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再び,生徒会室

雄一と二人きりで話すのは,初めてだった.

そしてこれが最後になるだろう.

放課後の冷えた生徒会室で,麻里は彼と,互いに立ったままで向き合った.

「多分,気づいていると思うけれど.」

地味な割りには,雄一には妙な迫力がある.

「僕は君が好きなんだ.」

「ごめんなさい.」

麻里は断った.

「いいよ.」

彼がほほ笑んでくれたので,ほっとする.

変にこじれて,生徒会にいづらくなっては困る.

なぜなら麻里は,ずっと生徒会のメンバーでいるつもりだった.

最初は数ヶ月の約束だったが延長してもらい,さらに正式なメンバーになれればと考えていた.

「君が孝成を好きなことは分かっているから.これからは,僕に気兼ねしなくていいよ.」

雄一のお人よしなセリフに,麻里はうなづくべきか迷った.

孝成のことは好きだが,大輔と付き合うのかもしれない.

そして大輔の彼女になりたいのならば,ここで肯定するのはまずい.

「それは,雄一君のかんちがいだよ.」

麻里は,あやふやな笑顔を作った.

「私には今,好きな人はいない.」

心が痛まないではないが,いつわりごとを口にのせる.

「そう.」

雄一は笑みを保ったままで,言葉を落とした.

そして悲しそうに麻里を見る.

「僕は本当に,君が好きだったんだ.」

目には,光るものが浮かんでいた.

「君に勝手に幻想を抱いていただけだったけれど,それでも君に恋していた.」

右手をズボンのポケットにつっこんで,携帯電話を取り出す.

「だから孝成たちは,おせっかいを焼いてくれた.」

淡々としゃべりながら,ボタンをカタカタと押した.

「僕は断ったけれど,君を強引に生徒会のメンバーにした.」

麻里は金縛りにあったように,動けない.

「今はイベントがなくて暇だから,孝成たちは僕のためにプライベートなイベントを起こした.」

何をしているの? とも,今から何が起こるの? とも聞けない.

この瞬間,明らかに麻里と雄一の力関係が逆転した.

「君が親しい友人にも生徒会のことを内緒にした時点で,嫌な予感はしたんだ.」

いや,最初から麻里は踊らされていたのか.

あまり待たずに,孝成,大輔,太陽が部屋に入ってきた.

彼らもまた,悲しげな顔をしている.

「短い間だったけれど,君は僕たちのアイドルだったよ.」

孝成が残念そうにほほ笑む.

「俺たちが見捨てるんじゃなかったと後悔するほどに,いい女になってくれな.」

大輔の笑みは,優しかった.

「なんと言っていいのか…….ごめん.」

太陽は,ただ困っている.

「私は,」

麻里は反論しようとしたが,できなかった.

みじめだった.

彼らは裏で手を結んで,麻里を笑っていたのだ.

バカにしていたのだ.

「もう明日からは,生徒会室に来なくていいから.」

孝成が言ったとたん,涙があふれ出る.

麻里は顔を両手で覆い,うつむけた.

気まずい空気が流れる.

だが,それをさっくりと切るように雄一の声がした.

「今日は,この部屋は君に貸すよ.いくらでも一人で泣いていいから.」

顔を上げると,彼は紳士面をして優しくほほ笑んでいる.

深い黒の瞳は,麻里を同情していた.

「行こう.孝成,大輔,太陽.」

そして背中を向ける.

部屋を出て行く雄一の後を,三人が部下のようについていく.

そのときになって,麻里は気づいた.

まじめ一辺倒の孝成と,ちゃらちゃらしている大輔と,単純な太陽をまとめているのは雄一なのだ.

何の変哲もない,どこにでもいるような.

麻里は体を震わせた.

いきなり生徒会に引きこんで,みんなでちやほやして,あっさり捨てる.

麻里の気持ちなんか,お構いなしに.

彼らの都合だけで.

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