chapter5,病の少年
chapter5,病の少年
太陽が燦々と輝く昼下がり。
異世界オルトクレイグランドにある王都・セラスアトラスのレンガが敷き詰められた道を様々な姿をした人々が行きかう。
その人々の間を急ぎ足で縫うようにしてルインは歩んでゆき、通りの少し先の角に立つ一軒の少し大きなレンガ造りの家に入っていった。
ルインの後ろをはぐれないようについて来たシンは、その家の入り口に看板があることを見つけ、看板にベッドの絵が描かれているのと見たことの無い文字で何やら書いてあることを確認した。
(何このミミズ文字?この絵は…ベッドだよね?)
看板のその絵と文字を交互に見ながら、 そういえば、ルインが家は冒険者の為の宿屋を経営していると言っていたなと思い出したシンは、ミミズ文字はきっと宿屋的な事が記されているのだろうと思った。
そんなことをぼーっと思っているシンの元に、入り口をバタリッと勢いよく開けたルインが声をかける。
「シンさん!早く中に入ってくださいよ!…おかーさーん!!ちょっとこっちに来てーー!」
ルインはシンの手を引き、家の中に引き入れながら、家の奥に聞こえるような声量で母を呼び出す。
引き入れられた家の中は、入り口の前に受け付けのカウンターが設置されており、カウンターの後ろの壁には扉が設置されている。そして、カウンターのすぐ左脇には階段が設置され、二階へと続いているようだ。
カウンターの右手の方には広い場所があり、そこには木でできたテーブルが二台、それぞれのテーブルに椅子が5脚ずつ設置されている。
そのテーブルの奥はオープンキッチンのようで、どうやらこの場所が食事を行う場所であることが窺える。
壁には至る所に燭台が設置されており、暗くなればロウソクに火を灯して明かりをとっているようだ。
今の時間帯は燦々と輝く太陽が窓辺から光を差し込ませているため、ロウソクに火は灯っていない。
(一階は受け付けと食事処か…。ってことは、二階に部屋があるのかな?)
シンがそんな事を考えていたその時、目の前のカウンターの後ろにある扉がガチャリと開いた。
そして、その奥から赤茶の髪を団子状に束ね、いかにも宿屋の女将といった風貌の妙齢の女性が出てきた。
女性は少し疲れたような顔つきでいたが、シンの姿を見るとハッとした様子を見せ、その顔から疲れを見せないように笑顔を浮かばせた。
「いらっしゃいませ!ようこそ、冒険者の宿屋“スズメ亭”へ!私はこの宿の女将をしております、ミナ=レナウトと申します。女将でも、ミナでも、お好きにお呼びくださいませ!…ご宿泊のお客様でしょうか?ルイン、ダメじゃない、お客様の前で大きな声出しちゃ!何時も言い聞かせているでしょ!」
女性はこの宿の女将であった。
ルインの母でもある彼女は、ルインが客の隣で大きな声を出したと思ったのか、ルインを窘める。
「お母さん、そんな事言ってる場合じゃないよ!実はこの人はシンさんっていって………」
そんな母を遮るように、ルインは先ほどの事を話し出す。
(今、スズメって言ったよね?…この世界、確かオルトクレイグランドだったっけ…?ゲームの時と違って普通の動物もいるんだ。)
…といった事を考えていたシンは、ルインが母に自分の事について説明し出したのを横目に見て、母娘の会話の邪魔にならないようにそっと場所をテーブルのある食事処の場所に移し、壁に飾ってある絵や調度品などを観賞しだした。
そして、二台設置されているテーブルの上の一つにちょこんと乗っているスズメのぬいぐるみを見つけ、それを手にとった。
(可愛い…けど、これを見てるとなんかお腹減ってくるなぁ…。そういえば、ゲームをしてた時にもう3時間は過ぎていたしなぁ。体内時計的には昼の1時は過ぎてるのか…。……ログアウトしようかな。…!!そうだっ!もしかしたら、ログアウトできるんじゃ!?)
