アリサと赤いドラゴン
「屋根裏部屋には勝手には言ってはいけないよと言わなかったかい?アリサ。」
アリサは太股においていた手を離すと膝の上の本を背中に隠した。
「捜し物をしていただけだもの。行こう、ティンク。」
そういって梯子から降りようとしたアリサの足を神父は引っ張る。
アリサはバランスを失って、ローレルに飛びかかるような格好で梯子から落ちた。
「何をするの!危ないじゃない。」
アリサは思わずローレルの首にしがみつく。
最近は抱きつくことがなかったが、昔はこの大きな腕に閉じこめられるのが大好きだった。
「箒にまたがって7メートルの高さを飛び回っている、じゃじゃ馬が何を言っているのやら。
また、悪さをたくらんでいたらしい。」
ローレルは足下に落ちたヘイムダルの伝説を書き記した赤い本を、アリサを右腕に抱きしめながら器用に左手で拾い上げる。
「別に何もたくらんでいないもん。
ただ、昔の本が懐かしくなっただけだもん。」
アリサはローレルの首に抱きついたままローレルの肩に頭を押しつけた。自分の安心する場所を見つけるために。
ローレルはアリサを降ろすことなく廊下を歩き始める。
ティンクはランタンを口にくわえると、ローレルの足下を照らすように飛んだ。
神父様はアリサが読み上げる物語をどこから聞いていたのだろうと、ティンクは考えた。
神父様は魔女だと自覚する前のアリサにいろいろな本を読んでやったが、赤い本にかかれている、魔女狩りの話や魔法使いの火あぶりの話などは決して読んでやろうとはしなかった。
しかし、アリサは自分が魔女だとは知らずに過去の名だたる神父や、英雄たちが魔法使いや、怪獣たちと戦った物語を好んで神父にねだっていた。
そうするとローレルはアリサは仕方のないおてんばですねと、アリサを今みたいに抱き上げて眠るまで歌を歌ってやったのだ。
ティンクはこの幸せな時間がどうしてずっと続かないのだろうと思った。
アリサは鏡の前で豊かな赤毛を梳きながらローレル神父に赤い本を返してもらっていないことに気がついた。
でも、アリサには明確な目標があった。
子供の読む伝説の中に赤いドラゴンの封印を解く方法など、書かれていないだろう。
アリサはそればかりを考えながら眠りにおちた。