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03海の底でワルツを

「ところでリラは、どうしてこんな場所で雪を見るんだい? 別にここじゃなくてもいいだろうに」

「高い所で見たいんです。空に手が届きそうな感じがするでしょう? それに空の割れ目が見れるかもしれないから」

 空の割れ目、それはこの国に伝わる創世記に出てくるものだ。遠い昔、世界に水をもたらしたと言う偉大な魔法使いスヴァロンがこの街で魔法の練習をしていたが、まだまだ未熟であった彼は空に大穴を開けてしまう。急いで杖で縫い合わせたは良いものの、彼は不器用だったので綺麗に縫い合わせることが出来なかった。だからたまに縫った場所から、内部のものが零れ落ちてしまうのだと言う。そういった何とも間抜けな逸話ではあるが、リラは気に入っていた。

「リラは子供のようなことを言うんだね。そんなお話をまだ信じているのかい?」

 階段を下りきり、時計台から外に出る。外は未だ雪が降っており、止む気配は感じられない。二人がまっさらな地面を踏みしめると、大きな足跡と小さな足跡が道を作っていく。

「私は子供だから、白馬に乗った王子様に憧れたり、王子様と一緒に踊ってみたいと思ったりもするわ」

 リラがむすっとした顔でボランスを見上げると、彼は快活そうに笑った。歯をカタカタと鳴らしてご機嫌なようだ。

「おや、君はダンスが苦手じゃないか。昨年の収穫祭では転んで泣いたと聞いたのだけれど」

「それは昔の話! 今は兄さんと練習をしているからもう少しうまく踊れます!」

「……それでは私と一曲いかがですか、お姫さま。いつか王子様が現れたときにダンスが苦手では格好がつかないでしょうから」

 彼はすっと骨の手を差し出して、シルクハットを胸の前にしてお辞儀をする。リラがその手を握り返すと、彼はにこりと微笑んだようだった。シルクハットを再び頭にのせて、その手をリラの腰に当てる。いちにさん、と彼がワルツの拍で数え始めるとリラの体がぎこちなくなる。練習をしているなどと大口を叩いた割にはまだまだ踊ることが苦手らしい。ボランスはそんなリラが微笑ましく見えるのだろう。「ほら、もう少し肩の力を抜いて」「足が前後する時はあべこべに、左右の時は一緒に動くんだ」と言ったようにちょっかいを出す。最初はおどおどとしていたリラも徐々に慣れ始めたのだろう。ボランスの指示を聞いてある程度滑らかに動けるようになると、彼はワルツの曲を口ずさみ始めた。それは収穫祭の時に街の音楽隊がよく奏でてくれる曲で、リラにも耳馴染みがある。

 時計台のもと雪がちらちらと降る中で、優雅にワルツを踊る少女と紳士。少女の服装は使い古しのいつものスカートにエプロン、紳士はブロンドの王子様では無く骸骨姿だが二人にはそのようなことは些事であった。

 曲が終わりに差し掛かった頃だ。ボランスはふと思い出したように口を開いた。リラもだいぶワルツに慣れてきた頃だったので、彼が口ずさまなくなったことで足の動きが止まることは無い。二人は曲も拍も数える声も無い中で器用に踊り続けている。

「ああそうだ。リラ、君は空の割れ目を見てみたいと言っていたけれど、その空の割れ目がどこに繋がっているのか知っているかい?」

「いいえ」

「少し考えてみて」

 はて、とリラは頭を悩ませた。リラは手習い所に通っているおかげで、女としては珍しく文字を読むことが出来るし簡単な計算ならばすぐに出来た。特にリラは本を読むのが好きなので、手習い所の先生に本をよく借りる。リラが手に取る本は物語や国記、創世記で先生のもとにあるそれらの系統の本は粗方読みつくしたリラであったが、ボランスが尋ねることを答えることが出来なかった。なぜなら今まで読んだ本の中にその答えは載っていなかったからだ。

「おや、これはリラには分からないことみたいだね。それじゃあ正解を教えよう。この街の空はね、海の底と繋がっているんだ」

「海の底……?」

「そうさ、海の底だよ。海の底では雪が降るんだそうだ。だからこの街は海の底の底にあるってことだね」

「それは本当なんですか、ボランスさん?」

 リラは目をまんまるにさせた。大きな瞳が零れ落ちそうだ。ボランスは陽気そうに笑う。


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