スズメぬいぐるみをジッと見つめていると、その大きさから段々おにぎりに見えてきたシンは、ゲームをしていた時はお腹が減ればログアウトしていたことを思い出し、ステータスウィンドウを開いてログアウト欄を探す。
しかし、ステータスウィンドウ上に表示されているのは、自身のステータス表示欄とアイテム欄、所持金の表示欄のみで、本来その所持金表示欄の下に表示されていたはずのログアウト欄についてだけ、跡形もなく消失していたのだった
(やっぱり、ログアウトは無理…か。)
自分のステータスがPCからNPCになっていた事、先ほどの傷を負った時の痛みを感じた事、さらに見たことも聞いたこともない事のオンパレード、ログアウト不可能な事など、これはもう完全に自分の理解を超えたことが起きているのだと改めて感じたシンは、頬をパチンと叩き気合を入れると、まずは自分が今、どんな所にいるのかという事や、その他の情報を探しに行こうと決意した。
シンが決意を固めている頃、ルインの説明を受けている母は、時折、「シブリヌの森に入ってモンスターに襲われたですってっ!?」とか、「このお馬鹿っ!!」といったような事を叫んでいた。だが、説明がシンが回復魔術をつかえる所にくると、ビクッと体を震わせて、ゆっくりと少し離れた場所にいるシンの方に視線を移す。
「…だから、きっとシンさんならギースの病気を治せるかもしれないのっ!」
「でも、ルイン…、その事はシンさんにちゃんとお願いして了承は得たの?」
「えっと…、回復魔術が使えるって知った後、すぐに引っ張って連れてきちゃったから、まだ頼んでない…です…。」
母の言葉を受け、しょんぼりと肩を落とすルイン。
そんなルインの様子を見た母は、ルインの何時もの“思い込んだら猪突猛進”な悪い性格が出たのだなと、溜息を吐く。そして、ほんの少し悩んだ後、今だにスズメのぬいぐるみをジッと見つめているシンの元にルインと共に歩みよった。
「シンさん…でよろしいのでしょうか?」
「あ、はい。ルインとのお話は終わりましたか、えーっと、女将さん?」
「はい。この度は娘の命を助けて頂いたようで…、本当にありがとうございました!」
「あ、ありがとうございました!」
シンに歩みよったは母は、シンに感謝を伝え深々と頭を下げた。そしてルインも母に続くようにペコリと頭を下げた。
その様子を見たシンは、笑顔で「お気になさらず…。娘さんが無事でよかったですね!」と母に伝えた。
そのシンの様子に優しそうな雰囲気を感じた母は、思い切ったように話を切り出す。
「あの、突然で大変申し訳ないのですが、どうか息子の病を回復魔術で治して頂けないでしょうかっ!!」
「お願いします!シンさん!」
「ええっ!?わ、私がですかっ!?いや、でも、回復魔術で病気が治るかなんて分からないし、そもそも、私が扱えるのは下級魔術までですし…。」
ルインと母は頭をさらに下げてシンルインの弟を助けて欲しいと乞い願う。
その様子にシンは狼狽え、色々と理由を告げて断るが、2人の熱意に押され、とりあえず弟の状態を確認してから判断するということにした。
「いいですか?ひとまず、息子さん…えーと、ギース君でしたか?ギース君の様子を見て、私の回復魔術で治せそうなら回復魔術をかけましょう。」
「本当ですかっ!ありがとうございます!」
「シンさんありがとう!」
シンの答えに2人は喜びの顔を浮かばせたが、シンが「ただし、無理かもしれないので、期待はしないでくださいね!」と注意を促す言葉を続けたため、喜びの感情を抑えて神妙に頷いた。
そしてシンは、先ほど母が出てきたカウンター裏の部屋へと案内された。
部屋の中はどうやらルイン達家族の居住スペースのようで、入ってすぐ目の前には小さい部屋ながら真ん中に卓袱台が設置され、緑の毛糸で出来た絨毯が敷き詰められた居間のような空間が広がっていた。
