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最大の剣 オオシロ

二人は、とうとう最大の剣を引っ提げて『月』のもとまでたどり着いた。上空に、遥か上空に、『月』が見えている。その下には、『月下都市』が広がっている。二人は、『月』の下、『月下都市』との間に浮いていた。

「これは、これは、白様のサービスってやつですか?マイシロで浮かせてくれるとはサービスがいいですね。最後に少しだけ見直しましたよ。さあさあさあさあ、やってしまいましょう。壊してしまいましょう。標的はすぐそこです。剣士さん。その怒りで、その復讐心で剣を振り抜いてください!やってしまってください。」

ラクラクは叫ぶ。剣士は、口にくわえた途方もなく大きな剣を持ち上げる。ゆっくりと剣に力が伝わり、剣は持ち上がる。剣士はそれをゆっくりと、『月』に向けて振り下ろした。

「私たちは長く、苦しい旅のもと、『月』までたどり着きました。これは、私たちの決死の一撃です。馬鹿で、おろかで、醜い人間の全てをかけて、全てを込めた一撃なんです。だから、だから、だから、やられろ。壊れろ!壊れてしまえ!」

ラクラクは、喋ることをやめない。

振りおろされた怒りの一撃が、『月』と激突する。


ガッシャーン!


壊れたのは、剣の方だった。

『月』は、びくともせず宙に浮いている。

微動だにしていない。


「なんで?どうして?なぜですか?なんで、こんな?」

ラクラクは、同様のあまり初めて、生まれて初めて言葉を失った。

「それはね。それはね。剣士さんが『月』の破壊を望んでなかったからだよ。残念だったね。ラクラクさん。君は愛した人の一番強い気持ちを理解していなかったんだ。ワタシはわかっていたけどね。人間の機微がわからないと言われたワタシはわかって、それを言った君はわからなかった。これは、最高の意趣返しだと思わないかい?」

呆然としているラクラクの頭に、白の言葉が聞こえてきた。

辺りを見渡すが、白はいない。というよりも、何も見えない。

気づけば、真っ白な空間のなかただ一人浮かんでいた。

ラクラクは、喋らない。

「剣士はワタシに言ったんだ。

大きな剣がいい。切れ味よりも、固さよりも、軽さよりも、重さよりも、なによりもまず大きな剣がほしい。

そう言ったんだ。わかるかい?彼は『月』を壊せる剣ではなくて、『月』を殴れればそれでよかったんだ。だから、ワタシは作ったよ。切れ味もなく、脆く、中途半端に軽く、中途半端に重い、大きいだけの剣をつくってあげた。彼の要望通りにね。そんな馬鹿みたいな剣をワタシに作らせた理由なんてワタシにはわからない。わからないけどね。ワタシにはこの結末はわかっていたよ。『月』は壊せない。剣士はそれを望んでいない。君には、わからなかったみたいだけどね。愉快だ。愉快だ。実に愉快だ。楽しい。楽しいよ。ざまあ見ろ!失望したかい?愛する人に裏切られたかい?どうなんだい?教えてくれよ。君の気持ちを、『月』を壊すために全てをささげたのに、相方の方は、それを最初から望んでいなかったって終わったあとに知らされた君の気持ちを、君の今の感想を、ワタシに聞かせてくれよ。語ってくれよ。ワタシはもう喋らないからさ。黙って聞いているからさ。最後になにを語るのか聞かしてくれよ。ラクラクさん。」

「失望する?するわけないでしょ。

はぁ、意趣返しですか?

というより、そんな会話を私は聞いていないし、剣士さんは喋れないんですから、そんな話わかるはずがないでしょう。

けれど、色々納得しました。わかりました。

剣士さんのことがより、好きになりました。ありがとうございます。このまま、なにも知らずに死ななくて良かったです。剣士さんを誤解したまま消えてなくならなくて良かったです。

あぁ、剣士さん。あなたは、なんて愚かなんでしょう。あなたは なんて、いとおしいんでしょう。私を、『月』を、世界を巻き込んで、こんなこと。こんなことが目的だったなんて。私はスッカリ勘違いをしていました。まぁ、勘違いはだれにでもありますよね。仕方ないですよ。

