イロシロ
剣の代わりに復讐心を携えた片腕の剣士と、何時如何なる時でも喋り続ける何でも屋の旅は、終わりに近づいていた。
「しかし、この約1ヶ月は、平和なものだったね。敵が全然やって来なかったよ。なんでだろう?それはね。私が解説してあげるよ。どうせ、そのうち誰かが聞いてもいないのに解説を始めるんだから、私が解説してしまってもいいよね。間違ってるかもしれない解説だから、聞き流してくれてもいいよ。って、聞き流すもなにも剣士さんには、なんにも聞こえないんだけどね。聞こえたとしても理解もできないんだけどね。理解できたとしてもそれが、正しいか考える力もないんだけどね。それでも、私は喋るよ。この楽しい旅も終りに近づいているからね。後悔しないように、今のうちに喋り尽くしておくことにするよ。
さてさてさてさて、解説しなきゃね。
『月』は、きっとこう考えることにしたんだよ。あの変人 白様が素直に目的を果たさせるはずがないと。どうせ何処かで私たちを裏切って、全てを奪って、目的や意思を踏みにじって高笑いを決め込むに決まっている。この苦しい旅を無駄なものにして、手を叩いて喜ぶに違いないって、そんなふうに思っているんだよ。だから、貴重な人材を私たちの元に送り込んで潰される必要はない。放って置いていれば、そのうち自滅するって考えているんだよ。きっと、そうだよ、そうに違いないね。だから、急に敵が来なくなった。私たちは、襲われなくなったんだ。」
「『月』としては、心外だろ。最後の策を自滅頼りの人任せ作戦って言われるとはよー。そいつは違うぜ!なぜなら、俺がここに来た。それが、全ての答えだぜ。」
「あらあらあらあらこんにちは。こんばんわ。お久し振りですね。ところで、あなた誰ですか?あなたなんて、知りませんよ。俺が来たとか言っちゃって、知られてないとは笑かしますね。笑いがでますよ。真っ白な剣なんて携えて、カッコつけといて気持ち悪いですよ。で、あなたは誰ですか?聞いてあげますよ。このラクラクさんがあなたの話を。仕方なく我慢して聞いてあげますよ。なぜかって?そんなの決まっているじゃないですか。この状況を突破するために情報がほしいからですよ。当然です。だって、私たちには、目的がありますから。私たちは、目的を達成させなければならないのです。わかりますか?わかりませんか。そんな些細でどうでもいいことは、置いといてさっさとあなたの情報を話してくださいよ。いくら用意周到なラクラクさんでも未知の相手に対して用意周到ではいられません。私たちには、情報が必要なんですよ、それを今下さい!」
「知らなくても無理はない。俺の名前はタイヘイ。あの伝説の鍛冶士 白が作った剣 イロシロを使う。最近ようやくこのイロシロを手に入れて一躍有名になった男だ。このイロシロで『月下都市』で暴れに、暴れて暴れまわってやった。何人も、何人も殺してやったよ。そんなわけで最近『月』は、俺のことで大忙し。何しろカルマもヨリシロもおまえたちにやられてしまったから仕方ないのか、俺が強すぎたのか。ずいぶんと俺をとらえるのに時間を食っちまったってわけだ。そのせいで、おまえらまで手が回らなかったのだろうな。まぁ、結果的に俺はたまたま『月下都市』を訪れた聖剣 サンシロ使いに負けて、捕まっちまったんだけどな。ちなみにサンシロは、しっかり破壊したから心配するな。もうお前らのもとには来ないぜ。
んで、捕まってさすがに死刑を覚悟していたんだが、ところがどっこいお前たちを殺せば俺の罪は許してくれるっていうんだ。だから、俺が来た。お前らを殺しに俺がやって来たんだよ。」
「なるほど、なるほど。それはすごいですね、タイヘイさん。そんな大罪人を許すなんて、それほどに『月』は追い詰められているのでしょうか。まぁ、そんなことはどうでもいいですね。さてさてさてさて、話を続けてください。私の喋りはほどほどにしておきます。あなたの剣の能力はなんですか?その剣を手に入れるために支払った代償はなんですか?」
「あっ?能力か?この剣は、なんでも一刀両断に斬ってしまう。この剣は斬る必要がない。当てるだけでそこの部分がパカッと斬れるそんな剣だ。この剣は全てのものを壊して、真っ白にする剣だから、イロシロなんだとよ。それから、この剣を手に入れるための代償は、理性と自制心だ。わかるだろ?相手の有利になる情報をペラペラと、喋っちまう。不利だってわかってるのによー。しゃべっちまうんだよ。自制心が聞かないのさ。でも、殺すときも躊躇なくやれるんだぜ。なにしろ理性がないんだからな。おかしいだろ。ハッハッハッハッハッハ」
「ながーーーーいです。もう限界を何度も越えました。越えてしまいました。あなた喋りすぎですよ。タイヘイさん。私をさしおいて喋りすぎです。とっても、とっても疲れました。けど、私は耐えましたよ。すべて必要な情報を聞き出してしまいましたよ。ありがとうございます。ホントに自制心のないかたですね。笑えますよ。笑っちゃいますよ。
しかし、ここまで、人の話を私が聞けるとは自分でも驚きです。昔は、もっと人の話を聞けなかったんですが、この剣士さんのためだって言い聞かせたらなんとか耐える事が出来ました。愛の力って、やつでしょうか。やっぱり愛の力って偉大ですね。最強ですよ。って、あれ?急に固まって、どうしたんですか?なんか言ってもいいですよ。聞かないですけど、私は喋り続けますけど、好き勝手に動いてくれていいですよ。
って、またあなたですか?あなた以外が良かったですよ。」
いつの間にか空中に刀匠 白ふわふわと浮んでいた。
口元にはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。
「全く、どうしてラクラクさん、君はそうもワタシを拒むのだ?
