一人目 ― 鷹田英理子は女教師
第一話は毎回一人の人物を中心に物語が展開します。一人目は本作の語り手である女教師・鷹田英理子。
決してヒロインを張れるような年では……じゃなくてキャラではないので語り手に抜擢された彼女にどうぞ親しみを持ってあげてください。
※第一話はおまけ的なもので、本編は第二話から開始します。
何を言ってるのかわからねー御方は「はじめに」でありのまま説明しているのでそちらをご覧ください。
「教えてやる! 東大は簡単だ!!」
このページを開いてくれた諸君にはまずこの言葉をくれてやろう。
そう、ドラマにもなった某有名漫画に登場するセリフだ。バカ高校の不良たちが変人教師どもに教わり見事東大合格者を出す、と。
なんとも奇抜な教育。魅力的なキャラクター達。そして何よりも物語として面白い。
だがこれ、東大を簡単に合格する奴らは他にもいるんだよ。
何の面白味もない、小生意気な奴らが。
そもそもあの漫画に登場する生徒なんて所詮はフィクションだし相当苦労してるし結局東大落ちてる奴もいるし。
それに比べてあいつらときたら高校生の分際で人生分かった気になってるし、東大に手が届くと思ったら勉強して無理だと思ったら割り切ってランク下の大学受けるし。
夢も持たずとりあえず堅実に、それでそうそう悪い人生を送ることにはならないだろうと諦観している。
本当につまらない奴らだよ。問題の一つも起こさない。全く、楽もさせてくれるが退屈もさせてくれる……
自己紹介が遅れた。私は鷹田英理子。某県に存在する県立葉山高校で教師をしている。
担当は世界史。そして、生活指導教員も兼任している。
教師歴はそれなりに長いが私自身はまだ若いと言っておこう。
……嘘ではない。仮に私が教師歴10年を超えるベテランだったとしても私が某子供先生よろしく海外で飛び級して10代から教師を始めたとすれば辻褄は合う。決して仮に私が教師歴11年だったとしても今年34歳という計算になってしまうような事実はない。
ちなみに私は独身だがまだ若いので問題ないのは今の説明で諸君も分かってくれるだろう。そもそも私は結婚なんて人生の墓場とも呼ばれる苦行に興味は無いからな。決して。
さて、学園物らしきタイトルに釣られてこのページを開いた諸君にはのっけから私の愚痴をぶちまけてやった訳だが、今から詳しく話してやろう。
私の勤める葉山高校は県内でも有数、というか偏差値で言えば堂々の第一位を誇るこれぞ進学校という感じの学校だ。特徴といえばそのくらい。
そしてその特徴故にこの学校にはつまらない人間しか集まらない。
先ほど述べた通りこの学校の生徒達はとにかく面白味がない。高校生という枠組みの中で見れば無味乾燥を極めた人種と言えるだろう。
だからこの高校では何も事件が起きない。漫画やアニメの世界で起こるような面白おかしいイベントはない。ライトノベルの登場人物になれるような強烈な属性を持った人間もいない。
つまり諸君がこれから読もうとしている物語は、何の変哲もない現実にも存在する人間達による、ただの高校を舞台にした、等身大のまさに常通りの日常ということだ。
語り手はこの私、鷹田英理子が務めてやろう。可愛い女子高生さえ登場しないほのぼの日常アニメも真っ青の平坦な物語だ。
まあ待て。ページを閉じるのはまだ待て。
さすがに私も悪ふざけが過ぎた。だから読む価値なしと判断してブラウザの戻るボタンやタブの閉じるボタンを押すのは待ってほしい。
これまで話したことは全てまぎれもない事実だが、私がこれから語るのはちょっとだけ面白かった話だ。
幸いなことに私が語る物語の始まりに、一人の馬鹿が我が高校に入学してきた。まあその馬鹿が入学してきたから私もこれを物語として語る気になったのだが。
その馬鹿はおよそこの高校に進学する生徒が現れることは有りえないとまで思われていた、何故か馬鹿しか集まらないある中学校から猛勉強して奇跡的に合格した輩だ。
諸君にも考えてみて欲しい。人生に妥協して安全確実に就職・出世を目指す無自覚エリート達と、目的は同じだが人生の一発逆転を目指して進学してきた馬鹿。
こいつらの価値観の違いが、イデオロギーの対立が、行動の摩擦が、どんな化学反応を起こすのだろうか。
私はあの馬鹿が入ってきた時思ったね。この馬鹿は葉山高校の生徒達に対する起爆剤になると。
私の期待通りに事が運んだかは追々話していくとしよう。
心配しなくても私は世界史の教師だ。歴史の語り手でもある私がこの物語の語り手として諸君を楽しませてあげると約束しよう。
まずは物語の中心となる生徒達について話さなくてはいけないな、あの馬鹿も含めて。
しかしこれで私もなかなか忙しい。後始末もあるし新入生を迎える準備もある。ぶっちゃけ見たいアニメもあるし面倒臭いから今回はここまでにしよう。
私がまた口を開くのを待ってもらうとして、諸君にはそれまで適当に時間を潰していてもらおう。
私のお勧めは「ドラ○ン桜」や「ハンマー○ッション」だな。名作の学園物を読めばこの物語とのギャップも楽しめるだろう。というかもうそっちだけ読んで私の話を聞くのはやめていいんじゃないか? だんだん面倒になってきたし年のせいか記憶も曖昧だしな。
……あ、いや年じゃなくて私の担当教科のせいだな! なにしろ世界中の歴史覚えてなきゃいけないし、若いとはいえ3年も前のことだからな! 少しぐらい記憶が薄れても仕方ない。
私は若いからな! 疑うというなら若さに裏付けられた記憶力による明確な記録を持って君達にこの物語を語ってやろう。次回を楽しみにしていたまえ!