そして、部屋のさらに奥には三つの扉があり、両親と子供二人の寝室となっているようだ。
ルインと母はその三つの扉の1番左端の扉を開けて、シンを中にある一つのベッドのもとへと案内する。
ベッドには、5歳ぐらいの男の子が青い顔で呼吸も荒く、時折苦しそうにくぐもった声を発していた。
ルインと母はベッドサイドの椅子に座ると、心配そうにその子を見つめ、手を握ってあげたのだった。
シンはとりあえず、この男の子…ルインの弟のギースが、現在どのような状態なのかを確かめるために、アイテム欄から一つのアイテムを選択して、アイテムボックスを兼ねているコートのポケットから取り出す。
取り出したアイテムは、銀細工で縁取りされたモノクルだった。
このモノクルはゲーム内では中級ボスモンスターのオウリアというフクロウ型モンスターがドロップするレアアイテムであり、これを使用することで見たい相手のステータスや得意不得意属性、さらに状態異常が一発でわかるという優れものであった。
ゲーム・クレイグランドではプレイヤーキルができないため、パーティの他のプレイヤーに関するステータスを調べる必要もないため、そのモノクルは新しく発見して情報がないモンスターなどを対象に使用することが大半だった。
だが、一部のパーティはそのモノクルを使用して、強いソロプレイヤーのステータスを確認し、勧誘を行うという目的で使用していることがあり、このモノクルがモンスター以外にも使えるということが確認されていた。
そして、このオウリアのモノクルは装備品ではなく、アイテムというカテゴリーに属しているため、一度使用すると消えてなくなってしまうということから、多くのプレイヤー間で高値で取引されるアイテムとなっていた。
(さっき、ルインや他の人のプロフィールが見られたって事は、このオウリアのモノクルでステータスが確認できるはず。)
シンは手にとったオウリアのモノクルを自分の目にあてて、ギースのステータスを確認したいと頭の中で念じた。
すると、目の前にギースのステータスが表示され、NPCネーム、ギース=レナウト、職業なし、ステータス状況BADと記され、HPがジリジリと減少していた。
どうやら、この世界でのHPはゲーム時代の体力を表しているものとは違い、生命力を表しているようだ。
そして、ステータス状況BADと記された欄を細かく表示すると念じるとステータス状況BADと書いてある後ろに緑の泡のイラストと眠った人のイラストが表示された。
(これは、毒と眠りの状態…か。この状態なら、下級回復魔術でも治せるよね。)
緑の泡のイラストと眠った人のイラストはそれぞれ毒状態と眠り状態というステータス異常を表すもので、ゲーム時代では毒状態では体力を表すHPを徐々に減少させ、プレイヤーの動きを悪くさせる効果が現れ、眠り状態では文字通りプレイヤーを眠り状態にいざなうものであった。
ただし眠り状態に関しては実際に操作しているプレイヤーが眠ってしまうわけではなく、操作しているキャラクターが眠りの状態になるために、プレイヤー側は突然視界が暗転して目の前に黒一面の空間が広がるのだった。
ソロプレイの時に眠り状態になった場合は、その暗闇の場所でステータスウィンドウを表示し、状態異常を治すアイテムを選択して使用することで眠り状態は解消される。ただし、眠り状態に受けた攻撃のダメージはキチンとカウントされているので、目が覚めたらHPがピンチになっている事が大半であるのだが。
また、パーティを組んでいて、なおかつ、回復魔術が使えるプレイヤーが仲間だった場合は、その仲間のプレイヤーが回復魔術によって眠り状態を解消させるため、眠り状態になったとしても、一瞬の暗転を体験するだけで特に影響は出ないそうだ。
