〈探偵部〉―彫刻刀の在り処―
長らく投稿をお休みしていました。最近はなんだかんだと忙しくなってしまい中々時間がとれずにいたのですが、また頑張って投稿していこうと思います。よろしくお願いします!
――一週間前、わたしが部長を務める美術部の部室からある物がなくなってしまいました。一週間ずっと探しているのですがまったく見つからず、部員のみんなも困り果てています。どうか力を貸して下さい。
「……と言うのが今回の依頼のようだな」
「へぇ……部室から紛失したある物を探してほしい。我々に頼むなんて中々風変わりな人達っすね」
「それほど追い詰められているってことだろ。一体何をなくしたんだろう?」
「刃物系じゃないっすか? 彫刻刀とか」
彼女は咥えたあめ玉の先についている棒をぴこぴこと動かしながら、てきとーな調子でそう言った。
「……ま、そんなとこだろうな。ところで城島」
「ん? 何すか?」
「へそが見えてるぞ」
「嬉しいくせに」
パイプ椅子の背もたれにもたれかかって背中を逸らしているせいでへそちらしている。俺としては別にどうだっていいのだがこいつも一応女だ。その辺のことに気を使うべきだと指摘してやると、返って来たは先のような答えだった。
「別に嬉しかねぇよ。第一、おまえがそんなんだからこっちはもう見慣れたっつの」
「でしたねぇ……ま、んなことはどうだっていいんでさっそく行きましょう」
「はぁ……行くってどこに?」
「察しが悪いっすね。その手紙の差出人に会うんすよ」
「会ってどうすんだ?」
「もち話を聞く。それ以外に何があるってんですか?」
そんなあなたばかですか? とでも問いたげな顔すんなよ。
傷つくだろ。
「しかしこれ、差出人の名前なんて書いてないぞ?」
「いやいや、猿でもわかるくらい簡単なことじゃないですか」
城島は今度は明らかに俺をばかにして、とことこと部室を出て行った。
俺は悔しがるでも怒るでもなく、はぁと溜息を吐く。
こんなことは日常茶飯事だ。今さらどうこう言うことでもない。
「おい、まてよ」
俺は城島のあとに続いて、部室を出たのだった。
◆
「ここが美術部か」
「そうみたいっすね」
俺と城島は美術部の前に来ていた。目下の目的としては差出人であるところの美術部部長を発見次第拘束、連行するためだ。
「灯りは点いてるし話声もする。これは案外簡単に部長に会えるかもな」
「そうでなくては困ります。では行きますよ」
言うと同時、城島は部室の入り口の扉を勢いよく開け放つ。
「すみませーん、ちょっと失礼しまーす」
「……だ、誰ですかあなたたち?」
さっきまで話し込んでいたはずの美術部員らしき三人が俺たちを振り返る。一様にその目は、訝しげに細められていた。
どうもあまり歓迎されていないらしい。まあそうだろうな。
「部長さんはどなたですかー?」
「……部長は今日は来てませんけど」
部員の一人、がっしりした体格の男子生徒が代表して答えた。
「来ていない? 部長なのに?」
「ええ、まあ」
その男子生徒は歯切れ悪く、答えも要領を得ない。
「おそらく責任を感じて顔を出しずらいのだと思います」
「責任? 一体何のでしょう?」
わかっているくせに、意地の悪い奴だ。
俺は心の中で城島を罵倒し、その男子生徒の次の言葉を待つ。
「……いえ、内輪のことですから」
「あらら、それじゃあ困るんですよねー」
城島はぴこぴことあめ玉の棒を上下に動かしながら、困った様子もなく言い放った。
「部長さんがいないとなるとちょーっと暗礁に乗り上げちゃった感じですか」
「あの……一体何のお話ですか?」
俺達と男子生徒が言い合っている渦中に割って入る人物がいた。
「いえ、私たちはちょっと部長さんに用事がありまして」
「それはすぐに片づけないといけない用事なんでしょうか?」
「んー……まあそんな急を要する要件ではないし、困るのは私達ではないのでどうでもいいことなんですけど」
「……それはどういう意味です?」
こっちの女子生徒はこの男子よりほよど度胸があるらしい。受け答えもはっきりしていて、正直彼女の方が印象はだいぶよかったりする。
「いえね、私達部長さんに頼まれて探し物をしに来たんですよ」
「探し物? とは何でしょう?」
僅かにではあるが、男子くんの肩がびくっと揺れたのを俺は見逃さなかった。
その男子くんだけではない。美術室にいる全員の顔色が微かにではあるが、変化している。
それもいい方にではなく、悪い方に。
「それは美術部に関する物でしょうか?」
「まあそっすね。備品をなくしたと言っていましたし」
「で、ではそれはわたし達の問題ですね。自分達で探しますから大丈夫ですよ」
目一杯の笑顔を浮かべる女子生徒。だが、彼女の瞳は笑っていなかった。
むしろ、焦りに似た様が窺える。
「……そうですか。ま、私達としてはどうだっていいことですので」
「す、すいません。わざわざ来てもらったのに」
「いえいえ、自分達の不始末を自分達で片づけようというのは感心な心構えですよ。では退散する前に一つ」
「何です?」
「部長さんの居場所に心あたりは?」
「えーと……たぶん教室にいるんじゃないですか?」
「そうですか。ありがとうございます」
言って、城島は扉を閉めた。
「よかったのか?」
「何がっすか?」
「手を引いてよかったって聞いてんだ」
「誰が手を引くなんて言いました?」
城島は俺を睨みつけるように見上げ、そう言い切った。
「……ま、それでこそだよな」
「です。さあ部長さんを探しに行きましょう」
「って言っても心あたりどころかとっかかりすらないんだが」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。とっかかりならあります」
「マジで? どんな?」
「あの投書の最初の文言を思い出して下さい」
えーと、確か美術部の部長をしています?
