六人目 ― 瀬野和馬は馬鹿
六人目の瀬野和馬君。馬鹿です。
第一話は彼で一区切りとなります。詳しくは後書きか活動報告で。
「あー、今回は何と言うか、あれだ、タイトルからも分かると思うが……」
「ついに瀬野君の話ですね」
「まあそういうことだ」
「ごきげんよう諸君。鷹田英理子と、」
「黒星研です。よろしくお願いします。」
「「…………」」
しばしの沈黙が応接室を行き交う。
私こと鷹田英理子の対面のソファには黒星研が座っている。
前回から少し間を置いて、二人でもう一度応接室に集まったのだ。
いつもと勝手が違うので少しぎこちないと自分でも思う。
しかしそれは致し方の無いことなので、この第六回だけは諸君に目を瞑って欲しい。
黒星と目を合わせ、互いの表情に戸惑いが無いことを確認し、頷き合う。
「今回はいつもと若干形式を変更し、特別編としている」
「主な原因は筆者の技量不足です」
「余計なことは言わんでいい。まず始めに、なぜ今回語り手が私と黒星の二人なのかを説明しよう」
前回黒星に頼み事という形である提案をされた訳だが、この度語り手の役目を黒星と交代することとなった。とは言っても勘違いしないで欲しい。黒星が語り手を代わるのはあくまでこの第一話だけであり、本編である第二話は変わらず私が語り手を務める予定だ。
正直な所第一話を何人分話してどこで第二話に移れば良いか全く考えていなかったので、黒星の提案は渡りに船だった。これから私が第二話の語りを始めても、黒星が順次物語中の人物について第一話で語ってくれるだろう。つまり同時進行だ。
第一話と第二話なのに同時進行というのはおかしな気がしないでもないが、そこは目を瞑って欲しい。
ただ同時進行に移行する前に一つだけやり残したことがあってな。それが今回の瀬野和直の話という訳だ。
もちろん瀬野和直とは私が散々「あの馬鹿」だとか「例の馬鹿」だとか言い続けていた馬鹿のことだ。一応主人公的な立場のこいつを語らずして本編である第二話は始まらないだろう。
こればっかりは私が自分で話すと宣言していたから黒星だけに任せることはできない。
「そういう訳で第一話の節目ともなる瀬野和直の話を黒星と二人でこなし、同時に語り手の引き継ぎも行う運びとなった」
「説明お疲れ様です。どうぞ」
「ああ」
黒星からカップを受け取り、中の茶をグイっと飲み干す。
カップをテーブルに置き、話を続ける。
「さて、黒星。まずは瀬野のプロフィールを頼む」
「はい。瀬野和直君、「かずなお」ではなく「かずま」ですね。物語中では葉山高校一年生、B型です。性格は自由奔放、周りを見ず、自分の考えを押し通そうとする傾向があります。礼儀が無い訳ではありませんが他人を顧みることがほぼ皆無なため、知らず知らず周囲に迷惑を掛けています。成績は飛びぬけて悪く、葉山高校の入学試験ではたまたま引っ越しや別の学校への入学などが重なり上位十名ほどが合格を辞退したため彼が補欠の補欠のずっと後の補欠として合格、試験の出来から見ても異例の低成績での入学となっています。現在は――」
「ストップ! ストップ! プロフィールで全部語り尽くす気かお前は!」
「ああすみません。つい熱が入ってしまいました」
「そもそもこの第一話自体プロフィール紹介を無理矢理小説化した様な物なんだ、そんなことしたら薄い内容を無理矢理引き延ばしているのがばれてしまうだろう!」
「先生が今自ら暴露しましたよ」
「え? あ、これは……ごほん、話が進まないからもうやめよう。黒星も次回から一人でやるのだから気を付けるように」
「……はい、分かりました。それで、次はどうしましょう?」
黒星の気遣いが痛い。
それはともかく何について話そうか?
