を得たんだ。異能者狩りをするための」

どんどん話が進んでくがまだ頭がついてかない。これ以上進んだらまじでついていけなくなる。


「ちょっと待ってくださいよ!!そもそもオルガノってどこの国だよ、俺は世界の国全部把握してはないですけど、そんな国全く聞いたことないですよ!?」

「オルガノなんて国は、確かにこの世界に存在しない」

「じゃあなんですか?なにかの宗教国家かなんかですか?」


その程度なら規模も大したことないだろうし、戦争なんて大それたことにならないだろ。


「オルガノはちゃんとした国だ。それに、規模だって日本の五分の一程度はあると推測されている」


なに、言ってるんだこの人?ちゃんとした国なのに、この世界に存在しない?矛盾してるぞ。


「この世界の裏側、鏡に写したようにそっくりなもう一つの世界。俺達はその世界を『鏡面世界』と呼んでいる。オレガノがあるのはそこだ」

「突拍子もない話だと思うかもしれないけど、理解して。疑問に思ったところで、私達ですらそれに全部答えることはできないの」


そんな話をされたところで俺の口から何かが出るわけではなかった。


「全部を理解しなくてもいい。だが、これだけは肝に銘じろ。魔術師に会ったなら躊躇わずに殺せ、でないと死ぬ!」


殺、す?

未だにその言葉の恐ろしさを理解できない。

昨晩の出来事はもう一人の俺のやったこと、そういうことで自分自身を納得させている。

千藤先輩の目を見れば、伝わってくる…!

その冷酷な目は、殺すことを普通のことだと認識しているようだった。

この人は、魔術師を…、人を殺したことがあるんだ。多分、一人どころじゃない、何人も……!


「俺はこの先、何人も…、人を殺していくのか………?」


その言葉を口にしたら、…思い浮かべてしまった。


魔術師を見つけた途端に不必要な感情をすべて捨て、命を摘み取っていく。殺したことを意に介さず、みんなの前ではいつも通り。


もしかして、千藤先輩はもうそうなってるのか?

だとしたら…、だとしたらなんになる?

それがわかったところで、俺になにかできるのか?


「できるか?」

その言葉が、まるで銃口を向けられているように感じて。

「………はい」

俺は頷くことしかできなかった。


ならいいとだけ言い残し、千藤先輩と榊原先輩は帰っていった。


「美怜、お前は…」

「あなたが目を覚ます前に、私はお父さんに大体の話を聞いた。魔術師のこと、異能のこと、今私が置かれている現状。私は慶次があいつを殺した現場に居合わせていた。この件からはどうやっても関わりを断てないらしい」


その目には、どことなく悲しさが写っている。そして別の感情も。


「私は逃げない。私の怒りは収まってない。あっちから来るのならむしろ好都合よ!全部返り討ちにするだけ!!」


その決意を灯す美怜は頼もしくも思えたが、なぜだか少しだけ危なく思えた。








「なぁ、幻水さん。本当に魔術師を皆殺しにする必要があるのか?」

「逆に聞くけど、しない必要あるの?」


幻水の足元には、何人もの人間が赤く染まって倒れている。


「僕らのように魔術師にも家族がある。子を持っている人もいるだろう。父や母を失った子供たちは復讐心に煮えたぎり、数年後にまた戦争は起こるだろうね」


「だったら話し合いの和解をするべきじゃないのか!?梨紗の異能を使えばそれも難しい話じゃないだろ!!」


榊原梨紗の異能『赤鎖の密室(ルール・オブ・チェイン)』なら戦闘を起こさずに和解まで持ち込むこともできなくはない。


「確かに和解することはできるかもしれない。だけどね、魔術師やその家族、全員に効果を発動させるためには全員を密室に入れなければならないよね?」


効果を適用できるのは自分のいる密室内に存在する者のみ。それが赤鎖の密室の効果の発動条件。


「それをあっちは素直に了承してくれるかな?するわけがないでしょ!そこで皆殺しにされることも考えたらリスクが大きすぎるし、魔術師が総力をあげて攻め込めば勝てると思ってるからね。わざわざリスクを犯して得られるのが憎き異能者共の命だよ?ハイリスクローリターンどころかノーリターンだろうね」


「でも、戦死者を減らせるというメリットがある。奴は王だ、民を第一に考えるなら…」

「奴は王だが暴君だ。自分が王として君臨するなら犠牲なんて厭わないさ」

「それでも、全員殺すなんてやり過ぎだ!!」

「戦争を二度と起こさない方法があるならば、相手を一人残らず殺すことだ。争う相手さえいなければそもそも戦争なんて起きないんだよ」


それ以上、何も言うことはできなかった。

何を言っても無駄とわかっていた。


「戦刃、お前は味方でいてくれよ?」


幻水は刀を鞘に納める。


「幻水さんも、俺を味方でいさせてくださいよ…?」

「君も言うようになったね〜」


さっきまでの突き刺さるようなオーラは消え、いつも通りの彼に戻る。


「俺は元々こういう人間ですよ…」

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