「そう。そして先ほどの美術部員達。特に女子の方はリボンの色から一年生であると判断出来ます。彼らは私が部長の知り合いだと知り敬語を使って来ました」
「おまえのリボンの色から判断したんだろ、普通に考えて」
「何だっていいんです。要はとっかかりさえ掴まえれればいいんですから」
まあ確かに現状、手がかりと呼べるものはないに等しい。
ここは当てずっぽうでも可能性のある選択支に縋るしかないだろう。
「そんな訳なんで、さっそく三年生の教室まで行きましょう」
城島は俺を置いて、さっさと階段を上って行こうとする。
俺は慌てて彼女のあとを追い、階段をかけ上がって行く。
その最中で俺は心の中に漠然とした不安を抱いていた。
うまく行くのだろうか、と。
◆
「美術部の部長さんはいらっしゃいますかー?」
三年一組の教室の扉を開けるなり、城島は教室中に響き渡る声でそう尋ねた。
時は放課後。しかし三年生は今年受験を控えている。居残って勉強している者も少なくない。
そんな折、能天気な下級生二人が突如として尋ねて来たなら、一体どう思うだろう。
ま、歓迎はされないな。
「美術部……冴川さんなら今の時間は図書室じゃないかな?」
すごーく鬱陶しそうにそう教えてくれたのは、俺達から見て一番手前に座る女子の先輩だった。口調こそ穏やかを意識しているが、彼女の瞳は追い詰められた獣そのものだ。
俺は思わず気押されてごくりと唾液を飲み下す。
お、俺も二年後はこうなってしまうのだろうか?
「そうですか、ありがとうございましたー」
言って、城島はけろりとした様子でぺこりと頭を下げる。俺も城島に習い、会釈した。
舌打ちさえ聞こえてきそうな状況に、俺は心臓が嫌な方向に高鳴るのを感じていた。
ああもう、どうしてこう砂江島さんとやらに会えないんだ!
扉を閉め、教室から少し離れた場所で。
「ずいぶんと鬼気迫る空間でしたね」
「ああ……俺は嫌な汗が止まらなかったよ」
「それにしてもこれほどで会えないとは。このまま図書室へ行っても何だかまた別の場所へ行かされるような気がしてきました」
「俺もだ。何だってんだろうな」
磁石のS極とS極が反発しあってる訳じゃないんだ。次で会えなきゃ城島のことだ。「今日はもう解散にして明日にしましょう」とでも言い出しそうだ。別に構わないけど。
「で、どうする? 明日にするか?」
「いえ、今日中に部長さんを見つけましょう」
「へえ……ずいぶんと熱心じゃないか、今回は」
「人聞きの悪い言い方ですね。私は常に仕事には全力で取り組む女ですよ?」
城島は不満だとでも言いたそうに口もとを膨らませている。
もちろん、城島がてきとーな奴だなんて俺も思っちゃいない。しかし物事には目には見えない流れと言うものが存在する。よくも悪くも。
このまま図書室へ行って冴川さんなる人物を発見できるかどうか。
「ま、他にアテもないので図書室へ行きましょう」
「……わかったよ、部長」
俺は城島のあとに続いて、図書室を目指して歩を踏み出した。
と、階段の踊り場前で見知らぬ女生徒とぶつかりそうになり、寸でのところでうまくかわした。城島が。
ちなみに俺はまだ階段を半分ほど下りた場所にいる。
「どうしました? そんなに慌てて」
「あの、えと……」
えらく挙動不審なその女生徒の態度に、俺はもちろん城島も訝しげに眉を寄せた。
女生徒が俺と城島を交互に見やる。正確には、胸のとこについているタグの色や城島の来ている女子制服のリボンの色なんかを見ているのだろう。
俺達は揃って青。二年生である証だ。
「わ、私を探している下級生がいるって」
「んん? とするとあなたが美術部部長の冴川さん?」
「は、はい……えーと、あなた達は探……」
「おっとそれ以上はここでは禁句ですよ、冴川先輩」
城島がしーっと口もとに人差し指を当てて彼女の発言を遮る。
冴川さんはバッと口を噤み、こくこくと頷いた。
「さて、目的の人も見つかったので行きましょう」
「ああ、そうだな」
「あの……行くってどこへ?」
副部長である俺には、部長である城島の考えていることが何となくわかった。
しかし部外者である冴川先輩にはまったくもって不明瞭な会話に他ならなかっただろう。
城島は何の気なしに、あっさりと答える。
「――我々の部室にです」
◆
我が校にはいくつかの七不思議が存在する。
なぜこんな周りくどい言い方になってしまったのかといえば、七不思議と呼ばれてはいるが実際のところは七つでは収まり切らないからだ。
校舎裏の悪魔、中庭の精霊、アニメ研究会から響いてくる不気味な笑い声――等々。