現在の瀬野について話すと第二話の結末がある程度分かってしまうし、同じ理由で後日談はどれも不適切だろう。となると過去の瀬野だが、第二話からして瀬野の入学したところから始めるつもりだし…………過去も現在も駄目ならここはやはり…………
「……これからの瀬野について語り合おうじゃないか、黒星」
「馬鹿言わないでください。どうしてそこで未来に行ってしまうんですか」
馬鹿と言われてしまった。確かに自分でも馬鹿だと思う。
となるとやっぱり現在の瀬野か? いやそれだとネタバレが怖い。
一体どうすれば………………
「先生、まだ選択肢があるでしょう?」
一体どうすれば………………
「先生? 気づいているでしょう?」
一体どうすれば………………
「そうだ先生! こういうのはどうでしょう」
一体どうすれば………………
「僕が瀬野君の過去について話すんですよ。先生が知らないことでも僕なら知ってますから」
一体どうすれば………………
私がけじめを付けなければいけないのになあ……別の者には任せられないのになあ……
「…………次回からの練習も兼ねて、ぜひとも僕に瀬野君について語らせて頂きたいのですが。どうかこの役目を僕に譲ってくださいませんか?」
「一体どうすれば…………ん? ああ、そこまで言うなら仕方ないな。黒星、お前に任せてやろう」
「ありがとうございます」
うん、まあ、黒星が頼み込むんだから仕方ないんだ。決して自分の役目を疎かにしたのではない。
面倒事が減って良かったなんて思ってない。
「それじゃあ黒星。早速瀬野の過去話とやらを聞かせてくれ。何について語るんだ?」
瀬野の過去というのも少し気になるからな。面倒臭かった訳じゃない。
「瀬野君の中学時代についてです。色々逸話が残っていてむしろ本編より面白いですよ」
「滅多な事を言うんじゃない。メタな事も言うんじゃない」
「何を今更……」
瀬野の、あの馬鹿の中学時代か。確かあいつがいた中学は……
「瀬野君は成日市立成日中学校出身です」
「そうそう、県内でも特に馬鹿が多いとか言われるあの中学だな」
とは言っても決して悪い意味で馬鹿が多いと言われている訳ではないのだが。
「その成日中学です。瀬野君は生まれも育ちも成日市なんですよ」
「ふむ。それで?」
「そうですね……瀬野君の逸話は一つ二つ聞くだけでお腹一杯になる位に熱血だったり青春だったりするんですけど……」
そうぼやきながら黒星は記憶を掘り起こすために、虚空を見つめ指を曲げ開くという思案の動作を繰り返す。
「入学式で校長のマイク奪って自己紹介した話と、一年生の時セクハラ教師に悪戯して辞職に追い込んだ話と、二年生の時夏休みの課題を二十八人に小分けして写させてもらった話と、三年生の時十二月に葉山高校に入ることを決めて勉強を始めてから合格するまでの話と、卒業式の時同級生の男子達に冗談で制服のボタン全部取られた話、どれを聞きたいですか?」
「……なあ、それは一つとして現実にあり得る事なのか……?」
「最初と最後はともかく、彼の所業の数々は彼一人で実現し得るものではなかったでしょう。ひとえに彼の周囲の人々が協力した、もしくは巻き込まれたからに他なりません」
「うん、まあ、そう言われれば高校時代にお前らが起こした厄介事よりはマシか」
犯罪は(たぶん)犯してない様だし、中学の時の方が行動力は低いのか? 出来る事が少なかっただけで性格は全く変わっていないようだが……
「それで先生。どの話を聞きたいですか? あ、体育祭で毎年大暴れした話が良いですか?」
「正直どれも聞きたくない。……だが敢えて選ぶなら一択だろう。三年生の時の話だな」
「やれやれ……せっかく昔の瀬野君の話なのに結局先生は勉強に結び付けたがるんですね」
どの口が言うか。
他は碌な物が無いし、そんな人間がどうして葉山高みたいな進学校を目指したのか気になるし、これは黒星も故意に選択肢を絞ったんだろう。
「仕方ないですから、三年生の時の話をしてあげましょう」
この言い回しからすると、さっきの私に対する仕返しも含まれていそうだが。
「さてその話をする前に基本的な瀬野君の人柄について説明しておきましょうか。先生は再確認ということで」
「勝手にしてくれ」
「まあ先生は知っているでしょうが、瀬野君には人を惹きつける力というか、悪く言えば誰彼構わず巻き込む力がありますよね」
