chapter2,合同パーティ
chapter2,合同パーティ
広場に着いた四人はこれから共にするメンバーを探そうとしたが、そのうちの一人、緑の芝生頭のエルフ、ラットが涙目で震えていたので、心配になったレイネールがバゲッテェル声をかける。
「あの、ラットさんはどうしたんですか?」
「んー、多分シンがレイフォックスでも、召喚したんだろうよ〜…。」
「レイフォックス?」
「ほらシンの頭のあたり見てみな?ぼんやりと発光したキツネみたいなのが浮いているだろ?」
「あ、ほんとだ!かわいいですね!」
「かわいい?!かわいいだと?!嬢ちゃん、ありゃゴーストモンスターだぜ?!つまり幽霊っつーことだ!」
「へー…。もしかしてラットさんって幽霊苦手なんですか?」
「なっ!?ち、違うぞ!俺は幽霊なんて怖く…」
「レイ、やっておしまいっ!!」
「ぎゃーーー!?こっちに来ないでーー!!」
「乙女かあいつは…。」
シンがレイと呼んだ淡く発光して浮いている狐はレイフォックスといい、クレイグランドにおける低級モンスターの一種である。
シンが初めてパートナーにしたモンスターであり、下級職の召喚士の頃からの付き合いだった。
主に狐火のような焔を攻撃手段として持ち、現在受け持つことの多くなった上級クエストにおいては、薄暗い洞窟や、暗闇の森などにおいて、辺りを照らす役割を果たしている。
タイプはラットが言ったとおりゴーストで、その姿は発光に応じてうっすらと消える瞬間があった。
そのレイフォックスのレイがシンの命令をうけ、嬉々としてラットの周りをグルグルと飛んでバゲッテェルが呆れていた時、レイネールがふと疑問に思った事をシンに尋ねる。
「シンさんのパートナーモンスターって他にもいるんですか?」
「うん?あぁ、パートナーモンスターはあと2匹しかいないですよ〜。私のパートナーはレイ含めて合計3匹!」
「あれ?てっきり上級職だからもっといるのかと思いました。」
「うーん…上級職の召喚騎士の特色は前衛&後衛がバランスよくできることなんですよ。召喚士では下級魔術しか使用できないし、物理攻撃なんて猫パンチぐらいの威力しか効果がありませんが、上級職の召喚騎士や召喚戦士になるとそれぞれ前衛ステータス補正がプラスされ、技や装備もそれぞれ騎士の技や戦士の技及びそれぞれに類する装備や武器を使用することができるようになります。これによって、召喚士時代にできなかった物理での攻撃手段も得ることができるようになります。」
「後、魔術も中級クラスまで使用できるようになるしな〜。召喚騎士なら下級の回復魔術も使用できるようになるんだとよー!オマケに騎乗スキルが付属されっから、大型のモンスターなら乗りこなすこともできるんだってよー!いいよなー!俺もグリフォンとか乗ってみてーぜ!」
「バゲッテェルの言うとおりですが補足すると、召喚戦士の場合は前衛特化スキルが付属されて、パートナー共々攻撃力が大幅にアップします。回復魔術は使用できませんが、味方のパワーアップ魔術が使用できるようになります。また召喚魔術師の場合は、完全後衛で上級魔術及び中級回復魔術の使用ができるようになります。そのため、パートナーモンスターに前衛を任せ、自身は後衛から攻撃やサポートを行う戦闘法を使用しますねー。そのため、召喚魔術師は前衛となるパートナーモンスターと多く契約していることが多いかな?」
「へ〜!召喚士の上級職って色々強そうですね〜!」
「ただし上級職になるまで苦難の山だぜ〜?」
「うっっ…、そうでした…。」
シンの説明とバゲッテェルの説明を聞いたレイネールは、ほぅっと息を吐きもう一つ疑問に思った事を口に出す。
「あの…じゃあ召喚士ってどうやってモンスターを召喚するんですか?」
「契約したモンスターなら、“召喚”って言ったあと、契約時につけた名前を呼べば召喚士の所有する異次元から呼び出すことができます。返す場合は戻れって頭の中でイメージすれば戻ります。…レイを見ててくださいね!」
「いやーー!こっち来な…?い…いなくなった?」
「ほわー!?ほんとだ!一瞬で消えましたね!」
シンがレイネールにレイを見てるように言うと、ラットを嬉々として追い回していたレイフォックスのレイの目の前に魔法陣の様なものが現れ、レイがそこに触れると一瞬にしてその姿が消えた。
