ヘビと蛙
ああ 面白くない!
蛙は道ばたの石ころを思いきり蹴飛ばしました。
石ころはカタツムリの親子に当たりそうになってから、池のそばの茂みに飛んで行きました。
まあ 危ない!
カタツムリのお母さんがキッと睨みました。
ごめんなさい。
蛙は頭を下げましたが、カタツムリのお母さんはカンカン。
謝ればすむって問題じゃないわ!
はい。
蛙はどう言っていいかわかりません。
カタツムリの親子はそのまま行ってしまいました。
はあ~
蛙は深いため息をつきました。
するとヘビが茂みの中から、ヌッと姿をあらわしました。
誰だ。朝寝の邪魔をするやつは?
ヘビは蛙をギロリと見ました。
蛙はヘビが大の苦手です。
う、動けない…
蛙が蹴った石ころがヘビを起こしてしまったのです。
やい 蛙。おれになにか用か?
蛙はぶるぶる震えながら答えました。
いえ別に。ちょっとうまくいかない事があって…
それでおれに石をぶつけたのか?
ち、違います。そうじゃなくて…
じゃあなんだ?
きちんと話せば逃がしてやってもいいぞ?
ヘビは赤い舌をチロチロ出して言いました。
目は意地悪そうに光っています。
ああ 実はお姫さまに怒られてしまったのです。
どうして?
えーと お姫さまを一日中一人ぼっちにしてしまったからです。
お姫さまはきっと心配していたに違いありません。
なぜそんなことをしたのだ?
それが自分でもよくわからないのですが、お姫さまと楽しく話せる気分じゃなかったんです。
ケンカでもしていたのか?
いや、ちがくて。
なんて言ったらいいか…
はっきりしろ。それともおれの胃袋の中で考えるか?
蛙はびっくりして急いで話しました。
私はお姫さまのことが大好きなのです。
大好きな人と過ごす時間はとても貴重なものです。
だから大事にしたい。
あとでゆっくりと思ってるうちにどんどん時間が経ってしまい…
そのうち日も暮れて、なんだかお姫さまに申し訳ない気持ちになって、怒られそうな気までしてきて…
それで…とうとう夜も遅くなって…
眠ってしまったというのか?
はい。
ばかだなあ おまえは。
ヘビは呆れました。
もしおまえが逆の立場だったらどうするんだ?
怒ります。
なぜ?
すごく心配したでしょうから。
だよな?
待つってのはとても辛いんだ。
おれもおまえも冬眠する。
長いあいだ一人ぼっちで土の中だ。
春が来たらどんなに嬉しいか、おまえもよく知っているだろう?
お姫さまにとって、おまえは春なんだよ。
そうでした。
蛙はそれを聞いて涙をこぼしました。
今さら泣いても仕方ない。
おまえは自分の気分を優先にして、お姫さまをほったらかしたのだ。
おまえみたいなわがまま蛙は食ってもまずそうだから
どこへでも行くがいいさ。
ヘビはくるりと背中を見せると
茂みの中に戻ろうとしました。
あの、ヘビさん!
蛙はヘビを呼びとめました。
なんだ?
朝になりお姫さまにごめんねと謝ったら、ますます怒らせてしまいました。
いったいどうしたら良いのでしょう?
知るか! 自分で考えろ!
イライラしながらヘビは去ってしまいました。
困ったなあ…
蛙はまた足元の石ころを蹴りそうになり
慌てて足を引っ込めました。
昨日も今日もついてないや。
蛙はそう思い、森の中を見つめてつぶやきました。
お姫さま・・ どこにいるのですか?
やがて雨が降ってきましたが
蛙はいつまでもその場にじっとしていました。