その内の一つが〈探偵部〉の存在である。
一言で言ってしまえば非公式に人道的支援をするいわゆるボランティア部のようなものだと実しやかにささやかれている。まあ当たらずとも遠からずと言ってところだ。
そして先も述べたように〈探偵部〉は非公式な部活動である。つまるところ正確に言うなら認可されていないので部活動ではないのだが、この際どうでもいいことだ。
重要なのは認可されていない非公式部であるにも関わらず、どうして部室を持っているのかと言うことなのだが……まあおいおい。
ともかく、俺達〈探偵部〉の二人と美術部の部長、冴川さんは我が部室にて顔を突き合わせていた。
「ま、ともかく座って下さい」
「え、ええ……ありがとう」
二つあるパイプ椅子の内の一つを冴川さんに差し出し、着席を促す城島。自身も腰を下ろし、腕を組んで足を組むという大仰な態度をとっている。
そんな城島とは正反対にゆっくりと上品に腰を下す冴川さん。気に入らないとばかりに城島の眉がぴくりと動いたが、見なかったことにした。
「さて、それでは依頼内容の再確認です」
「あ、あの……ちょっとその前に質問いい?」
「どうぞ、手短にお願いします」
「私達、どうやってここまで来たの? というかここどこ?」
「さて何も質問がないようなのでさっそく依頼内のよう再々確認を」
「待ってどうして私の質問に答えてくれないの?」
「面倒臭い人ですね」
「ええぇ……そんなに言われるようなこと?」
「んなもん、考えたら人生デッドエンドですよ?」
移動中に舐め終わったらしいあめ玉のついていたであろう棒を口から抜いてポイと城島は捨て、新しいあめ玉を取り出した。
俺はその棒をポケットティッシュでくるんでから拾い上げ、ゴミ箱へと捨てるのだった。
城島ははぁぁっとため息をついて、あめ玉の包みを解いてから口に放り込む。包みの方は床に投げ捨てられたのでまたも俺が拾うハメになった。
「えーとですね、ここは〈探偵部〉の部室であり、あなたは我々の依頼者です。いいですね?」
「わー、実在したんだね〈探偵部〉。てっきり噂だけなのかと」
「……だったらなぜ我々に依頼を?」
「藁をも縋る思いっていうのかな? とにかく誰かに頼りたくて。それで〈ようかいポスト〉に手紙を入れてみたの」
「〈ようかいポスト〉?」
「知らない?」
「聞いたことありません」
「えー」
「何ですかその『えー』って」
いがーい、とでも言うように口もとに手を添えてあからさまに驚く素振りを見せる冴川さん。
何だろう……すごく年上な感じがしない人だ。
「中庭にある赤いポストだよ」
「ああ……あれですか」
一体何のことを言われていたのか、ようやく合点がいったらしい。城島は呆れたように息を吐いた。
「あのポスト、そんな呼ばれ方をしていたんですか」
「うん、そしてそのポストに手紙を入れると、なんととら柄のちゃんちゃんこを着た……」
「それ以上は止めて下さい。それより話を戻しましょう」
「あっと……うん、そうだね」
冴川さんはまだ語り足りないという様子で不満そうだったが、これ以上は依頼の本筋とはまったく関係のない事柄だ。……というかその話を広げていくと収集がつかなくなりそうで恐いのだろう。俺と同じで。
「……一週間くらい前のことなんだけどね」
そう切り出して彼女が始めたのは、ことの発端とも言える出来事。
一週間前、美術部は普段通り活動していた。その日は冴川さんも参加していて、いつものように部員の一人をモデルとした人物画を書いていた。人物画のモデルはローテーション制で、その日は一年生の高文孝太郎なる人物がモデルを務めていたという。
高文という名前が出たところで、俺は一旦先輩の話を遮り質問した。
「その高文というのは誰です?」
「君達も会ったんじゃないかな? 結構がっしりとした体格の男子だよ? 何かいきなり二年生が二人探しに来たって言ってたから」
「あの一年生ですか」
俺達が美術部の部室に行った際に応対に出た男子だ。そうか、高文孝太郎というのか。
努めて覚えておく気はなかった。まあ何となく頭の片隅に残ってればいいだろう。
「それで、その高文君なんだけど」
「いえ、そこまで話さなくいいです。先を続けて下さい」
「むぅー、これがいい話なんだけどなぁ」
ぷくーっと冴川さんが頬を膨らませる。ジトッとした粘り気のある視線を城島へ向ける。
ほんと、年上感がまったくないな、この人は。
「事件の本筋とは関係がないことのようですから」
城島は先輩のそんな態度や視線に動じることなく、淡々と続きを促す。
「んもう、わかったよ。せっかちなんだから」