そして、レイが消えたおかげで怒りをあらわにしたラットがシンに文句を言おうと近づいてきた。
「シン!お前、俺が幽れ…じゃなくて、レイフォックス苦手なのしっててけしかけやがったなっ!!」
「あれ?ラット、レイフォックスが苦手だったんですかぁぁ?それは失礼。知らなかったもので~!てへっ!」
「ぅおのれぇ~!!ちょっと引きずっただけで、俺の苦手なもの召喚するとか、子供か!!」
「ラット…反省が足りないようね…“召喚・レイ”!!」
「のわーーーーー!!すんませんっしたーーー!!」
シンが召喚とつぶやいた瞬間、シンの目の前に魔方陣が現れ、そこから再びレイフォックスのレイが飛び出してラットを追いかけだした。
その様子を見たレイネールは、召喚魔術ってこんな風に人を驚かすために使うのかとずれた考えをしていた。
「レイネールさん、先ほども言いましたが、召喚するのは何も契約したモンスターだけではありません。下級職の召喚士なら、召喚士の装備できる武器や武具、召喚騎士なら、それプラス騎士職の装備できる武器や武具も召喚できます。そして、装備できる武器であるならば、召喚時に、相手に向かって放つこともできます。“召喚・鉄の剣・黒鋼の剣・バスターソード”!!」
「ほわっ!のわぇ!あぶっ!!シンっ!!なんで剣三本も召喚してんだ!!あと俺に向かって放つとかアホか!?」
「わー!!すごい!魔方陣から剣が飛んでいきましたねっ!」
「っとまあ、こんな感じに遠距離の敵には攻撃魔法プラス武器放出という攻撃方法がとれます。まあ、これも、下級職の召喚士の武器では攻撃力が足りないので、あまりダメージが与えられないんですけどね~…。」
シンがレイネールに召喚の方法や攻撃方法などをラットに対して攻撃などを行うことで説明していた時、ドラゴンの銅像の噴水の陰から、五人のプレイヤーが現れ、そのうちの一人が手を叩きながら騒いでいるシンたちに声をかけてきた。
「はいはーい!そこまでですよシン君。何があったかは存じませんが、ラット君を許してあげてください。」
「そーそー、リーダーの言うとおり、そろそろラットの野郎を開放してやんな、シン。」
「バゲッテェル…今まで見ていたのですか?…あなたにはレイネール君とラット君をきちんと指導する立場が…」
「ゲッ…藪蛇だったか…すんません、リーダー。」
「素直なのは良いことです!さぁ、シン君、レイフォックスと剣を戻しましょう!」
「うーー、鬼先生がそういうなら…」
「はーーーー、助かった…先生、ありがと…。」
シン達に声をかけてきたのは、鬼族で魔術師風のプレイヤー、バゲッテェル達のパーティ・グレートティーチャーを束ねるリーダー、トロウトである。
彼は、現実世界でも教師をしており、このゲーム・クレイグランドの世界においても初心者プレイヤーたちを指導していることから、鬼先生の名で有名なプレイヤーであった。
しかし、鬼先生というのは彼の使用するキャラクターが鬼族で赤鬼であるというだけで、彼の性格は鬼のように怖いということはなく、むしろ、優しい先生なのであった。職業は大魔術師である。
「やあ、シン!こうして会うのは二か月ぶりかな?君に依頼を出した時には、本当はガルフレアだけで別の上級討伐クエストを受けようって話だったんだけど、そちらのトロウトさんが面白いクエストを持ってきてね…合同で行こうって話になったんだけど、いいかな?」
「…まあ、今日のリーダーはスナイルさんですから、リーダーの決定には従いますよ…ただ…代わりにその尻尾モフモフさせてくださいっ!!」
「あははっ!!それくらいなら、お安い御用だよ!どうぞ!」
トロウトの後から話しかけてきたスナイルというプレイヤーは、狐の獣族で和服の着流しを身にまとい、その口に草をくわえた姿であった。職業は侍。獣系パーティ・獣のガルフレアのリーダーである。
彼ら獣のガルフレアは、メンバー全員が獣族か獣人族で構成されており、ケモナーの巣窟とも呼ばれていた。
スナイルの金色に輝くモフモフの尻尾をシンが満悦の顔で楽しんでいたとき、その後ろから新たな人物たちが話しかけてきた。