毒や眠り状態というステータス異常は下級回復魔術で解消させることができるため、シンは下級回復魔術の状態異常回復魔術『清廉なる祈り・リカバリーグレイス』を無詠唱で発動させる。
リカバリーグレイスとはHP回復魔術の『癒しの風・ヒールウィンド』と同じ下級回復魔術に属し、毒・麻痺・眠り・やけど・氷・混乱といった状態異常を回復させる魔術である。
この上には中級の状態異常回復魔術『清浄なる祈り・キュアルグレイシア』というものがあり、猛毒や、金縛りなど状態異常の上級ランクのものを回復させる魔術がある。
しかし、今回ルインの弟のギースに発生している状態異常は下級ランクの状態異常であったため、シンが扱える下級魔術でも回復可能だったのだった。
回復魔術が発動し、苦しんでいるギースのベッドの下に白く輝く魔方陣が現れ、突然ベッドの下に魔方陣が現れたことにルインと母が驚愕の声を上げる。
そして、静かに魔方陣が消滅していくと、苦しんで眠っているギースの顔色がよくなり、呼吸も穏やかなものへと戻っていった。
そして、シンがそのままモノクルごしにステータスを確認すると、毒と眠りの状態異常を表す表示が消え、ステータス状況異常なしと表示されていたのだった。
しかし、減少していたHPだけが回復されておらず、不安に思ったシンはとりあえずHP回復魔術の『癒しの風・ヒールウィンド』も無詠唱で発動させておき、ギースのHPが満タンになったのを確認してからモノクルを外した。
外したモノクルが光の粒となって消えてゆくのを確認していたシンに、ルインと母・ミナが期待を込めた瞳で見つめてきた。
その期待にこたえるかのようにピースサインをして笑顔を浮かべたシンは二人に声をかける。
「もう大丈夫のはずですよ!回復魔術が効いたみたいですから、じきにギース君は目覚めると思います!」
「ほ、本当ですかっ!?ギースの、ギースの病はもう大丈夫なのですねっ!…よかった…本当に良かった!!シンさん…ありがとうございました!本当に、なんとお礼を言えばいいのか…」
「ぐす…ジ、ジンずわん、ありがどうございばす。えっぐ…うわぁぁん!」
シンの言葉に涙を浮かべて母は喜びを表し、シンの手を取って膝をつきながら何度もお礼を伝える。
ルインはそんな母の様子と弟のよくなった顔色を目にし、感謝の言葉を繰り返しながらながら泣き出してしまったのだった。
シンがそんな二人の感涙と感謝の言葉に苦笑を浮かべていると、部屋の外からバタバタッと慌てたような足音が2人分聞こえ、そして男性の声で「隣町から良い医者を連れてきたぞ~っ!!」という声が響いた。
そして、その声の主がガチャリとこの部屋の扉を開けると、彼の目の前には見たことのない白い服を着た女性がポカンとこちらを見つめ、そして愛する妻と娘が泣きじゃくっている様子が目に映った。
男性はその二人の様子を見ると、最悪の状況を想定して膝から崩れ落ちる。
そして、その男性の後ろから息を切らせた白衣を着た医者風の白髭の老人が慌てたようにベットで眠る少年のもとへ近づき触診を始めた。
「ミナ…ルイン…なぜ泣いてるんだ?まさか、ギースが?…そんな、嘘だ…。」
「えっ?あなた?」
「お父さん?」
「え、ルインのお父さんなの?…一瞬すごい形相だったから強盗かと思っちゃた。ごめん。」
男性はどうやらルインの父のようだった。父は崩れ落ちたその場で泣きそうになった顔を手で覆い、最愛の息子がその命に終止符を打ったのだという考えにとらわれていた。
そして、父が入室してきた瞬間に鬼のような形相をしていたことから、シンは強盗が入ってきたと勘違いしてしまったことを素直に詫びた。
ルインと母は、崩れ落ちた父のもとに歩み寄るとそっと手を添えた。
その妻と娘の気遣うような様子から、ますますギースが亡くなったのだと勘違いした父はとうとう涙を流し声を上げて泣き出してしまったのだった。
