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完結記念小話①「結局は二人とも」

 本編完結記念として拍手に掲載していた小話です。とくに加筆・修正はしていません。

 内容としては、本編の後日談というか、第二部への予告編みたいなもので、第一部から第二部までのソニアとクロードを早回しみたいな感じで書いています。子どもじゃないソニアには興味ないという方は読まない方がいいかもしれません。

 ちなみに、第二部のプロットを考える前に書いたものなので……実際に第二部が始まったら齟齬があるかも。もしそうなっても温かい目で見てやってください。


《 補足 》

 最終話後のお話です。ソニアは八歳、クロードは二十歳。

 王都の邸に引っ越した後、初等部入学式直前の朝の風景になります。


 ※ちなみに、この世界の暦は現代とほぼ一緒です。春の月=四月だと思ってください。

 森の家とは比べものにならないほど大きい家――いや、邸宅に引っ越してきてからひと月ほどが経った。

 貴族の邸とまでは言わないもののだだっ広い邸内には使用人も何もいないため、日々の家事をこなすのはクロードだ。ソニアも率先して“お手伝い”をしているが、助けになっているかと言えば……それは言わぬが花だろう。


 その日、クロードの邸はいつになくバタバタしていた。

 春の月の七日――今日は王立魔法学校初等部の入学式の日である。




 さっきからソニアは落ち着きなく鞄から物を出しては仕舞い、また違う物を出しては仕舞いといったことを繰り返している。

 忘れ物の確認というにしてはおかしいそれにクロードは苦笑しつつ、ソニアの分の飲み物をテーブルに置いた。これでも飲んでちょっとは落ち着けということだろう。

 テーブルに用意されたホットココアに、ソニアはやっと鞄から離れる。クロードだと実用性重視でろくな物を買わないだろうとマルセルから贈られた通学用の鞄は、最近の王都の流行りのものらしい。まだ真新しい鞄は女の子らしく可愛らしいデザインで、もらって以来ソニアのお気に入りだ。


 自分の席に腰掛けながらもちらちらと鞄を気にする様子のソニアを見ながら、クロードはふと思った。昨日まで枕元に鞄を置いて寝ていたソニアだったが、入学してからもそうするのだろうか。

 それだけ楽しみだったのだろうし、心待ちにする様は微笑ましいが、大の男の部屋に――しかも、寝台の上に、子ども用の可愛らしい鞄が置かれている現状は何とも言い難い。朝目覚めたときにそれが目に入るのも、正直に言って朝から寛容さでも試されているような気になる。“止めろ”と言ってしまえばそれまでだろうが、ソニアに甘いクロードがそんなことを言うわけもなく、ここ最近のクロードの目覚めは太々しい顔をしたピンクのカメと共にあった。他に知られていないのが救いだが、時間の問題のような気がして怖い。


 クロードもソニアもすでに朝食は終えている。

 朝食も食べ終えて入学式へ行く準備を整えている……というより、その準備すらももうとっくに終わっていて、出発までの時間を持て余しているといった方が正しい。

 二人とも時間には正確な方なので、出掛ける直前に慌てることなどほとんどない。前から決まっていた予定ならなおさらだ。


 マグカップに口をつけるソニアを横目に、クロードも自身のカップを口元に運んだ。

 口に広がったほどよい苦みが彼好みで、なんとなくホッとする。が、それではソニアだけでなく自分まで緊張しているみたいだと内心首を振った。初めて学校に入学するソニアはともかく、数多くの修羅場をくぐり抜けてきた元冒険者が入学式への参列ごときで緊張など笑えもしない。


 時計を見てそろそろ頃合いかとクロードが腰を上げると、ソニアもそれにならい、カップの残りを一気に飲み干してから立ち上がった。

 忘れ物はないかと尋ねると、ソニアは硬い顔をしながら頷く。


「あっ……ハンカチ、入れてなかったかも」

「さっき入れてたぞ」

「あ、そっか。よかった。ありがとう、おおかみさん」


 ホッと胸を撫で下ろしつつもまだ不安そうなソニアの頭をクロードは髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でてやった。せっかくの晴れの日なのだ。少しでも緊張を解いて、純粋に楽しませてやりたい。

 髪が乱れたことに不満そうにしつつも、手櫛で髪を直したソニアは先程までの硬い顔が嘘のように嬉しそうに笑った。――と、そこで、何かに気づいたかのように視線が固定される。


「…………」

「どうした?」

「おおかみさん……それも持って行くの?」


 そう尋ねるソニアの視線はクロードの右手に注がれていた。それにつられるように、クロードも自分の手元に目をやる。

 クロードの左手には荷物が、右手には――コーヒーカップが握られていた。


「………………」

「………………」


 物を忘れることこそなかったものの、クロードは飲み終えたコーヒーカップを手に持ったまま外に出ようとしていたようだ。自分で思っているより余裕がなかったらしい。

 仕事では欠点などない元Sランクの冒険者にして現王国騎士も、私生活ではこんなものだ。





 三月にお引越し。四月にソニアの入学式。

 騎士団に務めながらクロード一人で家のことを回すのはさすがにきつい……ということで、五~六月頃に使用人の雇用。邸の使用人たちについては他の小話で。


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