それから、冴川さんは部室にいた人数や配置を話した。
その中にこれといって手がかりになりそうな情報はなかった。
「ふう……これで全部だよ」
「ありがとうございます。ではこちらからいくつか質問したいと思います」
「ん、なぁに?」
「まず一つめ、部室の間取りと備品の数、それから配置を教えて下さい」
「ええー……そんなの一々覚えてないんだけど」
んんー、と考え込むように天井を見上げる冴川さん。
ゆっくりと口を開き、言葉を紡ぐ。
「間取りは……他の教室と同じ。ただ物が多いから狭く感じるかな。備品は……たぶん二〇〇くらいはあったと思う。全部後ろの棚に直してるよ?」
「では次、なくなった物とは何でしょう?」
そうだ、それを俺達はまだ知らない。
なくなった物を聞かなくては始まらないというのに。失態だ。
「……彫刻刀が一本」
「なるほど」
城島は何かを納得したようにふうと吐息した。
その目が猛禽のように鋭く細められる。
「では次、彫刻刀はよく使われますか?」
「んーん、うちの美術部は絵が中心だから。彫り物は全然だよ」
「わかりました。では次、最後に彫刻刀を見たのはいつですか?」
「一ヶ月くらい前かな。痛いんだり、なくなったりしていないか月に一度は確かめてるから」
「とすると一週間前はちょうど棚卸日だったと?」
「ん、そんな大層なものじゃないけどね」
「では次、なくなったのに気づいたのはいつです? 具体的な日時を教えて下さい」
「一週間前の放課後だよ。時間は……たぶん七時を過ぎていたと思う」
「では最後に。お話の中に顧問の先生のことが一切出てきませんでしたが、滅多に顔を出さないのでしょうか?」
「鋭いね。その通りだよ。顧問の先生……松井先生っていうんだけど、月に一度顔を出したらいい方なんだ」
「それは……顧問と呼んでいいものでしょうか?」
「まあいてもいなくても変わりはないんだけど」
「なら、いない方がいいですね」
「まあね……あ、でも」
「どうしました?」
冴川さんは何かを思い出したかのようにポンと手を打った。
「一週間前は松井先生、部室に顔見せに来たよ」
「それは何時頃のことです?」
「あとはやっとくからって言われて、私が先に帰ったからたぶん七時半くらいまでいたんじゃないかな?」
「……そうですか。ありがとうございました」
「え? もうお終い」
「ええ、聞きたいことは大体聞いたので今日のところはお引き取りしてもらって構いません。また後日来ていただくことになるかもしれませんが」
「えと……わかった。じゃあまたね」
「はい、また」
冴川さんは城島……とついでに俺に手を振って部室を出て行った。
彼女の姿がなくなるのを待ってから、城島は疲れたようにふーっと大きく息を吐き、椅子の思いきり体を仰け反らせる。
「はぁぁぁ、疲れた」
「ご苦労さん。で、何かわかったか?」
「はあ? まだこれからっしょ」
「ま、だよな」
「まあ怪しいと思う人物なら一人、いましたけど」
「ああ、俺もだ」
たぶん、俺と城島の考えていることは同じだ。
城島は口の中であめ玉を弄びながら、こう言った。
「ま、猿でもわかる簡単な問題っしょ!」
◆
「ここで我々が考えた仮説を一つ披露しましょう」
美術室の一角で一年生二人、二年生一人、三年生一人の計四人の美術部員を眼前に並べて城島はぴこぴことあめ玉の棒を上下させる。
一年生は女子二人、二年生は男子一人、三年生は部長である冴川さん一人という構図だ。
「仮説? 何なんだ一体」
「まあ黙って聞いて下さい」
「つーか何でおまえらがここにいるんだよ? 部外者だろ」
「我々はあなた達の部長さんから頼まれてこうしているんです。感謝こそすれそんな風に怨み言を言われる筋合いはないです」
「ぐっ……部長」
「ちょっ、そのことは内緒だって」
「聞いてませんよ、んなこと」
まあとにかく、と二人固まって怯えている一年生二人を蚊帳の外にして話は進められる。
おまえも何か言ってやれよという視線を高文くんより頂戴したが、無視した。
城島は早くも脱線しかけた話題を修正するようにこほんと咳払いをしてその仮説とやらを離し始める。
「実は私達はあなた方の犯した失態について八割五分把握しています」
「……何だっておまえらが知ってるんだ?」
「言ったでしょう、部長さんに聞いたと」
「部長!」
「お願いだから余計なことは言わないで」
冴川さんが懇願するように城島を拝んでいる。何だかすごく不憫な気持ちになってきた。
が、ことの一部始終を語るのに冴川さんが言うところの『余計なこと』に触れない訳にはいかない。