ワタシも少し寂しくなるよ。でも残念ながら、今回はワタシは君と会話をする気はないんだ。君は、しばらく喋れないよ。このトメシロで、君と剣士さんとイロシロ使い君の動きを停めてしまったからね。これは、この間、君にさんざん喋り尽くされた反省から持ってきた剣だ。対象に向かって刃を向ければ、その対象は3分間動きが止まるって剣だ。凄いだろ?凄い剣だろ?すごすぎる剣だろ?やっぱりワタシは、天才だ。天才なんだよ。秀才で、天才で、逸材だ。もちろん、もちろん再び動き出させるのも自由自在さ。さて、ラクラクさんが動き出す前に用事を終わらせて、置かないといけないね。また、喋り尽くされてしゃべれなくなったら、大変だ。何しろ、何しろ、この剣の能力は同じ相手には二度使えないからね。一度のチャンスを無駄にはできないんだよ。無駄にしてはいけないんだよ。人生と同じにね。っと、無駄に時間をくってしまったね。
ワタシが来た理由は、何時ものように二つある。
一つ目は、報告だよ。
ついに、とうとう、満を持して、剣が完成したよ。
その名も最大の剣 オオシロ。世界一大きな剣だ。
いつでも、取りにおいで、って言っても、ここからもうワタシの家まであと一キロくらいだね。すぐ来れそうで安心したよ。
二つ目は、取り立てだ。
今日も、今日とて、剣士さんからワタシは取り立てる。
さて、何を貰おうか。何を頂こうか。
と、あまりゆっくり悩んでいる暇なんてないね。
まずは、全身の皮膚を2割ほど頂こう。うわーいたそうだ。次に、肋骨を二本、復讐心、怒り、憎しみとそれからラクラクさんに対する感情、それ以外の全ての思いを、気持ちを、感情を頂こう。二人の愛を、二人の気持ちを、二人の感情を、二人の関係を、完全に引き裂くのはもう少しあとにしようと思うんだ。その方が面白そうだ。それから、左足の太ももの部分を半径5cmくらい円形状にくり貫いてもらっていくよ。これは、これは、さっきの皮膚より痛そうだ。それでは、それではさようならと言いたいところだけど、少し見物させて貰うとするよ。その傷でイロシロ使い君に勝てるか。とっても見物だ。楽しみだ。さぁ、トメシロを解除するので続けてくれよ。始めてくれよ。戦いをみせてくれよ。」
「まったく、まったく白様は酷い人ですね。この状態で、戦えというのですか。それにしても、剣士さんはどんどん失っていきますね。どんどん空っぽになっていきますね。素敵ですよ。最高です。目的のためにドンドン自分の身を切りとられ、ぼろ雑巾のようになっていくそのさまはとてもかっこいいです。大好きですよ。
さてさてさてさて、白様のことは置いておきましょう。まずは、あなたですよタイヘイさん。私が大好きな剣士さんは、あなたのような三下には負けません。残念ながら、あなたは簡単に殺されてしまいます。あきらめてやられちゃってください。」
「面白いことをいう。俺が、簡単に殺されるだと。そのぼろぼろの男に負けることなどありえない。やってやるよ。殺してやるよ。今すぐずたずたにして、高笑いして、喰ってやる。よく喋るおまえも含めて、おいしく頂いてやるよ。」
「まったく、まったく、あなたの方こそよく喋る方ですね。もしかして私よりも喋っているんじゃないですか。最低です。卑怯ですよ。私が喋ります。もうあなたは、しゃべらなくてもいいですよ。私は聞きませんし、剣士さんはきこえませんので意味はありません。ということで、私がひたすら喋ります。さてさてさてさて、あなたは、死にます。この剣士さんの傷ついた左足を斬りとることもできずに殺されます。無様に負けてしまいます。断言しましょう。あなたは、この剣士さんの左足を傷つけることすらできません。そのくらいあなたと剣士さんでは、核が違うのです。わかりますか、タイヘイさん。別に答えなくてもいいですよ。あなたが、答えようが、答えまいが結果は変わりませんので。」
「ふざけるなよ。誰が、負けるか。そんな満身創痍なやつに俺は負けない。」
「負けますよ。何度も言いますが、あなたは左足を斬ることさえ、できません。かけてもいいですよ。なんだったら、あなたが左足を斬ることができれば、あなたの勝ちでもいいですよ。ほらほらほらほら、剣士さんの左足はここですよ。斬れますか。あなたにこれが、斬れますか。まぁ、無理でしょう。」