「ああ。瀬野を一応の主人公にするのもあいつが騒動の始まりだったのが理由だからな」
「そう。それは結果的に見ればそう見えるというだけで、瀬野君自身に本当にそんな力があるかどうかは分かりません。ですが、過去の瀬野君は偶々周りの興味を引くような人物で、彼の周りに集まった人々がさらに人を集めることで一連の出来事の規模がどんどん大きくなっていきました」
「私が思うに、瀬野の性格が非常に特殊で個性的だから特定の人種が集まって来て、その特定の人種というのがこれまた人を集めてしまう人種というだけじゃないのか?」
「そういう考え方も有りです。僕が言いたいのは、瀬野君の力を単なる不思議な魅力として結論付けるのではなく何かしら理屈を付けたいということですから」
変な所で研究者っぽいな、黒星は。
「話が逸れました。とにかく瀬野君の周りに人が集まっていたのは中学時代も同じことで、彼を助けてくれる人間はたくさんいたんですよ」
「なるほど。察するに、瀬野の受験勉強もかなり周りに助けられたんだろ?」
「その通りです。具体的には比較的成績が良かったけど簡単に入れる地元の成日高校に進学を決めていたT君と、スポーツ推薦で受験が終わっていたY君と、自分も受験勉強で忙しいのに瀬野君を放っておけなかったKさんの三人が中心になって瀬野君に勉強を教えていました」
「成日高校はたしか成日中学の生徒の五割が進学する偏差値50位の普通の高校だったな。で? で? そのKさんというのは瀬野とどんな関係だったんだ? 今も連絡とか取り合っているのか?」
「女の子が出てきたからって喰いつかないでくださいよ。良い歳して他人の恋路に構っている暇があるんですか」
「……………………」
…………私だって……このまま行き遅れるのは嫌さ……でも今はまだ仕事も楽しいし……、元教え子の言葉が辛い……
「はあ……」
思わず指を組んで頭を抱え込んでしまう。
「あ、いや、本当に落ち込まないでくださいよ。いつもみたいに殴りかかる勢いで怒ってくださって良いんですよ?」
「どうせ私なんかとっくに三十路越えしてるし……言葉遣いも汚いし……」
「男言葉でも受け入れてくれる人はいますよ。その内良い人が見つかりますって。ここは元気を出してください先生!」
「立ち直れそうにないから、しばらくそっとしてくれ」
―★★★―
えー、諸事情により鷹田先生は一時退場です。ここからは僕こと黒星研が一人でお送りします。
まずはT君、Y君、Kさんについてでしたよね!
三人ともプライバシーのため本名は出せませんが瀬野君との関係は軽くお話ししておきましょう。
実は三人とも瀬野君の幼馴染で、瀬野君の魅力がどうのとは関係なく仲が良い子達です。
T君は成日中学の中では割とまともな感性の持ち主で、瀬野君が何か悪巧みすればそれにさらに悪乗りして事態を悪化させる生徒が多い中、T君はストッパー役に回ることが多い子でした。それとなくフォローしてくれたり、瀬野君が困っている時の助けになったり、なまじ瀬野君のことをよく知っているだけについつい助けてしまう子ですね。
Y君はノリの良い友達という感じで、瀬野君とくっついて悪巧みをする方の人間でした。瀬野君と一緒に色々やって小さい頃から体を動かすことが多かったため運動が得意だそうです。瀬野君の受験勉強を手伝う時は瀬野君が勉強だけに集中できるよう色々やってくれたみたいです。
Kさんは幼馴染み四人組の紅一点です。気になる恋愛関係については、瀬野君はあくまで幼馴染みだから放っておけないというだけでそう言った感情は無かったようです。彼女の瀬野君に対する認識は四人組のリーダーポジションというもので、瀬野君も特に彼女を意識していませんでした。
瀬野君は四人の中ではいつもみんなを引っ張る(引きずり回す)役で、ガキ大将がそのまま成長してしまったような一面があります。
Kさんは成日高校に進学を希望していましたがちょっと成績が危なかったので瀬野君の勉強を助けながら自分もT君に教わっていました。
T君は成績が良いと言っても葉山高校に合格できるほどではなく、自分には必要ない勉強なのにわざわざ苦労して瀬野君に葉山高校の対策を施していました。
Y君は三人が勉強する横で雑事をこなすだけでしたが意外と面倒見が良い性格で三人とも勉強に集中することができました。
