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04夏の雪

「いや、私も人に聞いた話さ。海にも地上と同じように、たくさんの生き物がいる。地上で死んだ者たちはいずれ土に還るけれど、海で死んだ者たちはどうなると思う?」

「……海の底に、沈む?」

 リラは小さい頭を回転させて答えを導き出す。その言葉にボランスはこくりと頷いた。

「ああそうだよ、海の底に沈むんだ。死骸は海に沈むまでに色々な生物に食べられたり分解されたりして、粉々になってしまうんだ。それがこの街に積もっているんだ」

 リラは妙に納得してしまった。夏の雪が海で死んだ者たちの欠片だと言うならば、この雪が死体のにおいがするのも頷ける。夏は物が腐りやすい。だから夏以外の季節では感じられないにおいが、妙に鼻につくのではないのかと思ったのだ。

「さあてそろそろ終わりだ。ほらくるっとターンをして」

 ボランスが片方の手をリラから放した。リラはボランスに触れているもう片方の手を軸にして一回転をする。

「今度の収穫祭では転ばなそうだね」

「絶対に転びません。収穫祭までにボランスさんが驚くぐらい上手に踊れるように兄さんと練習するので、一緒に踊ってください」

「私が忘れていなければね」

「約束ですよ」

 リラは意地の張った表情で小指を差し出す。ボランスもその意味が分かったのか、何も言わずに小指を絡めた。

 ごーん、と時計台の鐘が鳴る。大きな文字盤を見れば、針は十二時を指していた。リラははっとした表情でいけない、と呟く。

「母さんからお昼までには戻って来いと言われているのでそろそろ戻ります。ではボランスさん、また!」

「ああ、またねリラ。気を付けて、転ばないように帰るんだよ」

 リラはスカートの端をちょっと摘まんでお辞儀をした。

 ボランスは緩く手を振って見送る。リラは転びませんよ、と駆けながら付け加えるように言ったがボランスに手を振るのに集中していたせいか、転びそうになっていた。この少女は少々お転婆がすぎるのだ。

 いつの間にか雪は止み、夏の日差しが照り付ける。雪、といっても溶けてしまうものではなく存外にさらさらとしているので風に流されてすぐにどこかに行ってしまう。しかし雪が満遍なく散らかった道は滑りやすく、段差が見えないため転びやすい。こればかりはリラも好ましくないと思っている。

 リラの家は街の中心から少し外れた場所にある。しかしお店はたくさん軒を連ねているし、近所の人たちも皆人柄が良い人ばかりだ。リラが駆けること数分、こじんまりとしたリラの家が見えてきた。長年の風雨によって少し崩れてきた土壁と赤い屋根が印象的な家だ。軒先には鉢が置いてあって、小さな黄色の花をその中で咲かせていた。

 ただいま戻りましたと木製のドアを開ければ、リラの母親が血相を変えた顔で彼女を出迎えた。リラはどうしたのだろう、と母に尋ねようとしたがそれをする必要は無かった。口をわなわなと震わせて、絞り切ったような声でこう言った。手習い所の先生が、亡くなったんですって、と。



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