アリサと赤いドラゴン
深い森の中、湖のほとりの広い野原でティンクは非常に困っていた。
「やめようよ、アリサ」
ティンクは自分が非常に情けない声を出していることを自覚していた。
「今回は大丈夫よ!ちゃんと飛べるわ!」
そんなティンクの言葉に耳を貸さずに、アリサは古い箒にまたがった。
だいたい、ティンクは心配性なのだ。
自分だっていつまでも失敗ばかりしているわけではない。
「また、神父様に怒られるよ。」
失敗すると決めつけているティンクは狐のようにとがった耳を丸める。
「大丈夫よ!ローレルは街に買い物に行っているわ。ちょっと飛んで戻ってくればばれないわよ。」
そういうと、アリサはトウ!っと地面を蹴り上げた。
「ああ・・・」
ティンクは狐のようなしっぽを丸めて、がっくりと肩をおとした。
そもそも、アリサは魔法がへたくそなのだ。
この前、箒の練習をしたときは酷かった。
飛び上がった瞬間、箒はアリサをおいて制御不能に陥った。アリサは箒を必死に走って追いかけたが、箒はアリサの言うことを聞かず、ローレル神父の寝室の窓ガラスを突き破り、ようやく止まったのだった。
今回は上手にアリサを乗せて箒は浮かび上がった。
ティンクはため息を一つつくと、コウモリのような羽を大きく広げ、アリサのそばに飛び立った。
「アリサ、慎重にね。神父さんに練習を止められているんだから。」
箒はきっちり7メートルの高さを保ってゆっくりと前進するアリサをティンクは不憫に思った。
そもそもヘイムダルの森で魔法の練習をしなくてはならないのがおかしいのだ。
本来だったらフレイの魔界学校の校庭で練習するべきことだった。
デモンがいつまでたっても魔法が上達しないアリサをからかうから悪いのだ。
「神父に育てられた、出来損ない魔女」と。
そんなことを考えていたとき森の気まぐれな風が大きく吹き上げた。
箒はバランスを崩し、アリサを振り落とす。
ティンクはアリサの服をつかんだが、ティンクの小さな羽ではとてもアリサを支えられなかった。
出来損ないなのは僕も同じだと、ティンクは思った。
黄色い狐にコウモリのような羽の生えた、雑種の出来損ないの使い魔。
地面がどんどん近づく。
ぶつかる!!
っと衝撃に備えた瞬間大きな手がアリサを包む。
「箒の練習をしてはいけないと、教えませんでしたか?アリサ。」
ローレル神父は穏やかな声でアリサに問いかけた。
走ったためか、美しいブロンドの髪が乱れている。
思ったよりも少ない痛みにアリサは恐る恐る目を開ける。
そして、こう思った。
地面にぶつかって気絶したほうが、怖くなかったかもしれないと。