「俺を侮ったことを後悔させてやるよ。」
そういって、イロシロ使いタイヘイは、剣士に向かって走り出した。
「さぁ、剣士さんやってしまってください。」
ラクラクは剣士の背中を頭を使ってポンとたたいた。
剣士はその瞬間、声にならぬ声で叫び、タイヘイに向け一直線にかけていく。
「もちろん、剣士さんの狙いは、タイヘイさんの急所です。本能で、その首に噛み付き、噛み切りますよ。一方タイヘイさんの狙いは残念ながら、急所ではありません。剣士さんの左足です。左足を斬ったところで致命傷にはなりませんので、この勝負は当然。」
「わかっているよ。俺が挑発に乗っていることなど簡単にわかっている。だが、効かないのだ。いや、ないのだ。理性が。自制心が。だから、煽りに、あおられて俺はこの剣士の左足を狙ってしまっている。自分が、今から首を食いちぎられそうになっているのに。にくい、にくいぞ。剣士の左足が、尋常でないほどにくい。そして、ラクラクおまえの言葉が、憎くて、憎くてたまらない。これが、この欠陥が自分を殺すのだな。」
「そうですよ。さようならです、タイヘイさん。あなたも良く喋らなければ、良い男だったので残念です。」
音にならない叫び声をあげながら、走る剣士と走りながら、ラクラクと会話するタイヘイがぶつかるその瞬間。タイヘイは、剣士の左足にイロシロを当てる。その瞬間、スパッと剣士の左足が、宙に飛ぶ。剣士はそれを全く意に介さず残った右足で、一気にタイヘイとの間合いを詰め、タイヘイの首元に噛み付き、そして噛み切った。
「さてさてさてさて、さすが剣士さん狂気に満ちてますね。とうとうとうとう右手と左足を失って、剣技も言葉も、感情もうしなって、人間らしいところ全て切り捨てて、それでも勝利した。そのさきは?『月』を破壊する?人類を滅ぼす行為だってことは百も承知のはずですが、『月』を破壊するのですね。まったく、まったくなんとおろかで、愛らしい。さてさてさてさて、行きましょうか。いつのまにか、白様もどっかに行ってしまっていますが、どうでもいいですね。またすぐに会うことになるでしょう。もう後は、白様のところに行き、オオシロとやらを受け取って、『月』を壊してハッピーエンドってわけですよ。さて、剣士さん、どうやって歩こうか。
あなたにはもう左手と右足しか残っていないんだね。歩けないね。でもね。安心して。私が助けてあげるよ。私が手を貸してあげるよ。今までのようにね。って言っても、手は無いんですけどね。」
ラクラクはそういって、剣士のそばにより、剣士に左手で自分の肩をつかませ、歩き出した。
「さてさてさてさて、ようやく旅のクライマックスです。さようなら。タイヘイさんあなたがべらべら自分の情報を喋ってくれなかったら、きっと私たちは負けていましたよ。ありがとうございました。って言ってももうあなたは死んでいて、感謝の気持ちなんて聞こえてないんですけどね。でも、感謝の気持ちってのはそういうのではないですよね。たとえ、相手に聞こえて無くても、伝わってなくても言わなければならない。感謝の気持ちとはそういうものですね。だからってわけではないですが、私は喋りますよ。敬意を持って喋ります。なぜなら、私は喋るのが大好きだから。
そもそも、剣士さんが私の言うことを聞いているのか不思議ですか。そのあたりだけ教えて差し上げます。科学って言葉を知らないあなたには理解できないかもしれないですが、一言で言うならば、条件付けですよ。以上です。説明とかしませんよ。だって、意味ないでしょ。あなたは、すでに死んでしまっているのですから。そもそも、戦いにおいて理性を失ってはだめでしょ。自制心をなくしたらおわりでしょう。全く、あなたは破滅的で面白い方でしたね。少しおしゃべりすぎたのが、玉に瑕でしたがそれも自制心を失ってしまっていたからなのでしょう。だとすると、仕方ないですね。って、そうこう喋っているうちに、あなたの死体が見えなくなってしまいましたよ。でも、喋りますよ。今は、あなたにむかって喋っているのですよ。タイヘイさん。聞いてますか。聞こえてますか。そんなことはどうでもいいんです。なぜなら、私は喋ることが大好きだから。あっそういえば、この勝負はあなたの勝ちですよ、タイヘイさん。」