城島は二人のやりとりを軽く無視して仮定の話を続ける。
「まず状況を整理しましょう。彫刻刀がなくなったのに気づいたのが一週間前の放課後。部長さんが在庫のチェックをしている最中にそのことに気づき、美術部員総出で本日に至るまでこの部屋の隅々まで、それこそ教室ごとひっくり返す勢いで探していた」
なくなった物が刃物なだけに、それだけ必死になるのだろう。これが鉛筆や紙、キャンバスならまだそんなに必死にならなかったのかもしれない。
「その時の話を部長さんから聞きました。部長さんは前日、夜の七時までかかって棚卸をしていたそうです。ですね?」
「ええ、そう」
「すると珍しくこの美術部の顧問である早乙女杉乃教諭がやってきた。早乙女教諭は棚卸を終えた部長さんに向かって『あとはやっておくから帰りなさい』的なことを言ったそうです。そして部長さんは帰宅し、翌日に彫刻刀が一本消えているのに気がついた、と」
そして方々を探し回った結果見つからす、俺達に助けを求めたという訳だ。
「それがどうした? まさか犯人は早乙女先生とでも言うつもりか?」
「そいつが一番妥当なところでしょう。この話を聞く限り、彼女以外に彫刻刀を盗むチャンスがあったとは思えません」
「くそ、あいつ何考えてんだ……前々からテキトーな奴だとは思っていたが」
「おっと勘違いしないで下さい、まだ私の話は終ってませんよ?」
握り拳を作って悔しがる高文くんを制し、城島はピンと一本人差し指を立てた。
「ここで私は疑問に思いました。早乙女教諭が彫刻刀を盗み出すそのメリットとは何だろうと」
「そんもんわかる訳ねぇだろ」
「ええ、わかりませんでした。ですので私はこう結論します。『そんなものはない』ってね」
「ちょ、ちょっと待て城島……俺、混乱してきちまったんだが」
俺は城島の話の腰を折ってしまった。探偵助手としてこれほどのタブーはそうそうないだろう。
当然、城島も不満そうにジトッとした目線を俺に寄越していたが如何せん、我慢が利かなかったんだ、仕方ないだろう。
「犯人は早乙女先生じゃないのか?」
「……です。犯行が可能だったからといって必ず実行するとは限りませんから」
「そ、そりゃそうだが」
「ではみなさんに質問です」
今度は視線を、俺から美術部員――特に一年生二人と高文くんへと向ける。
「あなた達は何時にこの部屋へやって来て、何時に帰りましたか?」
「何だそりゃ? 俺らを疑ってんのか?」
同じ美術部の後輩が疑われて面白くないのだろう、高文くんは少々苛立ったような表情でそう問うてくる。
だが、そんなことで我が部長・城島が怯むはずもなく。
城島はあっけからんとした調子で続ける。
「いえ、その日一日……とは言っても放課後ですか。のことが知りたいだけです。部長さん男話はどうも偏ってますから」
「くっ……そうかよ」
どうやら恫喝は無意味と悟ったらしい。高文くんは大人しくその日のことを話し始めた。
「一週間前、一番最初に部室を訪れたのは俺だ」
「へぇ……一体何のために?」
「何のって……そりゃあ部活をするために決まってるだろ」
「いえ、私が聞きたいのは何の目的があって一番乗りをしたのかということです」
「目的なんかねぇよ。たまたまだ、たまたま」
「ふーん……たまたま、ねぇ」
「何が言いたいんだ?」
「いえ何も。ではそれは何時頃です?」
「……四時二十分過ぎくらい」
「じゃあ次です。そこの一年生二人。あなた達は何時頃、この教室を訪れましたか?」
「わたし達は……四時半くらいです。わたし達が来た時には既に高文先輩がいました」
「ふむ……では最後に部長さん」
「私は六時半頃だったかな。一応受験生だし、勉強の合間の息抜きくらいのつもりだったから」
「そして七時までの三十分の間、高文くんをモデルとした人物画を描いていた、と」
「そう。そして三人は帰って、私は残って備品の確認を」
「そうしていたら顧問である早乙女教諭が現れ、あとはやっとくからと部長さんに帰宅を促した、と。そういうことですね」
「うん、そういうことだね」
冴川さんがこくりと頷いた。
城島はニッと口の端をつり上げ、不気味に笑う。
「よーくわかりました。では告げましょう。この事件の犯人を」
「は、犯人……!」
一年生二人がびくっと肩を震わせる。
城島は彼女達の方を向いて、わざと脅かすような口調で話し始めた。
「そうです。これは盗難事件です。誰かが彫刻刀を盗み、何かを成そうとしている。そして彫刻刀とは刃物です。使い方を謝れば人間一人容易く葬れるのです」
「ひっ……!」
「止めろ城島、恐がってるだろ」