さてさてさてさて、ラクラクさんが、少しだけ、白様のために解説してあげますよ。喋ってあげますよ。わからないなら、教えてあげますよ。剣士さんのことを。でもね。あくまで、私は剣士さんに喋ります。なぜなら、私は白様と喋りたくないのです。私はとことん白様のことが大嫌いですから。さてさてさてさて、剣士さん。あなたは『月』が憎かった。『月蝕』により全てを奪われて、何よりも『月』が憎かった。許せないと思った。けれども、けれども、あなたは同時に知っていた。『月』は、壊してはいけない必要悪であると知っていた。『月』を壊せば、人は生きてはいけない。だから、壊すことは出来ない。自分の復讐に世界を巻き込めない。そう思っていたんですね。優しい、優しい剣士さんらしい甘い考えです。けれども、許せなかった。壊してはいけないとわかっていても、どうしても、このままただではすませられない。せめて、一発殴らなければ気がすまない。それはきっと理屈ではなかったのでしょう。大切なものを根こそぎ奪われて、それでもただ仕方ないと割りきることはできなかった。激情が抑えられなかった。だから、あなたは、一撃を。壊せなくてもいい。むしろ、壊せない方がいい。壊さないですむ、怒りを込めた一撃を『月』にいれたいと思った。たとえ、それが全てをかけた一撃でも、全てを失った自分にはそれで良かった。そうなんですね。そういうことなんですね。あなたは、『月』を壊したかったんじゃない。あなたは、一発『月』にたいしてふざけるなと怒りたかった。ただ、それだけだった。そうなんですね。

あぁ、剣士さん。あなたは、なんて破滅的で、愚かで、馬鹿で、いとおしいでしょう。結果的に、世界の全てを巻き込んでの憂さ晴らしになりましたね。最高ですよ。大好きです。あぁ、私はここで死ぬのでしょう。あなたの思いを勘違いして、勝手に巻き込まれて死ぬのでしょう。別にいいです。別にいいのです。だって、私はもうあなたなしでは生きられないから。あなたの望みが、全てをかけた一撃が無事に『月』に届いたのですから、後悔なんてありません。あなたも、きっと満足していることでしょう。満足して死んでいったのでしょう。私もすぐに逝くのでしょう。本当に、あなたを好きになって良かったです。私はあなたが好きです。大好きです。あなたが好きです。あなたがいとおしくて、愛らしく、愛くるしくてたまりません。もうじき、私は全てを奪われて喋れなくなるのでしょう。白様に私の気持ちも、心も、言葉も、意思も、思想も、恋も、愛も、命も、魂も全てをとられて死ぬのでしょう。それまでは、ずっとあなたへの気持ちを喋っていたい。喋っておきたい。もうそれ以外喋りたくない。それ以外思い付かない。あなたとの旅は凄く楽しかったです。あなたの目が好きでした。あなたの体が好き でした。あなたのしぐさが好きでした。あなたの生きざまが好きでした。あなたの強さが好きでした。あなたの優しさが好きでした。あなたの思想が好きでした。あなたの匂いが好きでした。あなたの愚かさが好きでした。あなたの拙さが好きでした。あなたの短絡的思考が好きでした。あなたの稚拙さが好きでした。あなたの復讐心が好きでした。あなたの存在が好きでした。あなたのことが好きでした。あなたが、とっても好きでした。好きです。好きです。大好きです。恋しています。愛しています。ときめいています。好きです。好きです。大好きです。大好きなんです。」


そのまま、ラクラクは、静かに消えていった。



「ふふふふ。はははは。

面白い。面白いよ。人間は!最高のおもちゃだ。最高だ。

ワタシは知りたい。もっと知りたい。人間の感情を。人間の気持ちを。だから、集めよう。奪って集めよう。人の心を。ワタシは悪魔の刀匠 白。さぁ、人間よ。どんな剣がおのぞみだ?

ワタシは作るよ。そして、貰うよ。その対価として、代償として君たちの大切なものをもらっていくよ。さて、君は、君たちは、どんな剣が必要か?その代償として支払うものはなんぞや?」

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