さあさあそんな瀬野君にとって心強い味方でもある三者三様の三人ですが、実際はどうだったかというと、それはもう散々でした。
元々最下位に近い成績だった馬鹿もとい瀬野君を、しかも受験まで約三カ月の時期に実力より遥かにハードルの高い高校を受けると言い出した馬鹿もとい瀬野君をどうにかできるはずもなく。
瀬野君も筋金入りの馬鹿という訳ではなく確かに教えれば少しずつ成績は上がっていくのですが、如何せん元が元ですから間に合う訳がありません。
具体的に言うと葉山高校の入試合格者の平均偏差値が毎年67前後で、最低偏差値はだいたい61です。偏差値40台から三ヶ月で最低60台にしなくてはいけなかったので、目標は偏差値20アップでした。
幸いにも葉山高校は公立ですから私立の様に専門の対策が必要ということは有りません。T君でも教えることは可能でした。
T君はこの際合格さえすればいいと方々手を尽くしました。過去問から出題率の高い問題を覚えさせたり、暗記科目を詰められるだけ詰めたり、最後は運だと言わんばかりに記号問題をやらせたり。それでも最後の模試で偏差値56。合格判定はぎりぎりC。これはもう誰もが駄目だと思いました。
しかしそこは瀬野君。「大丈夫受かるって。何とかなる」と言って葉山高校を受験しました。
私立の受験もせず公立対策に全力を注いでいたのでまさに一発勝負です。偏差値56と言えば成日中学の中ではかなり高く、成日高校はもちろん少し上の公立高校でも安全に狙えそうだったのに、やめろという周囲の声も聞かず瀬野君は葉山高校しか眼中にありません。
幼馴染みの三人はというと最初こそやめた方が良いと忠告しましたが当の瀬野君が気にしていないので、「それならいいだろう」「せっかく助けたんだし無駄にするなよ」「精々頑張りなさい」と彼を送り出しました。あっさり瀬野君の気持ちをを認められたのはきっと四人の間で通じ合うものがあったのでしょう。
そんな絶望的な状況の瀬野君でしたが受験結果はというと、先ほど述べた通り奇跡も奇跡。気まぐれな女神様が十回は行き来したとしか思えない偶然が重なって瀬野君は見事合格しました。
まあぎりぎりアウトと言ってしまいたい程ぎりぎりの補欠合格だったことを本人は知らないので普通に浮かれていたのですが。
幼馴染み三人は驚いたり不思議がったり耳を疑ったり、それでも最後は周りの生徒も一緒になって盛大に祝いましたよ。成日中学では快挙と言っていい出来事ですからね。葉山高校に合格する生徒なんて十年に一人出るか出ないかですよ。
この時ばかりは瀬野君に三年間手こずらされてきた先生方でさえ、「問題児が最後にもやらかしてくれた」と皮肉を含ませつつも呆れ交じりながら喜んでくれました。
―★★★―
「そんな訳で瀬野君の中学三年間は大団円。ハッピーエンドの素晴らしい青春でした。高校時代よりこっちを物語にすれば良いですのにね」
「この作品を真っ向から否定するようなことを言うんじゃない。別に高校時代でも良いだろ。きっと中学時代に負けず劣らず面白くなる……はずだ」
「ああ先生。ようやく復活してくれましたか」
「ちゃんと話は聞いていたから大丈夫だ。黒星一人でやらせてすまなかったな」
おかげで楽ができ……げふんげふん。
「ここからはちゃんと仕事してくださいね」
「モノローグに反応するなと……しかしまだ話すことなんてあるのか?」
瀬野の話は一通り終わったと思うのだが。
「もう少しだけ話しておきたいですね。特に瀬野君が在籍していた成日中学のことはあまり話せていません」
「成日中学か。まだ馬鹿が多い学校としか紹介していないんだよな」
「ええ。それだけでは誤解を生むでしょう」
「まあそうだな」
葉山高校とはほぼ正反対な学校だから私も何かと興味のある学校だ。
「そこでですが、鷹田先生は成日中学に対してどんな印象を持っていますか?」
「ん……そうだな。まずどの生徒も人生を楽しんでいるように見えるな。あの地域の特色というか、みんな難しいことを考えずに好き勝手生きている印象だ」
「そうですね。そういう人達の姿が『馬鹿』に見えるのでしょう。馬鹿かもしれないが羨ましい生き方をしている、なんてよく言われますね」
「あと成績を見ても馬鹿だけどな。まああくまで成績だけの話だが」
「生徒の平均偏差値は48ですね。義務教育機関としては若干問題有りそうな物ですが」
「いくら教師を変えても生徒を生むのはあの土地だからな。勉強が大事という意識が住民の間に無いのだろう。私も彼らが羨ましい」