そして、そんな父のもとに、医者風の老人から気まずそうに声がかけられる。
「ダグラスさん…、非常に申しあげにくいのですが…息子さんは…」
「ひっぐ…うあ、やっぱり、ギースは…ギースは…うわぁぁぁ!!」
老人の言葉を悪いほうに先読みした父がさらに声を上げて泣きじゃくる。
その父のもとにさらに気まずそうに老人は続けた。「非常に健康体のようですが、本当に病にかかっておったのですかな?」…と。
「うあぁぁぁ……え?」
「ですから、至って健康そのもの。どこにもお聞きしていた症状はうかがえないのですが…血色も良好、脈拍も正常。…うむ。間違いなくただ眠っているだけの健康優良児ですな。」
老人の言葉に、泣きじゃくっていた父・ダグラスの涙はピタリと止まる。
そして、そんな父のもとに手を添えたルインとミナが苦笑いを浮かべて言葉をかける。
「実はね、あなた…」
「お父さん、あのね…」
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時は過ぎ、王都・セラスアトラスに夜の帳が落ち、月からは幻想的な明かりが発せられる。
セラスアトラスにある宿屋・スズメ亭からは笑い声が響き、カチャカチャと食器の響く音が聞こえた。
「さぁ、シンさん!どんどん食べてくださいよ!!さぁさぁ!!」
「ちょっとあなたっ!シンさんは女の子なんですから、そんなにいっぱい食べ切れるわけないでしょ!!考えて頂戴!!」
スズメ亭の食事処のテーブルに山と積まれたご馳走の数々。その様々なご馳走を片っ端から小皿に乗せ、苦笑いを浮かべたシンへと差し出すのはルインの父・ダグラス=レナウトである。
昼間、朝早くから隣町に出かけ、良医を連れ帰ったのに息子はすでに天に召されたのだと勘違いをしていたダグラスが苦笑を浮かべた妻と娘に告げられたのは、シンの回復魔術によって既にギースの病が治されていたという嬉しい事実だった。
その嬉しい事実を説明された後、しばらくして病で苦しんでいたはずの息子がケロリとした表情で起き上がったことで、ルイン達家族は再び喜びの涙を流したのだった。
そして、ダグラスは隣町からわざわざ来てもらった医者の老人に丁寧に礼を述べ、見送りに行き、ルインとミナはシンにお礼をするために食事を振る舞うことにし、ルインが食材を町に買い出しに行った。
残されたシンは宿屋に宿泊したいということをミナに伝え、ミナが喜んで歓迎するという旨と宿泊料はタダでよいと告げたことに慌てて、宿泊料金はキチンと払いますと伝えると、「では、安くして1000ギルで構いませんよ!」という言葉に甘えて安値での宿泊をさせてもらうことにしたのだった。
この時、この世界においての通貨もゲーム時代と同じ通貨であるということに気づいたシンは、使える通貨がゲーム時代と同じでよかったと心底安心した。
通貨の値は1ギルが1円に相当するものであり、王都では一日の宿泊で6000ギル、リンゴや肉などの食料品は現実の世界の日本と同じぐらいの値段で売られているということをシンは医者を送り届けて夕方に帰ってきたダグラスの口から聞いたのだった。
そして、階段を上がってすぐそばにある部屋を借りたシンは、ルインとミナが食事に呼び出すまで部屋で過ごし、夜の闇が広がる頃に夕飯の食事会へと招待され、今の豪華なご馳走の晩餐に相席していたのだった。
そして、楽しい食事会も終わりに近づき、シンが手に持っていたナイフとフォークを放すと、待っていましたとばかりに食事を終えていたギースが話しかける。
「シンお姉ちゃんは冒険者さんなの?どんなところを冒険してきたのかお話聞かせてよ!!」
「こらこら、ギース!元気になったのはシンさんのおかげなんだからそんな無茶を言っちゃいかんぞ?」