「……冗談ですよ」
「おまえの冗談は冗談に聞こえないから恐いんだ」
「ふー……やれやれです」
城島が肩を竦め、首を振る。何だろう、困った奴だなあみたいな反応。すごく腹が立つ。
「で、実際どうなんだ? 早くしてくれ」
「ああ、はいはい。では始めましょう」
……ったく、何だったんだ今の茶番は。
「とまあ脅してはみたものの、特段殺人に使われたりはしないでしょう」
「……その根拠なんだ? おまえらも言っていたが彫刻刀は刃物、使い方次第で本当に……」
「その前に私の話を聞いて下さい」
さてお立会い。城島は話題を切り替えるように咳払いを一つして、半円状に椅子に座る美術部員全員を見下した。
「さて、みなさんのそれぞれの話を聞いて、私は確信しました」
「確信? 何をだ? 今の話の中にヒントになるようなものはあったか?」
「ええ、ありましたとも」
城島は人差し指を立て、にやりと笑んだ。その際、口の中で転がしていたであろうあめ玉が微かに音を立てる。
「時系列を整理すると、まず高文くんがこの美術室へとやって来た。次にそこの一年生序女子が。次いで部長さん。最後に顧問の早乙女先生が閉締まりをしてこの部屋は無人と化した。ですね?」
「ああ、その通りだ」
城島に問われ、俺は頷いた。
「では犯行が可能なのは誰か。消去法で言うと一番初めに来た人か最後に返った人。このどちらかになりますよね?」
「……だな」
他の三人はそれぞれ人の目がある。犯行自体は行えるだろうが、最初と最後の人と比べて格段に難易度は増すだろう。
そうなると一年生女子は除外、冴川さんも省いていい。
残るは高文くんと早乙女教諭ということになるのだが。
「しかし、私は早乙女教諭の説はなしだと思っています」
「……なぜだ?」
そう疑問を呈したのは高文くんだ。彼の表情は見るからに不機嫌そうで、おそらくはこのあとの続きが予想出来ているのだろうと思われる。
「動機がないからです。彫刻刀を盗むことによって何らメリットがない。むしろデメリットさえ生じさせる恐れがあるからです」
「んなもんは俺だって同じだ。彫刻刀なんざ盗んだところで得るものはない」
「言い方が悪かったですね。盗んだんじゃなく無断で借りただけでしょう」
あの人の肩が僅かに揺れたのを、俺は見逃さなかった。
「例えば……そこの像みたいなのを造るため、とか?」
そう言って城島が指差したのは、美術室の後ろの棚に並べられている石像? だった。
「あんな感じで木彫りの像を造るつもりだった。そう考えれば」
「いやいやいやいや、待て待て待て!」
高文くんは呆れたように大きく吐息した。
どこか疲れたようでもある。
「仮に俺があんな感じの像を造るつもりだったとして、あれは彫刻刀一本じゃ造れねぇって」
「いえ、別に石で造らなくともいいではないですか」
「はあ?」
「例えば木像とか」
またしてもびくっとあの人の全身が揺れる。
本人的にはすごく我慢しているつもりなのだろう。実際、城島の話に聞き入っている他の部員はみな、その人の変化に気づいていない。
「ま、証拠がある訳でもないのでこれ以上の追及は止めておきましょう。空気を悪くするだけです」
「状況証拠なら揃ってますみたいな言い方は止めろ」
城島と高文くんが睨み合う。
その険悪なムードのまま、本日の会合はお開きとなった。
◆
宵闇に包まれ始める午後七時。俺と城島は帰路にはつかず、美術室の前にいた。
「……何を始めるつもりだ、城島?」
「なーに、ちょっとしたサプライズですよ」
声を殺し、ニッと城島は笑んだ。どうも悪い予感しかしない。
「では行きましょう」
ガラッ! と勢いよく美術室の扉が開けられる。
素早く明かりを点け、その人物を白実の下に晒す。
その人は突然明るくなった室内に面喰ったのか、それとも単に眩しさにやられただけなのか。どちらにせよ、それまでの作業を一時中断して動きを止めた。
「やっぱあなたが犯人だったんですね。――冴川部長」
「……どうしてわかったの?」
明るさに目が慣れてきたのか、冴川さんは細めていた目を大きく開け、驚きを表現する。
「最初から怪しいと思ってました、なんてことはいいません。が、途中から怪しいとは思っていましたよ」
「……どうして?」
「最初に違和感を感じたのはあなたが最初に早乙女教諭がこの部屋にやって来た時刻を話した時です。あなたは早乙女教諭以外の部員さんには一切触れませんでした。そこがまず一点」
城島は更に指をもう一本立てる。
「みんなで集まって私の推理を聞いてもらった時もあなたは挙動不審でした。もしもあなたが犯人であるなら、少しカマをかけてみようかと思いまして」