「シンちゃん、相変わらずリーダーの尻尾お気に入りやねんな~!そんなシンちゃんの頭をなでなでしたいっ!」
「まあ、スナイルの尻尾は俺もたまにモフりたくなるからなー…。」
「おっさんが、おっさんに触りたくなるとか笑えないよ、ブルーノ…」
「ホンマやわ…。ブルやん、そんなこと考えとったやなんて、引くわ…シンちゃん!ひさしぶりー!!なでなで!」
「ルーネイ!!久しぶり!元気そうでよかった!」
新たな人物の一人、ブルーノは牛の獣族で職業は狩人である。彼がスナイルの尻尾を見ながら発言した内容を聞いたスナイルは少し苦笑しながら拒否を示していた。
そして、シンを猫かわいがりするかのごとく撫で始めたルーネイと呼ばれたプレイヤーは女性で、鹿の角と耳、尻尾をはやした獣人族と呼ばれる種族で職業は弓騎士と呼ばれる狩人の上級職であった。
シンが撫でまわされている頃、残りの一人がラットのもとに走り、大きく振りかぶった手をラットの頭に振り下ろしていた。
「こんの…どアホがーーーー!シンさんに何した?!言え!」
「なにって、姐さん…ただ引きずっただけで…」
「どアホーーー!!シンさんの嫌がることはすんなって言ったでしょーが!?」
「まあまあ、カルネ君、ラット君も十分シン君から罰を受けたようですし、許してあげなさい。」
「鬼先生がそう言うなら…でも、今度シンさんに何かしたらアンタ…ゴースト系モンスター討伐クエスト地獄に処すかんね。」
「ひっ!?りょ了解しやしたっ!姐さん!!」
「カルネも久しぶり!相変わらず元気そうだね…」
「あら、シンさん!そちらも、いろいろ活躍してるようでなによりです!」
ラットに説教していた人物はカルネといい、女性のプレイヤーで、肌のいたるところに青い鱗をまとった水神族で、職業は魔術師である。
シンがそれぞれのパーティを確認すると、いつもと違いそれぞれのメンバーが少ないことに気付いた。そして、そのことを不思議に思ったシンが疑問を発する。
「そういえば、ガルフレアもグレート・ティーチャーもそうですけど、他のメンバーはどうしたんですか?」
「あぁ、ガルフレアの他の皆はリアルが忙しいみたいで今回はパスするそうなんだよ。だから、暇してたブルーノとルーネイと僕だけが今日は参加するんだ。」
「うちも似たようなところですね。あとは、それぞれ別クエストを受けて個別に動いているので、今日のクエストに参加できるのは私と、バゲッテェル、ラット君、カルネ君、そして、昨日から我がパーティの仲間になったレイネール君だけなんですよ。」
「ふーん…。でも、レイネールさん初心者ですけど、今日受けるクエストは大丈夫なんですか?」
「それは心配ないよ。レイネール君には基本後衛で魔術攻撃や補助魔術などの発動の練習をしてもらって、ラット君やバゲッテェルに護衛を務めてもらうからね。」
「肉壁が二人いるなら安心です!!」
「「おい、こら!どういう意味だっ!?」」
スナイルとトロウトの説明の後、シンが初心者のレイネールのことを心配して確認を取ると、トロウトがその心配はないことを説明した。その説明を受けたシンがいい笑顔で毒を吐くと、対象にされたバゲッテェルとラットが抗議のツッコミを発した。そして、三つ巴のにらみ合いが勃発しそうになったところでトロウトが再び手を叩きながら注意する。
「はいはい、三人ともそこまで!クエストの確認をしますよ!」
「はーい!ほら、二人とも、鬼先生を煩わせたらだめじゃん!!」
「もとはといえばお前がっ!」
「旦那!もっと言ってやって!!」
「三・人・とも…怒りますよ?」
「「「すいませんでした!!鬼先生!!」」」
「よろしい…わかればいいのです。」
トロウトが黒いオーラをまとって三人をいさめると、三人はすぐさま平謝りを行った。
そして、話がまとまった様子を見届けて、一つ咳をついてからスナイルがクエストについて説明しだした。
「うぉっほん。ではクエストについて説明します。今回、我々獣のガルフレアとグレート・ティーチャーの合同パーティで行うクエストは、特殊討伐クエスト…“天翔る鯱を制せよ”です!」
スナイルはそう発言した後、クエストについての詳細をメンバーに伝えた。
そして、一同はクエストを達成すべく、動き出したのだった。