「冒険の話ね~。今日はもう夜遅いから、また今度時間があるときにいろいろ話してあげるよ、ギース君!」
「えぇっ!?ギースだけですか!!ずるいですよシンさん!!」
「ははっ!わかったわかった!ルインにも話してあげるから!」
「こら、ルイン!シンさんを困らせないの!」
元気になったギースはシンに冒険の話をせがみ、それにルインも反応して、声を上げる。そんな二人に父と母は注意を促すが、二人は輝いた笑顔でやったと手を叩きあう。
その様子を見たシンの顔にも笑顔が綻んだのだった。
そして、子供はもう寝る時間だという両親の言葉に元気よく返事を返した二人は、二人仲良く手を取り合って寝室のある部屋へと入っていったのだった。
その二人の様子を穏やかに微笑んで見送った父と母は、改めてシンの前に座るとペコリと頭を下げ感謝の言葉を告げた。
食後のお茶を飲んでいたシンはそんな二人の様子に一瞬お茶を吹き出しそうにして、慌てて頭を上げるように声をかける。
そして、シンはおもむろに言葉を発した。
「あ…そうだ。だったら一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
そんなシンの問いかけに顔を見合わせあった両親はどうぞとシンの言葉を促す。
「この街でこの世界の事とか、国のこととか…あぁ、あと魔王とか勇者とか?の話とか情報みたいなのを知ることのできる場所はありますか?」
「は?…世界や勇者様のお話…ですか?」
「えぇ。ちょっと事情があって、冒険者をしながら調査をしているので、それらに関する情報が知りたいな~っと思ってまして。…でもこの街に来たのは初めてで、どこに何があるのか知らないんですよ。」
「なるほど。そうでしたか!…そうですな、そのあたりの話でしたら、王立神殿・レムリウスに行かれるとよいと思いますよ。」
「そうね。レムリウスの司祭様なら、そのようなお話に詳しいかもしれませんね。本当は大司教様のほうがもっと詳しいのでしょうけど、私たちのような平民は大司教様にお会いすることはできませんし…。」
シンがほんの少し嘘を織り交ぜ告げた疑問にダグラスが答える。そして、ダグラスに続いてミナも賛同を告げた。
そのあと二人が続けた内容はこうだ。
まず、この街に入る前に真ん中に見えた魔方陣を上空に頂いた白亜の巨城は、オルトクレイグランド内にあるこの国・セレヌディア王国の王城であるということ。そしてこの街はその王国の都の街でセラスアトラスということ。
この王都には城と共に巨大な神殿があることが有名で、その神殿・レムリウスにはこの世界を創造したとされる女神・オルトクレアという女神を祭っているということ。
神殿にはかつてこの世界を救ったとされる勇者の遺品が飾られ、司祭や司教たちが日々信仰者たちに勇者の冒険譚や魔王の恐ろしさ、そして女神の尊さを称える話を伝えているということ。
その話は一般人も聞くことができるということ。
その他にも様々なことを聞いたシンは、明日、その王立神殿に向かい情報を集めることを決め、二人に休むことを告げて、宛がわれた部屋へと戻った。
そして部屋に入った後すぐにベッドへと寝ころんだシンは、そのまま目を瞑り、もしかしたら明日になれば元に戻っているかもしれないという淡い希望を胸に抱きつつ、深い眠りへと落ちていったのだった。
亀更新で申し訳ないです。
キャラクターはこれから結構出てくるので、そこは皆様の妄想力を頼りにしております。(笑)
一応今まで出てきたキャラはサブキャラ?みたいなもので、次回からメインキャラが出てくるかなと考えております。
なお、感想や誤字脱字について何か申し上げたいことがございましたら、活動報告のほうに記載していただけると幸いでございます。
今後も最強NPCをよろしくお願いいたします!