「なるほど……それで高文くんを挑発するようなことを」
「あの時点ではまだ彼の疑いの方が濃厚でした。しかし、この男からあなたの不審態度を聞かされて確信しました。部長、あなたが犯人だと」
「……で、でも動機は? 私は受験生、もし仮に見つかればデメリットさえ生じさせかねない」
「動機は……あれです」
言って、城島が指差したのは、数時間前に他の部員の前で指差したのと同じ石膏像だった(wiki調べ)。
「あなたは男性の裸がすごーく好きだった。次第に自分で造ってみたくなり、手始めに木彫りの男性の裸体を作ろうと思った。しかしそのために道具を買う気になれなくてちょっと借りるつもりで取ったんじゃないんですか?」
「……裸婦像ならぬ裸夫像ってこと……面白いね」
「ま、そんなところです。ただ一つ、わからないことがあります」
「……何?」
「どうしてあなたは私達に依頼を? 完成した暁にこっそり返せば済む話しでは?」
「……早乙女先生」
「はい?」
城島が怪訝そうな顔を作る。そりゃあそうだろう。今までまったく関係のないと思われていた早乙女教諭の名前がここで登場したのだから。
「あの人も私と同じだった」
「男性の裸が好き、ということですか?」
「そう。そしてもう一ランク上を行く」
「もう一ランク?」
怪訝そう……というか最早嫌悪感すら露わにしている様子だ。
たぶん城島には、冴川さんの言わんとしていることに当たりがついているのだろう。
かく言う俺も、何となくではあるがわかっている。
「あの人は――」
「ストップッ! それ以上は結構です!」
バッと手の平を彼女へ向け、城島は続きを遮った。
聞きたくないと思ったのか、聞く必要がないと判断したのか。どちらにせよ、今回の騒動とは関わりのないことだ。
「私が知りたいのは早乙女教諭の性癖についてではなく、どうしてあの人の名前がこの場でてくるのかについてです」
「えっ……?」
「へっ……?」
冴川さんが意外そうな顔をして、それに更に城島が意外そうな顔を作るという妙な絵面が完成していた。
「あなた……わかってたんじゃないの?」
「……どういう意味でしょう?」
「いや、どういう意味も何も自分で言ったんじゃない」
「えーと、すみません心あたりがありませんが」
「……『デメリットさえ生じさせる恐れがあるから、早乙女教諭が彫刻刀を盗むはずがない』って」
「ええ、言いましたがそれが?」
「だから、自分が担当する部活の生徒が備品を盗んだなんて知られたらデメリットになる。でしょう?」
「……あっ」
「『あっ』っておまえ……」
「黙れ! ……それは確かにそうですね。考えられることです。しかそそれが一体どうしたというのですか?」
「彫刻刀を持ち出しているところを早乙女先生に見られちゃったの」
……ああ、これですべて得心がいった。
要するに冴川さんは木彫りの裸夫像を作ろうと思い至って美術室から彫刻刀を一本拝借。その様子を早乙女教諭に見つかったが、彼女もまた冴川さんと同じ人種だったためお互いの気持ちがよくわかった。しかしそのまま見逃したのでは後々面倒なことなると判断し、紛失したと騒いだ。後に学校の七不思議の一つである我が〈探偵部〉を利用し、周囲の目を逸らした。あとは騒ぎに乗じて彫刻刀を元に戻せば終了、という運びだったらしい。
「……なるほど、私達も容易く見られたものだ」
「ごめんなさい、利用するような形になっちゃって」
「まあ別にいいんですけどね。〈探偵部〉はご利用頂くためにあるんですから。ただ」
「ただ?」
「別に騒がずにいたら誰も気づかなかったんじゃないですか?」
「あっ……」
冴川さんはそいつは盲点だった、みたいな顔をしていた。
ああもう、どいつもこいつも。
「そ、そうね……よくよく考えてみれば彫刻刀なんて半年に一度使くらいだものね。一ヶ月なくなったところで誰も気づかなかったのかも」
「一ヶ月も拝借していたんですか」
「ええ……嘘を言っていたわ」
なるほど、と城島は納得したように数度頷いている。
いや、俺は全然訳がわからないんだけど。
「おおっと、事態が上手く呑みこめていないようですね。そんなあなたのために説明してあげましょう」
城島はピッと人差し指を立てると、得意そうに説明を始めた。頼んでもいないのに。
「まず、一週間前の部活での出来事。これは他の部員さんは本当のことを言っていたと思います。嘘をつく理由がありませんから。そして冴川さんが部活に顔を出したというのも本当のことでしょう。これは他の部員さんの証言が証明しています」