「転勤してみますか? 鷹田先生は中学の教員免許も持ってますよね?」
「さも当然の様に言わないでくれ。お前が私の勤務先を決められることも個人情報を知っていることも今更驚かないがやはり気分は良くない」
「それは失礼しました」
そもそも成日に興味はあっても葉山高には愛着があるからな。そうそう離れる気はない。
「で、成日中学の話はまだするのか、黒星?」
「いえ、もういいでしょう。そろそろまとめたいと思います」
「別に毎回きっちりまとめる必要もないんだがな……」
★―「皆さん! 面倒な人はここから下だけ読めば今回のお話が分かりますよ!」―★
「いきなりおかしなことをするな! ここだけ読めとか元も子もないだろうが! 今までの話は何だったんだ!!」
一度この型を破らないと気が済まないらしい元教え子をどうにかしなければいけないかも知れない。
「今回のお話のまとめです」
無視か。……もう好きにさせよう。
「成日市とは馬鹿と呼ばれながらも幸せな人間達が住む場所でした。その成日の土地で生まれ育った瀬野君は成日の人々の性格を凝縮しさらに濃くした人物と言っていいかも知れません。無茶苦茶で考え無しですが本人は楽しんで生きている、瀬野君はそんな人間です。そんな瀬野君が今から三年前、葉山高校に入学しました。鷹田先生は葉山高校の生徒を無味乾燥な人間と例えたことがありましたが、瀬野君は味の強すぎる劇薬みたいなものでしょうか。取扱注意、混ぜると何が起きるか分からない。そんな存在ですね」
言い得て妙、なのだろうか? 瀬野のことを少し大げさに言い過ぎな気もする。
「どうです皆さん。瀬野君のことが気になってきませんか? 葉山高校に入学して瀬野君は一体何を起こしたんでしょうね? きっとドキドキわくわくの面白い物語に違いありません。みんなで鷹田先生が語る第二話に期待しましょう!」
「ちょっ、そこで私に振るな!! 散々ハードルを上げて渡すとか鬼畜にも程がある!」
好きにさせたらここぞとばかりに私を困らせに来てしまった。
「楽しみにしていますね」
「だからハードルを上げるな!」
思い切り叫んだので疲れて肩で息をする。
ん? おい! 今この話を読んでいる諸君! 改めて忠告しておく。あまり期待をするな。
もし黒星の流言に騙されて期待してしまった者は申し訳ないが第一回でも読み返して頭を冷やしてくれ。
その第一回でも言ったことだがこの作品はあくまで現実のどこにでもありそうな話を語るだけのものだ。
諸君の近くで今もどこかで起こっていておかしくない出来事、それにちょっと偶然が重なって珍しさが増した程度だ。
いいか! 期待し過ぎるなよ! さもないと筆者も私も心労で吐血するぞ!
「ふう……」
「言いたいことは言い終わりましたか先生?」
「ああ。すこしすっきりした」
「それでは今回はこのくらいにしておきましょうか」
「そうだな。今から正式に引き継ぎも行うとしよう。ほら」
私は黒星に向かって右手を差し出す。
黒星はそれを見て一瞬考えながらもすぐに自分の右手を動かし、二人で握手する形になった。
「これから第一話の語り手をよろしく、終わり」
「また適当な……これも先生クォリティですか……」
そういう訳で次回からは第一話と第二話に分かれて進行することになる。諸君もそういうことでよろしく。
「ではまた次回。私とは新しく第二話で会おう」
「引き続き第一話は僕です。皆さんまた会いましょう」
―★★★―
「……あ。そうだ黒星」
「なんでしょうか?」
「結局瀬野はなんで葉山高校に入ろうと思ったんだ?」
「それも本編・第二話でのお楽しみです」
「私に丸投げするな! なんでさっき話さなかったんだ」
「本編のネタバレが含まれますし、聞かれませんでしたから」
あそこで聞いておけば良かったのか……面倒事が増えた……
「今回楽した分、苦労してください」
「でもわたしは瀬野が葉山高校に来た理由を知らないぞ」
「後で教えてあげますから……」
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……………………
…………
……
本文中にある通り次から第二話も始めます。
ここまで読んでくださった方にこう言うのは何ですが、
「第二話=本編」「第一話=おまけ」という認識でお願いします。