ほう、となると問題がその後か。
「冴川さんがついた嘘はそのあと。早乙女教諭とのやりとりです。やりとり、というより彼女と会話を交わした日時ですね。本当は一ヶ月前のことをさも一週間前の出来事のように語ってみせた訳です。見事でした」
あれは素晴らしい演技と言わざるを得ないだろう。それで俺達はすっかり騙されてしまったのだから。
「異常が私の推理です。いかがです?」
今度は俺ではなく、冴川さんの方を向き、問いかける。
冴川さんは観念したように小さく縁で、拍手を送ってくれた。
「お見事。さすがは〈探偵部〉ね」
「いえいえ、それほどでも」
「一つお願いがあるんだけど、いい?」
「何でしょう? 私に出来る範囲のことでしたら」
逡巡するように冴川さんは黙り込んだ。口にしていいものかどうか考えているようだ。
数秒間、そうした静かな時間があった。冴川さんは意を決したように顔を上げ、まっすぐに俺達を見据える。
「このことは黙っていて欲しい、誰にも言わないでいてほしいの!」
「言いませんよ、別に」
あっさりと即答する城島。
冴川さんの驚いたような表情が印象的だった。俺もびっくりだ。
「ほ、ほんと……?」
「はい」
放心した様子の彼女を目の前に、城島はうなずく。
何だかひどく気まずい雰囲気になった。
◆
〈探偵部〉部室にて。
俺は後ろでに扉を閉め、先に入った城島の背中に問いかける。
「どうして黙ってるなんて言ったんだ?」
「それはどういう意味ですか?」
城島はドスンとパイプ椅子に腰かけると、足と手を組み、俺を見下すようにふんぞり返った。
「どうして冴川さんを見逃すと言ったんだと聞いている。常識に照らしあわせて考えるなら、彼女のしたことは窃盗だ。警察とまではいかなくとも先生にお説教されてもおかしくないことだぞ?」
「あなたはばかですねぇ」
「は? なんだいきなり」
城島は人差し指を立て、くるくると回し始めた。
「思い出して下さい、我々の目的は犯人探しではなかったはずですよ?」
「……そりゃそうだが」
「それに、この件で彼女を教師陣につきだしたところで我々には何の利益もない。むしろ面倒事に巻き込まれてしまうのがオチです」
「つまり、そういう面倒が嫌で冴川さんを見逃したと?」
「当然でしょう」
そんな『何をあたり前のことを』みたいな顔されても。
「もういい。じゃあなんでおまえは最初、高文くんを疑うようなことを言った?」
「わかりませんか?」
「わからないな。彼女を誘い出すため、とか?」
「いえ、違います」
あっけからんと城島は言ってのける。
俺は何だか頭痛がしてきて、目頭を押さえた。
「だったら何だってんだ」
「私、最初は普通にあの人が犯人だと思ってたんですよ。だってみなさんの話を聞く限り、限りなく彼が黒じゃないですか」
「ん、まあな」
「でもそれじゃあ不自然だと思ったんです」
「はあ? ……いや、そんなことはないと思うが」
「思い出して下さい、みなさんの話を」
「う、うーん」
つい数十分前の記憶を探る。
と、一つの可能性に辿り着く。
「もしかして都合が良過ぎるってことか? 偶々一週間前、偶々冴川さんが部室に顔を出した時に限って偶々早乙女教諭がやって来たことが」
「ま、そんなとこです」
「んなアホなことで」
「ですがそれで真実にたどり着けました。もともと彼女は彫刻刀を返却するつもりのようでしたけど」
「だったらなんで俺達に依頼を? そこが一番わからん」
「ただの推測ですけど、早乙女教諭の指示だったのではと」
「早乙女教諭の? 一体何のために」
それこそわからない。教諭が〈探偵部〉を利用しようとした、その動機が。
「一つだけ、理由が思いつきました」
「な、何だ?」
「我々を利用したその理由。それはおそらく、騒ぎを大きくして他の部員の意識を逸らし、その隙にこっそり返すという意図があったのではないでしょうか」
「……なるほどな。そいつは……まあとりあえず納得しとく」
納得、というより呑み込むと言った方がいいな、この場合。
「ま、私の言った通り下手に騒ぎを大きくしない方が返却しやすかったんですけどね」
その辺は早乙女教諭の判断ミスだな。
何はともあれ、一つ依頼が片づいてよかった。めでたしめでたしだ。
「そうだ、冴川さんから報酬……じゃないけどお礼としてお菓子もらったんだ。喰うか?」
「頂きます」
こうして〈探偵部〉の放課後は過ぎていく。
本日も、何事もなくてよかった。本当に。
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